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小さな泡

あれ....私、どうなったんだっけ...?


辺りを見渡すと、色鮮やかな景色。
鱗が泳いで、石がキラキラ。
ここは、海...?


私は故郷が嫌いで外に出たはず。
いつのまにか、連れ戻されていたようだ。
私の姿は、どうなってる?


イワシの大群の反射を利用して、
自分の姿を探す。
どこにも見えない。
いや、稚魚にも満たない、小さな、泡...?
私、泡になったんだ........



泡なんて、いつしか消える。
私は、消えてしまうんだ。
ないはずの鼻がツンとして、
ないはずの目から水滴が浮かんだ。



大きな波がまるで私を包み込むように
そっと手を差し伸べた。
私は怖かった。
この波に、飲み込まれるのが怖かった。
私は死んでしまう。
波は暖かく、キラキラ太陽を反射して、
私に何もしなかった。



私はどうして泡になってしまったんだろう。
こんな、いかにも弱そうで、潰れそうで、
消えてしまいそうな私に魅力なんてない。


『違う。君は、人魚だったんだ』

波のあなたに何がわかるの。



次の瞬間、小さな個体になった。
頭が、手が、胸が、お腹が、
拙い形で軌道修正されていく。
そして、鮮やかな鱗と尾鰭。


『これが君だ。多分ね』

信じられない。私は泡なのに!


怖くないよ。と、波が私を撫でる。

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