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『葬送のフリーレン』13巻が切なすぎないかい?

『葬送のフリーレン』12巻の破壊力にやられ、ほぼ毎晩のように12巻を読み続けている人間がいる。それは誰か。私だ。

何度読んでも素晴らしすぎる。楽しい旅のはずなのに、切なさと郷愁を感じてしまう。

そして先日、13巻が発売されてしまった。12 巻により情緒が乱れまくった人間は、続巻を読んだときどうなってしまうのか。

前回の感想は極力ネタバレなしで書いたので、今回はストーリーに触れながら感想を綴っていこうと思う。

13巻をまだ読んでない人――いないとは思うがもし仮に万が一いるとしたら――、回れ右をして書店に駆け込んできてほしい。そこには平積みで『葬送のフリーレン』13巻が並んでいるはずだ(今なら特典のシールも付いてくる)。

『葬送のフリーレン』13巻特典バズコマステッカー

『葬送のフリーレン』13巻感想

さて感想であるが、まずは「せつねー!!!」の一言である。

12巻では、「女神の石碑」に触れたフリーレンが時を遡り、80年前のヒンメルたちと再び旅を共にする。勇者一行はフリーレンが現在に戻るための方法を探し、そして「女神の石碑」にもう一度触れ、時を越えて刻まれた魔法の言葉を詠唱するという結論に辿りつく。しかし、あと少しのところで強敵に行く手を阻まれてしまう。

13巻では、過去から現在に戻るまでの過程が描かれているが、あまりにも切ない。切なすぎる。前回のnoteでも書いたが、どうにもできない過去の想いにふれるのは、本当にやりきれない。

特に勇者ヒンメルに感情移入し過ぎてしまい、あんまりにもあんまりな気分(語彙力)になってしまった。気持ちの整理も兼ねて、いくつかポイントに分けて書いていきたいと思う。

ヒンメルの「決して叶わないと諦めた、幸せな夢」

魔王を倒して平和になった世界で、フリーレンと結婚式を挙げる幻想を見るヒンメル。この時点では、「魔王を倒して平和になった世の中」が実現するのかどうかすらも分からない。でも、それよりも「花嫁姿のフリーレンの隣に花婿として並ぶ」方が叶わない夢レベルが高いのつらすぎません……?

幻影であることにほぼノータイムで気付くヒンメル

幻影の世界だと気付くまでに3ページもかからない。それが勇者ヒンメル。せっかくならもっと浸ってればいいのにと、邪なことを考える人間は誰だ。私だ。それくらい良いじゃないか、にんげんだもの。

けれどもヒンメルにとって、叶わない夢レベル最大級の本件、流石に誓いのキスの直前で悟ってしまう。そして、フリーレンに投げかける言葉は、「打開策があるんだろ。僕は何をすればいい?」。その誠実さが彼を勇者たらしめていると思うけれども、つらい。

現実ではハイターとアイゼンがめちゃくちゃ頑張ってるので、早く目を覚ましてほしいと思う反面、少しくらいいい夢見ろよと思ってしまう気持ちもある。こんな悪質な魔法を使う奇跡のグラオザームめ、ぐぬぬ……という気持ちも抱いているので、己の感情の起伏が激しい。

淡々と状況を伝えるフリーレン

ヒンメルの問いに対して、「やっぱり。」という言葉とともに、今の状況について特に感想も述べず、淡々と状況を分析するフリーレン先輩。ぶれない。

フリーレンはこの状況にいつから気付いていたのだろうか。そしてヒンメルからの言葉がなければ、そのまま「五感も、記憶も、魔力探知さえも、ここが紛うことなき現実だと伝えている」この世界で、そのまま挙式を挙げていたの……?

この間に、ヒンメルには多くの現実が突きつけられている。今見てる世界がやはり幻想であること、現実で戦う必要があること、ふたりが花嫁花婿となっている状況にフリーレンが何も感じていないこと、そして、叶わない夢は所詮叶わないこと。

ヒンメルの心情はどんなものだろう。背中でしか語られていないので、推し量ることはできない。

「ヒンメルには出来る。」「現に、勇者ヒンメルは、幻影如きには負けなかった。」と言われたら、やるしかない。やるしかないんだ、勇者ヒンメルは……。

「ああ。任せろ。もう戦える。」というヒンメルの台詞、物理的に戦えるという意味はもちろんだが、束の間の幸せな幻影に決別するような気持ちもあるように思えてならない。

奇跡のグラオザームのこと、本当に許せない。上げて落とすな。やるなら徹底的にやれ(それはいけない)。

「お陰でとても良い夢が見れた」

幻影の中にいながら戦うヒンメル。微かな違和感を見逃さず感覚を研ぎ澄ませて、大切な仲間を守り敵に刃を突きつける。これには奇跡のグラオザームもびっくりである。

ハイターのサポートもあり、幻影から解き放たれた彼は、フリーレンに石碑まで走るように伝える。今を生きるフリーレンと、80年前を生きるヒンメルの別れだ。この場面で描かれるヒンメルの背中にぐっとくる。多分、全人類がそう思ったろう。

