見出し画像

近藤健介とはファイターズとってなんだったのか?

トップ画像は
https://baseballking.jp/ns/351763 よりお借りしております。

皆さんどうもご無沙汰です。フォックストロットです。
今日はこのタイトルなので、近藤健介の話です。まあ聞いてください。

とりあえず、ファイターズから近藤健介がいなくなった経緯はもういいでしょう。ここには誰もが納得できる回答は存在しないので、僕は書きたくありません。

そんなことよりも、ファイターズは近藤健介を失ってもうダメだ、というふうにご覧になられる方々も多い昨今、ずっとファイターズをウォッチしてきた箱推しの僕が「は?全くそんなことないが?」と思っている理由を申し上げたいのです。ファイターズにとって近藤健介という穴は確かに大きいんですが、逆に考えれば、近藤健介がいても去年は「打線が弱い」チームで、「点が取れない」チームで、「最下位のチーム」だったんですよ。近藤だけでどうにかなる問題ではないけれど、近藤がどうにもできなかった問題でもあるんですよ。

今朝こういう記事を見ました。
「日ハム時代は中軸を打つしかなかった」。
「役者揃いのソフトバンクであれば、本当に近藤に適した打順を打たせることができる」。
いやまあおっしゃる通り。ぐうの音も出ない。昨年のファイターズは初め、この記事の言うように近藤を「適した打順」である1、2番に置いて、まだよちよち歩きの清宮、ひよっこの万波、野村、という所で返すイメージで打線を組んでいた。が、開幕から連戦連敗、案の定全く機能しない。
チャンスで点を取るということがいかほどに難しいかと思い知らされる羽目になった。
それでももがき続け、幾つかの死闘を経て(阪神戦、ヤクルト戦はひよっこたちをとても大きく成長させた)、上川畑とか、怪我から復帰した野村、オールスターでも輝いた清宮がやっと半人前くらいにはなった。
その間近藤健介はというと、今年もけがをして、5/3から6/28までスタメンから名前が消えた。しかし彼ほどの打力を捨て置くわけにはいかない。復帰後、点のとれないファイターズでの彼の役割は主に3番。「返す人」になった。まだきちんとコンスタントに打てる人が見当たらなくて、近藤がどれだけ出塁しても返す人が打線にいなかったから。だから彼を「返す人」にしなくては点が取れなかった。正直困窮していた。だから先述の指摘は的を射ている。ファイターズは近藤に頼むしかなかったんだ。

しかし、だ。結果はどうだったろうか。頼んでみたものの、近藤健介の3番は想定通りハマっただろうか?答えはNOだ。復帰後は出場すればコンスタントに四球を選び、派手ではないもののヒットを重ねていたが、正直な話、僕らは「物足りなさ」しか感じていなかった。
セイバーの数字を調べてみたが、当然のことながら近藤健介の数値はどれをみても素晴らしい。正直他の選手をぶっちぎっていて比較にならない。それでも僕は不満だった。なんでだ?

近藤健介はかの大谷翔平をして「天才」と言わしめたバットマンだ。一度バットを振れば打ち出の小槌のようにヒットが溢れ、際どいところはことごとく見極めて四球にしてしまう。気がつけば塁にいて、左手で顔を隠す。人呼んで「近藤大明神」。ひと昔前は間違いなく打線の核だった。僕が近藤健介の一番脂の乗っていた時期は2019〜2020だと思っている。特に2020は108試合で126安打、出塁率は実に.465、OPSは.934と、とんでもない成績。この時の彼は、直球だろうと緩い球だろうと何でもレフトへ弾き返す、ほんとに隙のない天才打者だった。
そう考えると、僕の期待は「そんな彼が打線の中心に座ったら、あらゆるチャンスをものにしてくれるんじゃないだろうか。こんな若いチームでも、彼のバットで勝たせてくれるんじゃないだろうか」という期待だったのだ。

先ほど僕は「一昔前」と言ったが、今の近藤健介はヒットメーカーではない。すでにキャリアの成熟期に入って、2021ごろからモデルチェンジしている。具体的には
・これまでセンターから左に偏っていた打球方向が5%ほど右寄りになった。
・打球にフライが増えライナーが極端に減り、弱い打球が5%弱増えた。
ここから得られる情報はただ一つ、「打球を引っ張って打ち上げている」こと。
おそらく、2020年の終わり頃から、彼は手首を痛めていた節がある。公式にリリースはされていないが、試合中にベンチに下がった際に手首に低周波治療器を巻いている姿を姿を確認したことがある。先ほどの特徴の変化はその翌年2021年から、顕著に現れたもので、2020→2021のLD%(レフトへの打球)は14.1から8.4と実に6%も減少しており、2015から2020まで続けてきた打撃の考え方をここで改めたのがわかる。近藤のすごいのはここで大きな方向転換をしているにもかかわらず、勝利貢献度がほぼ変わらない(2020→2021 4.1→5.5)点だ。

そう、変わらない。
近藤は2021で大きく打撃の方針を転換した。これまでのレフト方向への芸術的な流し打ちによる安打の量産をやめ、ストライクゾーンの球により積極的に手を出して引っ張り、ボール球の見極めはさらに精度を増した。ライナーよりフライでスタンドインを意識する打撃スタイルも取り入れ、その結果20年から21年、打席が78打席増えた中でヒットは7本増加、HRは6本プラスの11本となり、打席増の分打率は三割を切った(20→21 .340→.298)。
しかし、打率が減っても勝利貢献度は+だったのは先述の通り。真逆の方向に打撃の性質を変えても打撃の中身がほとんど変わらないのが近藤の技術力の高さを示している。結局今年の成績も21年とほとんど変わらず、出場試合数が99試合、打席数が396と減らした分打率が少し戻ってまた三割に乗せて終わった(.302)。

