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保障したかったのは、学習時の没入感

彼女は中3専門塾の最後の生徒でした。
もうすでに塾は閉めていたのですが、縁があって、当時不登校気味だった彼女の個人指導を頼まれて、しばらく一緒に学んでいました。
 
その彼女が、高校3年生となり、卒論を書くところだそうで、インタビューを受けました

建築・環境系学びに大学進学する予定の彼女。
インタビューの趣旨は
「同じこと(例えば勉強)をするにも、その対象が嫌になる環境と好きになる環境があると思う。まーみさんは、塾を運営するにあたって、どう考えて『環境づくり』を行なっていたか
というものでした。

そのお題をいただいて、しばらく考え、そしてzoomで話をしながら、自分の中で気が付いたキーワードは
「学習時の没入感を保障する」

でした。

塾は「自由学習」の場ではなく、一定程度の学習内容を理解し「マスター」する場です。その時に大切なのは、個々の生徒が自分の世界の中にその「対象」を置き、それに取り組むことに「没入する状態」を作る。それが、私が心掛けていたことだったなぁ、と彼女のインタビューを通じて気がつきました。

たとえば、壁は柔らかい色合いのアイボリーの漆喰を塗り、基調は木とその色だけにして、なるべく他の色を入れ込まず、学習以外のモノに気が散らないようにする(できる範囲で)。私自身の着る衣服も、なるべく目立たない、教室の中に同化するようなものを選んでいました。
机や衝立などは、配置換えが可能なものを使用し、生徒の数、個性等、配慮できる余裕がある時は、できるだけ、そうなるように配置していました。夏の自習時に、「壁に囲まれていたい」という生徒の周りに衝立を巡らすということも、していました。

信頼関係(心理学でいうラポール)づくりも、戦略的に行っていました。
申し込み時と、クラス授業前は、かならず1対1で学習+お喋りする時間を作りました。そこで「わたしは一人の独立した人間としてあなたを扱うし、全力を尽くす。あなたの状況を最大限斟酌したクラス運営をしていく」ということを、伝えるようにします。
いきなりクラス授業を始めると、生徒は(日本の生徒は)”クラスの中での自分の立ち位置””その立ち位置は先生からどう見えるか?”などに気を配り始めます。個々人と結びつきづらくなる。
しっかり1対1授業をすることで、教師と生徒の信頼関係を作っておくと、それがクラス授業になっても活きてきます。アイコンタクトも行えるし、言葉がけも変わります。
それは、生徒の「安心感」につながります。
心理的安全が保障された中でないと、学習者は学習対象に没入できません

授業の構成も、かなり緻密に考えていました。
特に、授業のイントロをものすごく大事にしていました。
学習という「乗り物」にスムーズに乗れるかどうかの大事な時間だから
です。
(だから遅刻は絶対にしてはいけないと、生徒にお願いしていました)
生徒の日々は学習だけではありません。
学校の授業、部活、友達、親との関係・・・様々な感情の”奮闘”を日々重ねていて、そこから「この塾での学習の乗り物に乗りなさい」という気持ちに持っていくには、生徒の日々の奮闘への共感、そして前回の学びの思い起こし、今日取り組む内容への安心を伴った”関心”の喚起。
それらを必ず授業のイントロに盛り込んでいました。
授業全体の流れも、
情報認知処理方法としての”同時・継次”的なことに気がついてからは、両方のタイプの生徒が、安心できるような情報提供の仕方を重層的に授業構成の中に織り込んでいました(繰り返すけど、できる範囲で・・・)。

生徒が、ふわふわと浮ついた状態で教室に入ってきても、
段々と、学習対象に気持ちを集中し、自己効力感(自分はこれをできるし、力を伸ばせる)を感じながら、深く潜っていくような状態になっていく。
そうしてこそ、学習対象が学習者の頭(と時には心)に刻まれていくのだ、と、
私は信じていました

それが「学習時の没入感」です。

そのために、上記のようないろいろなことをやっていたのだなぁ、と思います。

毎回毎回、そういう状態にできるように全力を使っていたので、
そこそこ疲れます・・・。それで、52歳ころ、”夜に”その力を使うことに限界を感じていたかなぁ、と思います。

というようなことを、
「最後の生徒」のインタビューを通じて思い当たることができたのも、
これは、大変幸福なことでした。
ありがとう〜。

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