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ピカソの「ゲルニカ」に思いを馳せるなどした2022年8月に出会った本など

もう9月も後半に差し掛かったタイミングで、自分はなぜ8月の記事をあげているのか。どうしてもっと計画的に文章を書くことはできないのか。

そんな自責の念に駆られ、某カフェにてティラミスを食べ、アイナナの曲を聞きながらかたかたと文章を打っている。頭では早く書かなきゃと焦っているのに、なんだか優雅に過ごしていて行動が追いついていない気もする。それでもティラミスはおいしいからふしぎだ。

2022年8月に読んだマンガ

ツンデレ悪役令嬢リーゼロッテと実況の遠藤くんと解説の小林さん 5巻

Comic Walkerで連載を追いかけつつ単行本も買ってしまう漫画。リーゼロッテがかわいい。おまけ漫画の破壊力たるや。あと小林さんもいい子。アニメ化おめでとうございます。

逃げ上手の若君 7巻

相変わらず狂気のある人を描くのがうまい。主人公と仲間たちが可愛らしいのに、敵陣のおっさんたちが見事にやべぇ面してるの本当にギャップ。そして理由もわからず滅ぼされる鎌倉幕府かわいそすぎる。

魔入りました入間くん 28巻

約1話分重々しい一族の歴史を振り返ったあげく、見開きまるまる使って「モテたい」とアピールする漫画がいまだかつてあっただろうか。
登場人物それぞれに見せ場がある漫画は楽しい。しかも自分の欲望に忠実で、でも人を貶めることがないのがよい(一部のヤバい奴は除く)。

ジーンブライド 2巻

わたしは自分が所属するコミュニティに属さない人は全員他人だと思っていて、さらに道行く人などはどこか遠い星の人だと思っている節がある。だから他人から自分に向けられる無意識の悪意や傷つけようとする気持ちにすぐ気付けない。「おや?」と思うことは人生でいくつかあったけど、なんとなくそのままにしてしまう。

でも他人に打ちのめされたり損なわれたりする人がたくさんいて、その損なわれたことに対して全身で怒りをぶつけているのがこの漫画。思いがけないSF的要素も相まってすごく目が離せない。

ONEPIECE 101巻~103巻

これまでアプリと電子書籍で読んでいましたが満を持して紙書籍で購入。理由はこちら

読むのに1時間くらいかかる大ボリュームさよ……。これが500円くらいで買えるんだから安すぎる。ワノ国クライマックスであると同時に、最新刊ではゴムゴムの実の正体についても言及。どこでそんなアイデア思いつくの?天才なの?

太陽の神として覚醒したルフィさん。描き込みが減ってシンプルな絵としての表現が、モノクロアニメとかそれこそ創成期のマンガっぽい感じになっていて、個人的には魅力のつまったデザインだと思います。

月刊少女野崎くん 14巻

恋愛を自覚していないのにお互いがお互いのことを好きでわちゃわちゃしている関係性からしかとれない栄養素があると思う。そしてそれを摂取できるマンガが『月刊少女野崎くん』。

演劇部の堀先輩(小さいけど男前男子)と鹿島くん(イケメン女子)がわたしの推しなのですが、ふたりが仲違いする回が最高すぎてニヤニヤがとまらない。

あと、ONE PIECEの後に時間差なしで読んだので、感情の振れ幅が突然、笑いとトキメキに振り切ってギャップがすごかった。 

凪のお暇 10巻

ふわふわの絵柄と相反して、的確に心をえぐってくるマンガ。「価値観のアップデート」「会話の投てき板」「男と女どっちが生きるのつらいのか」「他己肯定感の搾取」「夫人会を装った点検」「良妻賢母のゴリラ」「人の形をしたゴキブリ」ってパワーワードが過ぎるのよ。唯一の救い(?)は主人公の凪ちゃんが現時点で前向き思考にあることくらいなのでは……。

紛争でしたら八田まで 10巻

地政学をとプロレス技を駆使して世界をまたに駆けるコンサルガールマンガ。

今回の舞台はイランとカナダ。特にカナダでは様々なルーツをもつ学生が通う学校において発生した、民族ごとのクラス分け施策をアメリカ大統領選挙方式である間接選挙で解決するエピソードが面白い。

