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“共にあった”。それだけでも、生きた証拠。

《前世のお話です》



日本。


銃は知らない。

そんな時代。




私は、小さい村の出身であった。


今と比べれば理解出来ない程の閉鎖的な世界。


その中でも更に閉鎖的。


誰も知らない…深い山の中、道からも遠く外れた場所にある集落。





その集落は、情報を売る事で生計を立てていた。



小さい頃から毒を学び、そして慣らし、人の動きを止めたり、人を殺める方法を学ぶ。

(軽いゲーム感覚のような感覚。悲壮感などない。)



男なら商売人、または戦場に潜り込み情報をかき集める。


女なら宿場町にて情報を集める。




仕事に出るのは交代制。


仕事の際は捉えられた時に自死できるよう、奥歯を少し削り、糸を引っ掛け毒を奥歯に仕込んで仕事をしていた。

(すぐに溶けない油紙に毒を巻いて歯に括り付けておく。)




仕事が無い時は地畑を耕し作物を作る。


また、礼儀作法や学を学ぶ。



そして…剣術の稽古。


剣術の稽古は珍しく外部から「先生」が来ていた。


先生は噂では一山向こうに道場を持っていて、どんな縁かは知らないがたまに教えに来ていた。

それは、暗殺ではなく、“普通”の剣術で欺く方法を教える為に。


すぐに暗殺方法だとバレてしまう。


それは普通の門下生を演じる際に必要な技術であった。



(漫画やドラマなどであるストイック過ぎる修行では無いです。)



処理が面倒なので殺しはほとんどしない。


ただ、自分の命は軽いものだと教え込まれていた。




私の名前は「かや」。年は16。



親子のふりをして動く仕事は幼少期から。


単独での仕事は2年前くらいから仕事をしている。



長くても潜入は2ヶ月程度。

その時によって場所は違うが、

今回はいつも世話になる夜の花街から帰ってきた。


西の國に不穏な動きがあると聞いたので情報を集めていたが、結局は何も無かった。



かやには父母がいない。

というか、分からない。

皆がそうだった。


大人はいたが、誰から産まれたのか、外から捨てられてここにいるのか分からない。



別に疑問にも思わなかったし、そういうものだと思っていた。



住まいはいくつかあり、だいたい誰がどこにいるかは分かっていたが自由に行き来していた。


大きい屋敷には長がいて、そこにも子どもたちが転がり込んでいた。




私自身は、同世代の女と一つの屋根の下で暮らしていた。



仕事から帰ると、皆喜んで迎えてくれる。


珍しい街の菓子などを持ち帰り、話に花を咲かせた。




仕事は長から伝えられる。



仕事へ送り出し、そのままいくら待っても帰って来ない者もいた。


寂しいとは感じるが、“そんなもの”と思っている。

次は自分の番だと。


覚悟をもって生きるという事はそういう事か。


それとも感情が軽薄で冷たいだけなのか。






ある日、剣術の先生が来て剣の稽古をしていた。


里の者以外の出入りが許される人は少ない。

先生はその数少ない外の者であった。


先生は若く、寡黙であったが整った顔をしており、若い女達の中には本気で熱を入れている者もいた。


周りの男達が集団で打ち合っても先生は負けた事が無かった。

それ程洗礼された剣の腕をもっていた。


何の縁でこの里に出入りしているのだろ。

謎ではあったが、誰も聞くものはいなかった。



時間を区切り各々程度に合わせて稽古をつけて貰う。



女も稽古は受ける。

いざという時に動けないと駄目だ。


私の番がきた。

今回短剣で打ち合う指導であった。



珍しく今回は真剣。


しかし、動きの確認のような動作になるので本気で打ち合っていない。


私もある程度は手馴れていた。

いつもの稽古であった。



打ち合っていた途中、強く打ち返してしまい、踏み込む足がふらついた。


次の瞬間、先生の左目下を切りつけ刺してしまった。



返り血を浴びハッとした時には先生は仲間に運び込まれていた。


「大丈夫だ。騒ぐな。」


と、遠くで先生の声はしたが皆が集まっていた。



稽古でも先生が怪我をするなど今までに無かったので、騒然とした。






その日から数日先生は村に滞在した。



熱が出た。


元々体調がすぐれなかったのかもしれない。


落ち着くまで時間がかかった。


切りつけてしまったが眼球は無事だった。しかし傷は残ってしまいそうであった。



しばらくの先生の世話を許された私は、呼吸浅く眠る先生の汗を拭き、見守る事しか出来なかった。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜

続きます。






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