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未完の最弱武勇伝

「武勇伝」
この言葉を聞いて、思い描くイメージ。
武勇伝とは、勇ましく、晴れ晴れしい成功談を語るものだろう。

聞けば誰もが「おおっ!」と目を見張るような。
良い意味で耳を疑うような。
思わず深読みしてしまうような。
そんなイメージを持つ。

武勇伝。
あぁ、なんてかっこいい言葉だろう。

そして、なんと私に似つかわしくない言葉だろう。
泣きたくなった。
目を背けたくなった。
私が語れる武勇伝なんてものは、張子の虎にすぎない。
風が吹けば飛んでしまう程度の、そんなものだ。
私が成してきたこと、積み上げてきたもの、そんなものはなんてことない。

お戯れのビジネス。
ライターになったとか、ライターを辞めるとか、口では大仰なことを言っているものの、蓋を開けるとなんてことはない。
しょせん、砂場のお山のようなものだ。

吹けば崩れる。
すぐに無へと帰すもの。
悲しいかな、どう足掻いても、私はまだまだ自分というものをどうしても認められない。
いつまで経っても、なにをしていても、それが良いと思えない。

「まだまだ、こんなもんじゃない」
「もっと良いものが作れるだろう」
「なんて自分に甘いんだ」

と、どこまでも自分を追い詰める。
寝ても覚めても、同じことばかり考える。

どうしたら、もっと上手くいくのだろう?
どうしたら、認められるようになるのだろう?
どうしたら、私は私に満足するのだろう?

ここ最近、答えのない迷宮をぐるぐる回り続けている気がする。

二年前と比べたら、私は一定の収入を持てるようになった。
一年前と比べたら、仕事は求めずとも舞い込んでくるようになった。

なんてすごい!
ただの主婦だった私が、今やライターとして収入を得ているなんて!
二年半前には、想像すらできなかった!!
これは快挙だ!武勇伝だ!!!

…なんて、口が裂けても言えない。
そんなことは微塵も思っていないからだ。

私は、自分を飾り立てることに長けている。
だからこそ、ここまでなんとかやってこれた。
自信に満ちた態度をとったり、姿勢を正して凛としてみたり。
そんな「型」を演じるのはとんでもなく得意だ。

でも違う。
私は私という人間を理解している。
私は根っからの怠け者だし、パワーが切れると急に1ミリも動けなくなるダメ人間だし、なによりけっこうな気分屋だ。

恥ずかしくて、情けなくて、逃げ出したくなることばかり。
自分で自分が嫌いになる、毎日がそんな戦いだ。

生きている限り、何かしらの悩みは抱え続けるんだろうけど。

フリーランスとして生きていくとは、大自然の中で自活しろと言われているようなもので。
生命力がないと生きていけないし、本能だけでも戦い抜けない。
毎日がサバイバルで、デッドラインがすぐそこにある。

こんな私の生き方は、かっこいい武勇伝なんかじゃない。
武勇伝と言うには、稚拙すぎる。
未熟すぎる。

私がRPGの主人公だと仮定すれば、きっとまだ初めの村を出たばかり。
草むらに分け入って、ピカチュウと出会ったくらいだろう。
ピカチュウ、それはライターワークに違いない。
私はようやく、ピカチュウをゲットしたところだ。

なのに、次なるポケモンをもう探そうとしている。
なんでポケモンなのか。
ポケモン世代だからに他ならない。

次なるポケモンがどこにいるのか、なにが現れるのか、愚かな私はなにも知らない。
多分、キャタピーとかポッポくらいだったと思う。
攻略本もなにもないので、それすらわからない。

物語が始まったばかりだとしたら、この物語は武勇伝として成長していくのかもしれない。
私の人生はもうそこそこ熟してきている気がするけれど、働き手としてはまだまだこれからだと信じて疑わない。
そうだ、私はこのままじゃ終わらない。

そう、武勇伝は始まったばかりなんだ。
私自身も知らない快進撃を、きっと一年後の私は繰り広げてくれる。
たとえ道を逸れようとも、崖から転落しようとも、命ある限りその物語を止めることはしないだろう。
なんせ、諦めは人一倍悪いのだ。
いつも同じことの繰り返しみたいな気がするけれど、それでも歩みは止めずに来た。
だから、また一歩を踏み出そう。

そうして、最弱の愚者はまた旅に出る。
私の旅は終わらない。

脳内を駆け巡る興奮が、電脳世界を追いかける魅力が、私を旅に駆り立てる。

未完の最弱武勇伝。

仮に、そう名付けておこう。
きっとこの物語は終わらない。
書き手の私が、いつまでも冒険を辞めないのだから。

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