次巻ではコロンビアとスイスに行かれるらしい。ワールドワイドだ。

ダンス・ダンス・ダンス―ル 24巻

びっくりするほど毎回面白い、すごい。作者は天才。知ってる。

中だるみすることなく、毎回すごく激熱のエピソードと最高潮の盛り上がりを見せてくる。

今回は、『コッペリア』という演目のおいて、主人公が最高以上の演技を見せていてテンション爆上がりしたけれど、ページが進むにつれて「やや過剰すぎないかな…?」とじわじわ不安感をつのらせていたら、次回予告が不穏 of 不穏だった。予告を含めて心を乱してくるよね。最高です。

アカネノネ 1巻

twitterで作者が1話を公開しており、読んだらまんまとハマってしまった。速攻で1巻購入。

主人公は有名音楽プロデューサーで天才ギタリストの息子・茜音。自分の手で音楽を表現し誰かに届けたいと作曲をするも、父に比べて自分が凡才であること、そして父と比べられる現実に辟易し、人との関わりを避けている。そんな主人公が自分の素性を隠してボカロPとして投稿した曲をひとりの少女が「歌ってみた」ところから物語が始まる。

帯には「己の”才”に悩むすべての人に捧ぐ」。現代の音楽業界を描きながら、自己表現として音楽を選んだ人々の葛藤を描いた作品。音楽にだけでなく創作に関わったり触れたことのある人なら誰しもが感じたことのある感情に共感してしまう。エモい。エモすぎる。2巻もめちゃくちゃ楽しみ。

あおのたつき 9巻

舞台は江戸時代、浮世と冥途の狭間にある『鎮守の社』に迷いこんだ少女の姿の遊女・あお。宮司の楽丸と“わだかまり”をもつ人々の魂を救済する時代劇調ファンタジー。作者は日本画を専攻していたということもあり、すこし絵巻というか浮世草子のようなテイストを感じる画風で、それだけでも惹きつけられるのに人情味と哀愁ただよう物語に面白みを感じます。好き。

9巻では江戸時代に実在した刀の試し切りを家業とし死刑執行役も務めた山田浅右衛門の五代目・吉睦を題材としたストーリー。死刑執行人として人切りを行い、そしてその亡骸も国のため、そして自分の家のために用いることに対する業を背負う様子と、一方で地位だけを求めてその後を継ごうとする次期当主候補が己の欲に走る業も対比的に描かれている。ていうか次期当主候補の気味悪さが尋常じゃないのよ。

フィクションであるとわかっていながら、当時の人の生きる上での苦悩やそれこそ本作のテーマである“わだかまり”を追体験しているような気持ちになる作品。

土かぶりのエレナ姫 1巻

人はなぜ異世界転生令嬢もののマンガを買ってしまうのか。
流行りに乗ってなるものかという、あまのじゃく精神を発揮してしまいつつも、面白そうと思うとついつい手が伸びてしまう。

確か本作品は、東西線の車内広告でも掲載されていたので、試し読みで見つけたらそれは読んでしまうというもの。そしてまんまと買ってしまうというもの。仕方がないね。

前世を日本で生まれ過ごすも病気のため亡くなってしまった主人公。生前の夢は農作業をすること。転生先で健康な身体を手に入れた主人公エレナは、生前の夢を叶えたいと思うも、令嬢として結婚することが決まっていた。そんななか、農園を見るために飛び出した先で王子と出会い、そして突然ドラゴンが出現し土地を焼き払ってしまう。エレナは農作業知識を活かして土地を救うことを決意する。

――いや情報量多いな?これにトキメキロマンスも並行して動くからすごい。全2巻で完結しており、よくぎゅっと圧縮したなと……。2巻の感想は次月分で。

2022年8月に読んだ本

暗幕のゲルニカ

人類は、有史以来、互いに憎しみ合い、争い続けてきた。いつの時代にも戦争があった。戦争を仕掛けるのはいつでも為政者であり、市井の人々はただそれに巻き込まれて戸惑い、悲しみ、傷つくばかりだった。
このままではいけない。これからは、自分たちの声で平和を叫ぶんだ。
闘うんだ。「戦争」そのものと。――自分たちの力で。