「ありがとう。」と伝えるフリーレンと、「いいってことさ。お陰でとても良い夢が見れた。」と返すヒンメル。視線が交わされることはない。

彼の言う「良い夢」とは、文字通りグラオザームの見せた「決して叶わないと諦めた、幸せな夢」だけでなく、80年後からやってきたフリーレンと過ごした時間も含まれていると思う。

80年後のフリーレンは、勇者一行との旅を終え、永遠の別れに涙し、弟子をとり新たな旅に出た。「人を知りたい」という想いを抱き、「魂の眠る地」を目指すフリーレンは、魔王討伐時にヒンメルが一緒に旅した彼女とは違う。

そんな「君らしくない」フリーレンに対し、ヒンメルは「とてもいい。」と言う。多分、人に興味のないそのままの彼女でも、彼にとっては大切な存在だったに違いない。でも、旅を経て大切なものができたフリーレンに対して「とてもいい」と率直に感じてもいる。それは、ヒンメルが大切にしてる感情でもあるからだ。

未来からやってきた大切な人が、少しだけ気持ちを分かち合えそうな存在になっている。けれども、その人は「私は私の過ごした時間に戻りたいだけだ」と言う。そしてそんな存在が、眼の前に花嫁姿で立っている幻想を見せられる。

そんな切なくて残酷なことがあるだろうか。

そんな時間を「遠い未来の話だよ。」と振り返ることのできるヒンメルはすごい。尊敬を込めてヒンメルさんと呼ぶことにする。勇者にさん付けをするのは、「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」のリンクさんに続き二人目だ。私はもしかしたら、誠実で一途な勇者に弱いのかもしれない。

ヒンメルとフリーレンが同じ幻影を見ていたのはなぜか

最後に、私の中でどうしても結論がつかないことがあるので書き留めておく。章タイトルにある通り、「ヒンメルさんとフリーレンが同じ幻影を見ていた問題」である。これ本当になぜなの……?

奇跡のグラオザームは「決して叶わないと諦めた、幸せな夢でさえも実現できる」と言っているが、幸せな夢とは人それぞれ。本来であれば別々の幻影を見るのが妥当だろう。

情緒が乱高下中の覚束ない頭でいくつか考えてみた結果は、下記の通りである。

  1. そもそも、同じ幻影を共有するタイプの魔法。

  2. フリーレンが精神防御をかけていたので、彼女の願いを幻影にして見せることができなかった。

  3. フリーレンがヒンメルの想いに引っ張られた。

  4. フリーレンにとっても、心の片隅に同じような願いがあった(あるのか…?)。

  5. あくまでもヒンメルが見た幻影でしかなかった(フリーレンは別の幻影を見たが、作中で語られていない)。

  6. 特に理由はない。たまたま一緒になった。

候補が多い。でも、「1」「2」は幻影魔法としてはイマイチなので却下したいところ。ある人にとっては素敵な夢でも、ある人にとっては悪夢であることは往々にしてある。

私、本当にフリーレンの考えてることが分からないので、この問題も一生分からない。どれだ、どれなんだ。いつか語られる日が来るのだろうか。教えて有識者。

私の心の乙女チックメンタルが「4」の可能性を示唆してくるが、フリーレンのことが分からないのでどうしようもない(ヒンメルさんにはあんなに感情移入してるくせに……)。

ちなみに、元の時代に戻ってきた直後、フリーレンが近くの村の戦士と会話をする話がある。戦士が年老いたヒンメルさんと出会ったエピソードを伝えると、あろうことかフリーレンは「ねぇなんで私にこの話をしたの?」と尋ねやがる。全私が「分かるだろ!!!!!!!!」と突っ込んだ。

ただ、ヒンメルさんは「それも含めていい」と言う気がする。

まとめる気のないまとめ

ここまで3,500字近くかけて13巻の過去編について語ってきたが、調べたら同巻の過去編エピソードは40ページほどしかなかった。約40ページから私は何を読み取ったんだ。それこそ幻影だったのではないか。

あと、まじで奇跡のグラオザームはギルティ。良い夢見させるな。お前は全世界の情緒めためた検定一級の敵だ(そんな検定はない)。

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