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室温と健康 その3 ~室温と健康リスクの情報整理~

 こんにちは。
Forward to 1985 Energy Lifeの監事で基盤情報作成委員の坂崎です。
 基盤情報作成委員会では、まじめに家づくりに取り組まれている方にとって有益になるであろう情報を整理して、ここのコラムでお伝えしていきます。


0.前回の概要

室温と健康リスクの情報を整理するために、主にインターネット等で公開されている公的な情報などを中心におこない、

の中で取り上げられている室温と健康に関する内容を紹介しました。
 今回は、日本国内で行われた調査研究について紹介します。

1.「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査」の概要

 この調査は、日本国内において断熱改修前後における、居住者の健康への影響を検証し断熱と健康に関する知見の蓄積を目指して行われました。2014年から2019年にかけて実施され、その後はそのデータを活用して長期的な追跡調査が実施されています。
 今も毎年報告会が行われ、室温と健康との関係を調査した各研究で様々な傾向が分かってきています。今回紹介するのは主に2021年までに行われた報告会の内容によるものです。


循環器系疾患と室温

 循環器系疾患と室温との関係は 
①「循環器系疾患」と「血圧」
②「血圧」と「室温」
のそれぞれの関係から知ることができます。

①「循環器系疾患」と「血圧」の関係

 最高血圧が高くなるほど循環器系疾患の発生率は高くなることが分かっています。
 下図では血圧の日間変動(2週間測定した血圧のバラツキの大きさ)が大きいほど、循環器系疾患の発生リスクが高いことが示されています。また、朝と夜の血圧の平均値が大きくかつ血圧の日内変動(朝と夜の血圧の差)が大きいと脳卒中の相対リスクが高いことが示されています。

出典:住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第4回報告会(R.2.2.18)資料

②「血圧」と「室温」の関係
 
 血圧と室温の関係については、以下の知見が得られています。

  1. 室温が年間を通して安定している住宅の居住者は、血圧の季節差が顕著に小さい →年間で血圧が安定している

  2. 冬に日々の室温が安定している住宅の居住者は、血圧の日間変動(日ごとのバラツキ)が小さい → 期間中の血圧が安定している

  3. 冬に夜間の室温低下量が小さい(朝室温が寒くなりにくい)住宅の居住者は、血圧の日内変動(朝と夜の血圧差)が小さい → 一日中血圧が安定している

  4. 冬に日内の室温変化が小さい(室温が安定している)住宅の居住者は血圧の日内変動が小さい → 一日中血圧が安定している

  5. 起床時の室温が低いと起床時の最高血圧が上昇しやすく、高齢者ほど女性ほどその影響が大きい

 それぞれの知見の根拠は以下になります。

  • 1. 血圧の季節性の変動

 室温が年間を通じて安定している住宅では、住居者の血圧の季節差が小さいことが分かっています。下図では、起床時の居間平均室温を冬18℃・夏26℃を境として室温安定群と室温不安定群で比較した結果、室温安定群の方が最高血圧・最低血圧ともに季節差が顕著に小さく、安定していたことが示されています。

出典:住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第3回報告会資料https://www.mlit.go.jp/report/press/house07_hh_000198.html

 

  • 2.室温の日間安定性と血圧の日間変動

 下図では冬の2週間の朝夜それぞれ、室温のバラツキの大きさ(不安定さ)と最高血圧の日間変動の関係を示しています。朝も夜も室温の日間変動が小さい(室温が安定している)方が最高血圧の日間変動(血圧のバラツキの大きさ)も小さいことが分かります。 

出典:住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第4回報告会(R.2.2.18)資料


  • 3.夜間の室温低下・室温の不安定性と血圧の日内変動

下図の右のグラフでは、夜間の室温低下量が小さい住宅の居住者は、朝と夜の血圧差も小さいことが示されています。

出典:住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第4回報告会(R.2.2.18)資料

下図では、日内で室温の不安定性が大きい(1日の室温変化が大きい)ほど血圧の日内変動も大きいことが示されています。

出典:住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第5回報告会(R.3.1.26)資料

これらをまとめると、夜間の室温低下が小さいほど、1日の室温変化が小さいほど、血圧の日内変動も小さい傾向にあることがわかります。


  • 4.起床時の室温と最高血圧

 下の図が示すように、起床時の室温が低いと起床時の最高血圧が上昇しやすいことが分かっています。そして、高齢者ほど女性ほどその傾向が強くなっています。

出典:住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第5回報告会(R.3.1.26)資料

 女性は男性と比べて血圧は低めですが、血圧上昇の程度は男性よりも女性の方が室温の影響を受けやすいことが分かります。
 また、男性も女性も年齢が上がるにつれて、起床時の最高血圧が最低となる室温は高くなる傾向にあることが分かります。