その間チームの成績はというと改めて振り返るまでもなく低迷。近藤は変わらず存在しているのに、打撃のチーム成績は一向に上向かなかった。投手は苦しみながらも耐え忍んでいる。低迷の原因は間違いなく貧弱な打線(2022年チーム総得点463は11位/12球団)にあった。点が取れない。近藤の得点貢献度は変わっていない。

—上積みができない。

近藤健介はファイターズというチームにおいて、プラスアルファの価値を生み出せなくなっていた。もちろん若く経験の浅いチームメイトが増えた分、これまでの成績を維持できているだけプラスではあるが、近藤健介である。あの大谷が天才と呼んだ、期待のバットマンなのである。もっとできるはずだ、もっとやれるはずではないか。期待したのは、打線の核として、先頭に立って味方を鼓舞し、勝利に近づく打棒を振り続け、他球団の投手の脅威となる存在感を示す近藤健介の姿ではなかったか。周囲の選手に良い影響を与え、チームリーダーとして、フランチャイズプレーヤーとして新球場元年へ邁進する姿ではないか。
しかし現実は若手が張り切って結果を出すたびにどこか存在感を薄くしていくばかりで、その姿はオフの別れを予感させるには十分だった。

確かに昨年、BIGBOSSは「優勝なんか目指しません」とは言った。
だが同時に「1日1日地味な練習を積み重ねて、シーズンを迎えて、何気ない試合、何気ない一日を過ごして勝ちました。勝った勝った勝った勝った…。それで9月の辺りに優勝争いをしていたら「さぁ!優勝を目指そう!」と。」とも言っている。
そして9月、優勝が消滅した日にこう振り返っている。「今年に関しては、みんなが経験を積んで成長する。『優勝を目指さない』じゃなくて、目指せなかった」。
「勝たなくていい」などとは一言も言っていない。目指す目指さないの前に、目の前の勝負一つひとつを積み上げることすら満足にできなかったと言っている。足元の一勝も満足に拾えないチームがシーズン始まる前から「優勝目指します」などとぶち上げたところで「まあ言うだけタダだよな」というのが僕の偽らざる気持ちだが、近藤の受け止め方は違った。「だって優勝めざさないんでしょ」とオフに入ってから放送されたローカル番組で語る近藤の姿は、僕が彼に勝手なイメージで期待ばかり押し付けていたことを恥じるに十分だった。

それが示すことはただ一つ。近藤健介はチームを背負えなかった。というか僕らが勝手に彼のパーソナリティを過大に評価して、近藤が当然にやってくれるものだと必要以上に背負わせようとしすぎた。そもそも近藤健介ってのは元々ゲームチェンジャーじゃないんだ。分かっていたことだけど見ないようにして、そうあってくれるように願っていたけど、ゲームの中で主役を張れるような目覚ましい活躍をするタイプではない。1年間を通してコンスタントに数字を刻み続ける職人肌の男だ。そんな男に主役になれと言わんばかりに「主軸を打」たせるしかなかったファイターズ。結局主軸を担わざるを得なかったここ3年ほどは、悔しいけど彼がゲームを決める試合は年に数えるほどしかなかった。そこは「適正な打順」ではなかったのだ。
ついぞファイターズは彼に正しい働き場所を用意することができなかった。期待の天才打者を使いきれず、みすみす逃してしまった。育成サイクルの立て直しにもう少し早く取り掛かっていれば…中田の素行にもう少し気を配っていれば…彼を主軸として無理に表舞台に引き摺り出すようなことを強いるような羽目にならなくて済んだかもしれない。今となっては全てが後の祭りである。

移籍先のホークス、藤本監督は近藤の打順イメージを「柳田の前」と言う。
近藤健介を打線の主軸に位置付けるのではなく、あくまでチームの真ん中には象徴たるギータがいて、それをどう活かすかと言うポジションについてもらう、という使い方はそれこそ近藤を生かすためには最適な布陣だ。

ファイターズにとって近藤健介とは一体なんだったのか。
かつては未来のチームリーダーと目していたが、結論としてファイターズというチームで相対的に見た時、近藤健介はチームリーダーにはできず、むしろそうするためにしては「良くでき過ぎたコマ」なんだと思う。
チームが新陳代謝を進めて生まれ変わろうとする時、実力からして年齢の上の選手が相対的に主役になってしまうことがあるが、たいてい当の本人にはそういうふうになるつもりがない。ないのに役目ばかりが覆い被さってくるとそれはその選手にとってはノイズでしかない。近藤健介は淡々とチームのために、自分のために、勝利のために日々を積み重ねてゆく。特別に何かを変えてゆくのは彼らしくない。彼が彼らしくあるためには常に同じ強さの光が必要だ。彼自身の輝きは変わらない。変わるのはいつだって周りなのだ。
僕らが夢見ていた近藤健介との蜜月はそもそも絵空事に過ぎないものだった。彼が去った今、僕らはもう誰にも頼れない。今足元にある小さな夢のかけらをBOSSと一緒に拾い集めて、大きな太陽に立ち向かわねばならない。夢のかけらはちゃんと大きく輝いてくれるだろうか。いや、光らせるしか、光るしかないのだ。幸い、残された希望の光は決して小さくない。また一から大事に育てていくのもまた、ファイターズの楽しみなのだと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?