バナナフィッシュ。
物語の始まりを予感させる文章を投げ込みます。
ぼくが僕になるまでの物語です。ありったけの魂を込めましたので、ぜひお読み下さい。
働くことで、不幸になってはいけない。
仕事・家族・出自など環境は人よって違いますが、それらを一度全てふっとばす、そんなことも時には必要なはず。
習作。
気づけばいつからこのニキビと付き合ってきただろう。 高校生から数えると丸10年以上か。 何度か離れようと俺は医者にかかり、その度に医者から言われた事を忠実に守り、抗生剤を塗り、時には薬を飲みこんだ。 だがいつまで経っても治らない。 むしろよく顔を見せるようになってさえいる。 俺は医者だけではなく、有象無象のYouTuberの言うことにも耳を傾ける。顔を洗ったらティッシュで顔を拭き、日に2リットルは水を飲み、枕カバーも毎日交換した。 それでも俺の顎にあるニキビは最悪な悪夢みた
彼女と出会ったのは、ある春の日の暖かな日曜日で、その時僕はサークルか何かの打ち上げで近くのコンビニに買い出しに行っていたことを覚えている。 そう、当時の僕はまだ大学生で、大学にほど近い寮に住んでいて、僕と同じように寮に寄生する奴らと何かお祝い事があればとにかく祝い、朝まで呑んだくれていた。 だから彼女と初めて会った時も、おそらくは目も当てられない状況で、僕は横になれる場所さえあればいい、といったような感じでコンビニの棚に寄りかかるようにして背中を凭せ掛けていたんだっけ。
僕は誰かからこんな話を聞いたことがある。 人と言うものは思い出を作り変える生き物なんだと。過ぎ去った思い出の中に生き続け、その過ぎ去った思い出を作り変えてしまう生き物なんだと。ある人は都合のいい様に変え、ある人はある程度の敬意をもって接するのだ。 それだからといって、全部疑ってかかる必要はないのだともその人は言った。忘れられない記憶は誰にでもある。だから人から聞いた話は大事にしなさい。 そこにいくら虚構が含まれているとしても、その相手にとってはとっても大事なものな
★わたしが言いたいのは・・・ 「マコトって今までに相手の仕草や表情を見て、その相手の気持ちがある程度読めてしまって哀しくなってしまったことってない?」彼女は誰に向けても話しているようではなかった。僕はもちろんのこと、自分に対しても。口だけが勝手気ままに動いているに彼女の声は空疎に響いた。「話していると相手が何を望んでいるのか大体のところわかってくる。わたしが何をすれば相手が喜び、何をすれば嫌な顔を見せてくるだろうかが話しているうちにわかるの。そうと分かると、すっと哀しくなっ
★新たに付け加えた協定その十:この契約はどちらかが断るまで更新してもよい。 「おいおい、また来たのか」僕が部屋に入っても甲野さんは目を開かなかった。ピクリたりとも動かない。 「いいだろ。どうせあんたも暇して寝ていたとこじゃんか」 「俺の事はどうでもいいんだ。部活を見てくる約束だったろ」 テーブルの上に僕はバッグを置いた。テーブルに備え付けられた椅子を引き、後ろ向きに座る。「ったく、電気ぐらい点けろよな」ぼくは腕を組んで、脇の下に椅子の背凭れがくるように前屈みに姿勢を変えた
★ギュルルルルル。キュルル。 父さんの頬は赤い。テーブルには飲み干したビールの缶と、ふたを開けたもう一つの缶。テレビからの音。高い音。チカチカと瞬くカラフルな色。笑い声。 ぼくはひっそりと席を離れた。ふとももの下に手を差し込む。イスの後ろ足を空中に浮かす。少しづつ後ろへ━━。 「ちょっと待て」父さんはテレビを消す。顔がこっちに向く。赤い。首が傾き斜めに伸びている。「食器はいいからそこに座れ。今日はどうせオレが洗うんだ」 ぼくは席に座る。バラバラに反発し合う箸。枝豆の殻
★少しの間、これでしのいでおいてくれ ミユが目を醒ましたようだったので、僕は椅子の背凭れから胸を剥がしキッチンへと向かった。ツマミに手をやり、テフロン製のフライパンと小ぶりの鍋を火にかける。火が付くと、僕は背中越しに、役割を果たし終えた弾道ミサイルのようにソファに身体を横たえているミユに向かって、「よく眠れたかい?」と声をかけた。両雄の調理器具に熱が行き渡るまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。フライパンを押し出すように揺するとパシャパシャと液体の揺れる音がした。いくらや
★協定その九:人を連れてきてはいけない。 「前から聞こう聞こうと思ってたけど、何でこんな大量に本を読むことになったんだ?うちの父親と母親なんてこれっぽっちも読みゃしないぜ」 今でさえ読書の真っ最中だ。暇な時間さえあれば小説、教科書と読書に励んでいる。これほど読みこなしていれば一日少なくとも百個の熟語を新たに習得しているはずだ。毎日が新しい発見。世界は驚きで満ち溢れている。甲野さんは本から目を剥がすと、ぼくの方に顔を向けた。眉を一段階高くつり上げ、ぼくの声が届いたことをア