呼吸器系疾患と室温

「住宅の断熱化と共住者の健康への影響に関する全国調査」と他の統計調査を統合したデータから、省エネ区分6地域に属する二次医療圏別の呼吸器系患者数の内訳が示されています。

出典:住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第5回報告会(R.3.1.26)資料

 左側のグラフを見ると、冬の居間平均室温が16℃以上の住宅割合が多い医療圏の方が、呼吸器系疾患全体の患者数も多い傾向がみられます。
 そこで右側2つのグラフを見ると、呼吸器系疾患の多くを占める急性上気道感染症(風邪症候群)が居間平均室温16℃以上の住宅割合と同様に増加している結果の影響が大きいようです。
 一方、肺炎については居間平均室温16℃以上の住宅割合が大きいほど、肺炎患者数は少ない傾向にあることが分かります。


子供の喘息と室温

 下図は子供の喘息と居間の床近傍温度との関係を示しています。床近傍室温を調査データ中央値の16.1℃を境に分けて喘息の有無を比較した結果、中央値以上の子供は、中央値以下の子供に比べて喘息である可能性が半分であることが示されています。

出典:住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第5回報告会資料


血中脂質・心電図異常と室温

 朝5時(1日の中で居間室温が最も低くなる時間帯)の居間室温(床上1m)が18℃(英国保険証の最低室温推奨値より)以上を温暖住宅、18℃未満を寒冷住宅として健康診断データを比較した結果、寒冷住宅の方が血中脂肪(総コレステロール、LDLコレステロール)が有意に高く、心電図異常所見ありとなる確率が高いことが分かっています。
 前述のように寒冷な室温環境は高血圧に繋がり、高血圧の状態が血管壁を傷付けて、そこにコレステロールが沈着して動脈硬化が促進されることによると推測されています。

出展:住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第3回中間報告


過活動膀胱 と室温

 過活動膀胱とは尿意切迫感、頻尿、夜間頻尿、切迫性尿失禁などの症状を示す病気を指します。
 就寝前室温(各就寝時刻3時間前の居間室温平均)が12℃未満の住宅と18℃以上の住宅を比較して、過活動膀胱症状のある人の割合が1.44倍だったことが分かっています。

出典:住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第5回報告会資料

また、就寝前室温の季節差が大きいと冬に過活動膀胱に罹患するリスク高く、夏暑くて冬寒い住宅で暮らすことは冬に過活動膀胱に罹患するリスクが高いとされています。

出典:住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第5回報告会資料


新しい知見(令和4・5年)

今回の記事では取り上げていませんが、2022年2023年の報告会では糖尿病や脂質異常症、血中脂質、心電図異常、子供のアレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎・喘息・中耳炎、入浴習慣(危険入浴)、躓き転倒の発生など新しい知見や情報が示されています。
興味のある方は
2022年(令和4年) 第6回報告会
https://www.jsbc.or.jp/document/files/220218_event_doc.pdf
2023年(令和5年) 第7回報告会https://www.jsbc.or.jp/document/files/230214_event_doc.pdf
で資料をご覧いただけます。

2.まとめ

 このように日本国内で行われている全国的な調査研究からも室温と健康リスクとの関係性は年々知見が積まれて分かったことが増えてきています。
 健康という観点からもいかに最適な室温を設定するかは家庭で消費するエネルギーの約1/4を占める暖冷房に大きくかかわります。そのため、当団体の活動目的である省エネルギーに関連する内容として、「室温と健康 その1その2その3」を記載しました。
 今回収集掲載した情報が、健康リスクの少ない室内環境と家庭での省エネルギーを両立する家づくりに繋がれば幸いです。


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