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#7生涯賃金から住宅を資産としてとらえる考え方

住宅取得を間近に控えた方からの相談は多いが、基本的にはご家族の価値観や考え方を尊重したアドバイスをしている。ただ判断材料が少なく、客観的な判断が難しい状況であることを踏まえ、ご要望を聞いた上で、考え方に反する情報を提供することもある。

マイホームに対するこだわりを持つご家庭もあるが、住宅を資産としてとらえた場合にはマイホームに対する見方が変わるかもしれない。

1 退職までに稼ぐことのできる金額はある程度わかっている

成長企業の取締役社長や資産家を除き、一般企業に勤めている人や公務員はある程度、生涯賃金に上限がある。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」をまとめたユースフル労働統計(2018)の生涯賃金は次のとおりだ。

出典:ユースフル労働統計(2018)

大学・大学院卒の男性が2億7,000万円、女性が2億1,600万円である。この金額は平均値であり、高所得者の影響を受けやすいことから、多くの人はここまでの生涯賃金には到達しない。この平均値を超えるためには、年収1,000万円を超える必要がある(資料1)。

<資料1 年代別の年収と達成できる生涯賃金の例>

つまり、限られた生涯賃金をどのように使うかを考えなければならず、希望する住宅があったとしても、手に入れてしまうと他の支出に影響することがあるだろう。特に退職後の必要資金額は、人生の後半で必要な最も大きな支出額になるため、ライフプランを立てていなければ、退職間近でようやくお金の使い過ぎに気づく可能性もある。

生涯賃金を考えると、あえて資産が減ることが分かっている住宅に支出をするかどうかが課題となる。

2 資産としての住宅

住宅は生活の基盤となるため、資産という一面だけで選ぶことは難しいかもしれない。家計の資産と負債の関係を確認するときには、企業と同様、バランスシートを作成する。

(1)は住宅ローン借入当初、(2)は資産価値が下がった住宅の場合、(3)は資産価値が変わらない場合である。一般的な住宅は(2)のケースが多いが、家屋部分の価値は購入直後に下がるため、融資残高の減少よりも資産価値の減少の方が大きくなることがある。

しかし。私が相談を受けた人の中には(3)のように取得価格より売却価格の方が高い住宅に住んでいる人もいた。共通している点[*1]は、

・駅近など立地条件がいいマンション

・築年数5年程度と築浅の段階である

である。立地条件が良いため、取得価格は高くなる。

[*1]追加する可能性あり。

3 資産価値が上がったら売却する

中古マンションを希望している人が一定数いるため、中古マンションとしての価値があるか、中古でも買いたいマンションかどうか、客観的に判断する必要はある。

一般的に住宅取得を考えている人は生涯の住処にしようとしているため、築浅であるほど資産価値は高止まりする。相談者と同じマンションに住む人の中には、マンションを売却して新しい住宅に引っ越した人もいるとのこと。

4 住宅を資産と考える場合の注意点

不動産投資とは異なり、居住用としての住宅であるため、借入利率は低く、他の利率と比べると、負担は軽い。

念のため、住宅を資産と考えた場合の注意点も挙げておく。

(1)不動産の売却時に諸費用がかかる

不動産の売却で利益があると譲渡所得として所得税・住民税がかかり、仲介手数料など諸費用もかかるので、このことも考慮する必要はある。

(2)返済負担が重くなる可能性がある

立地条件が良い不動産は割高なので、返済負担率が上がる。ある程度の余裕がなければ、生活の基盤が不安定になってしまう。

(3)一戸建ては難しい[*2]

最寄り駅までバスや自家用車で20分など、基本的に郊外にある一戸建ての場合、資産価値を維持するのが難しい。

[*2]これだけだと説得力に乏しいため、統計データがあれば提示する予定。

(4)資産価値が想定より上がらない可能性がある

不動産の価値は市場の需給で決まるため、不動産会社に勧められるなどして購入したとしても、資産価値が上がるとは限らない。ただこの場合は、通常通り住み続ければよい。

また資産価値が上がる可能性の高い住宅を紹介してもらえる、信頼できる不動産会社選びが難しいかもしれない。

(5)資産価値に重きを置きすぎるのもリスク

住宅探しをしているうちに、期待以上の住宅が見つからず、たまたま出合った値上がりしそうな住宅が高額であっても、思いとどまることができないかもしれない。収入に見合う住宅を購入することが基本となるので、この点は十分に注意しなければならない。

またリフォームされた築浅の中古マンションであれば、さらに住宅取得の負担が減るかもしれないため、新築にこだわりすぎるのも問題となることもあるだろう。

5 資産価値が下がる住宅の注意点

住宅を資産として全く考えない場合も問題がある。

(1)借り換えがしにくくなる

新築の場合、資産価値よりも人属性(年収や勤続年数など)が重視されるので気づかないかもしれないが、借り換えの場合は、不動産価値から融資金額が決定される。そのため、住宅ローンの融資残高より住宅の資産価値の減少が大きければ、融資残高全額を借り換えられない可能性がある。

(例)

住宅ローン融資残高2,500万円 資産価値2,000万円

⇒資産価値2,000万円なので、融資額は2,000万円で残り500万円は手持ち資金から返済

担保評価割れ相当額や諸費用もローンが組める金融機関があるため、借り換えができないわけではないが、負担は確実に増える。

(2)住宅の買い手が見つからない

住宅取得後も親の介護など何らかの理由で引越しをしなければならなくなり、買い替えをすることがある。買い替えは、売却と購入をほぼ同時に行うのが理想だが、立地条件が悪すぎると買い手が見つからず、新旧の住宅ローンを二重に支払う可能性もある。

6 何はともあれ、キャッシュフロー表を作成しないと判断材料に乏しい

住宅を資産として求めるには、退職後の収支を含めたキャッシュフロー表を作成し、収入が上がらない場合、上がった場合など考えられる条件でシミュレーションし、家計の様子を眺めてみることが大事だ。

資金計画さえ立てておけば、住宅の値動きに頭を悩まさなくても、退職後の資金準備が十分だと分かれば無理をする必要がないと判断できる。住宅だけで考えてもらちが明かない場合は、家計全体を考え、他の選択肢と比較すると解決することがある。

※このテーマについては、もう少し調べて、さらに深く考えたい。

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