★ギュルルルルル。キュルル。 父さんの頬は赤い。テーブルには飲み干したビールの缶と、ふたを開けたもう一つの缶。テレビからの音。高い音。チカチカと瞬くカラフルな色。笑い声。 ぼくはひっそりと席を離れた。ふとももの下に手を差し込む。イスの後ろ足を空中に浮かす。少しづつ後ろへ━━。 「ちょっと待て」父さんはテレビを消す。顔がこっちに向く。赤い。首が傾き斜めに伸びている。「食器はいいからそこに座れ。今日はどうせオレが洗うんだ」 ぼくは席に座る。バラバラに反発し合う箸。枝豆の
★少しの間、これでしのいでおいてくれ ミユが目を醒ましたようだったので、僕は椅子の背凭れから胸を剥がしキッチンへと向かった。ツマミに手をやり、テフロン製のフライパンと小ぶりの鍋を火にかける。 火が付くと、僕は背中越しに、役割を果たし終えた弾道ミサイルのようにソファに身体を横たえているミユに向かって、「よく眠れたかい?」と声をかけた。両雄の調理器具に熱が行き渡るまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。フライパンを押し出すように揺するとパシャパシャと液体の揺れる音がした。いく
協定その九:人を連れてきてはいけない。 「前から聞こう聞こうと思ってたけど、何でこんな大量に本を読むことになったんだ?うちの父親と母親なんてこれっぽっちも読みゃしないぜ」今でさえ読書の真っ最中だ。暇な時間さえあれば小説、教科書と読書に励んでいる。これほど読みこなしていれば一日少なくとも百個の熟語を新たに習得しているはずだ。毎日が新しい発見。世界は驚きで満ち溢れている。 甲野さんは本から目を剥がすと、ぼくの方に顔を向けた。眉を一段階高くつり上げ、ぼくの声が届いたことをア
八時のニュース。テーブルに置いてある料理はサンプル品みたいに生気がない。 「ああ疲れた。今日も長かった。くそっ、まだ水曜かよ」 父さんは壁にかけられている時計を見やる。 「お疲れのようだから、ご飯の前にお風呂に入ったら」 「いや、先にご飯だ。今日はシャワーだけ浴びる」 父さんは上着を席の横に下ろし、キッチンに向かっていった。首元のネクタイを緩めながら冷ぞう庫をのぞく。父さんが冷えた発泡酒を取り出している間に、ぼくはテレビのリモコンを父さんの脱いだジャケットの下に潜りこ
みなさんに今見てもらったのは、ある人から送られてきたビデオテープの解説である。ビデオテープは腰当てにするにはちょうどいい大きさの小包によって僕の住まいへと届けられた。小包にはビデオテープの他に、数十枚の彼特有のユーモアがちりばめられた原稿も入っていた。それ以外の余ったスペースはというと、これら重要な歴史的文化財を保護すべく丸めた新聞紙によって埋め尽くされていた(だから実際のところ、小包の大半の中身はこの球状の、今では湿気取りぐらいにしか役に立ちそうにない情報で占められていた
★協定:家の物は何でも使っていいが、使った後は元の位置に戻す。 「今日は家で食っていってもいいんだよな」 「今、世の子供達の大半は夏休みだ。あんたは知らないだろうけど、どのご家庭でもぼくら小動物へ与える餌で悩んでいるよ。その権利を奪ったからって誰も文句を言いはしないさ」ぼくは四つ足の、バランス養成器具から降りて台所へと向かった。 「何か食べたいものはあるか?」 ぼくは甲野さんに出会った初めの頃を思い出して、肩を耳たぶの高さまですくめてやる。 「じゃあ何が作れる?」 「パ
「今日の夕食はなんだ」 「カレイの煮つけ。真が作ってくれているわ」 「あとは何がある」 「そうねえ。小松菜のおひたしと納豆ぐらいかしら」 「おいおいたまには身になるものを食わしてくれよ」父さんはぼくの後ろから鍋の中をのぞき込んできた。「せめて濃い味にしてくれよ。薄いと何を食っているのかまるでわかりゃしない」 ぼくはお客の要望を聞き入れ、砂糖としょうゆを酒の分量をほんの少し多くする。煮汁が黒いのは変わらない。火加減を調節し、沸とうしてくるのを待つ。小さいあぶくが底にたまってい
★君のために覚えたんだ。 「あなたって、どうしてそんなに一つのことに夢中になれるの」ミユは寝そべっていた身体を起こし、ソファから起き上がった。膝の上にはかけてきた茶色い縁の丸眼鏡。度は入ってなさそうだ。昔から彼女は遠くに強い。 僕は視線を読んでいた本へと戻し、「人より一つに夢中になっているっていう自覚は、僕にはないな」 「現に今がそうじゃない。わたしが寝ている間にそうやって本を読んでいたわけじゃない」 「ねえミユ」僕は一時読書を中断し、彼女の方に視線を向けた。ミユは髪に手