原田マハ『暗幕のゲルニカ』

「ゲルニカ」を初めて見たのは確か中学校のとき。歴史の教科書だか便覧だかに載っていたのかふと目に止まったときだと思う。そのときは、描かれた背景だとか、そこに込められた想いだとかは知らず、本当にただ、ふと目に入っただけだった。でも、その印象的な作品が気になり、ページをめくる手を止めて、絵をじっと眺めた記憶がある。そして小さな文字で書かれた解説を見て、空爆の犠牲者を描いたものであるということを知った。

正直、絵に詳しくない私でも、そのインパクトから長年頭の片隅にゲルニカの記憶は残っていたと思う。おそらくそんなふうに、授業中に目を留めたり、なにかのきっかけでこの絵を意識した人は多いのではないだろうか。

そんな頭の片隅に存在していたゲルニカの解像度を一気に高めてくれた小説が、原田マハ著『暗幕のゲルニカ』。第二次世界大戦当時、ゲルニカを描いたピカソの様子をその愛人のドラの目線と、ニューヨーク同時多発テロで夫が犠牲となった日本人キュレーターの八神陽子の目線で、「ゲルニカ」を巡る物語が展開される。

タイトルである『暗幕のゲルニカ』は実際に起こった出来事。同時多発テロを受け、イラク攻撃を宣言する当時の国務長官コリン・パウエルが国連安保理のロビーで記者会見を開いたときに、背後に飾られていたゲルニカのタペストリーに暗幕が掛けられていたのである。小説内では下記のように描写されている。

パワー国務長官の背後に掛かっていたのは「暗幕」だったのだ。
アメリカがイラクに対してついに武力行使をする、それを国務長官が世界に向けて発表する場面から、何者かが<ゲルニカ>を消し去った。
そして、その意図はあまりにも明白だった。
空爆を仕掛けると発表する場面の背景として、人類史上初となったゲルニカ無差別空爆を避難する絵はあまりにも不似合いだ。

原田マハ『暗幕のゲルニカ』

この作品は、「ピカソ」と「ゲルニカ」という誰もが知る芸術家と作品、そして「ゲルニカのタペストリーに暗幕がかけられた」という事実を土台に、壮大なフィクションを展開している。

作者も東洋経済のインタビューで下記のように発言している。

この作品は、物語の根幹を成す10%の史実でフレームを固め、その上に90%のフィクションを載せるスタイルを取っています。この10%を作り込むのにものすごい労力と時間を費やします。徹底的に取材するし、資料や文献も読み込む。巻末の文献リストなどほんの一部だし、詳しい話をご存じの方がいると聞けば西へ東へ駆けつける。フレームさえ強固なら、フィクションをどれだけ積み上げても必ず支えてくれる。

東洋経済オンライン「ゲルニカは、なぜ世界一借りにくい絵なのか

参考文献のあとに架空の人物に対する記載があったが、「え、この人実在しないの?うそやん存在してるでしょ?」と思ってしまうくらい。

同時多発テロ発生後の二十一世紀と第二次世界大戦下の二十世紀を行き来する構成に、作品に対する知識、世界情勢、そして二人の女性が見つめる戦争に対する視点。すべてが綿密に描写されていて、どこまでが事実でどこからがフィクションなのか考えるのももったいないと感じてしまう。

物語の主人公の一人である八神陽子は、MOMA(ニューヨーク近代美術館)のキュレーターとして、「ピカソの戦争:ゲルニカによる講義と抵抗」展を企画し、ピカソがアートの力で不条理な武力行使とどのように闘ったのかを紐解こうとする。そしてそのためにスペインより門外不出の「ゲルニカ」をニューヨークへ展示することを目指す。

そしてもう一人の主人公、ピカソの愛人ドラは、ピカソが「ゲルニカ」を描く様子をフィルムに収める。

「ゲルニカ」を通して描かれる戦争と武力、そしてそれをアートの力でもって抵抗する登場人物、そしてそれを描こうとする筆者の熱量に圧倒された。現在の社会情勢化のなか、この8月に読むことに非常に意義を感じる一作。

まとめる気のないまとめ

『暗幕のゲルニカ』、今思い返しても本当に良い作品。しかしもう9月も半ばなのですよ。「8月に読むことに」とか偉そうに言っている場合ではない。

とはいえ、8月はマンガの新刊が多く、『暗幕のゲルニカ』については書きたいことが多すぎて、正直文章を書き終わる気がしなかった。このタイミングだけど書き終えた自分を褒めたい。でないとだれも褒めてくれない。ご褒美にまた、ティラミス食べるしかないな。



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