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【映画批評】TITANE/チタン

※過去記事の復旧です。過激表現修正版(でも18禁)

巷でも散々言われているが同意する。超変態映画。フランスが誇る、ド変態だけど、人間という存在の謎と深淵に切り込みまくりの突撃機甲師団系映画だ。多分サブカル大学生はマストバイ!絶対観るべきだ。この映画を、ベレー帽かぶってるけどメイクは普通な女と並んで観た後に、普通のレストランで普通の飯食って普通のデートできるカップルが羨ましいですな。

フレンチホラーはかつて世界を席巻し、驚愕させると共に血の涙を各所に降らせたが、波が引くように流行も先細りとなっていった。なぜかはわからない。ただ、フレンチホラーが観ていて本当に痛いのは確かだし、その人間探究力と言いますか、超強烈な哲学パワーは「さ、さっすがー。。フランス革命・・・ロ、ロベス・ピエール」とか言いたくなる感じなので大量生産できそうにないというのは何となくわかっていた。

なぜ、フランスだけここまで際立って高尚でシャレオツで残虐血まみれで観てるだけで何本か骨が折れそうなダメージを喰わせてくるホラー映画を作れるのかはよくわかっていない。自分の内臓が映画に食われちまったみたいな感覚だ。ドイツも時々変態映画ができるがフレンチホラーほどオシャレではない。日本も変態映画はたくさんあるけど何だかAVのドラマパートみたいで質が低い。韓国はなかなか良いモノ持っていて、キム・ギドクは人類の希望と思っていたがコロナで死んじまった。もはやエルサレムはフランスなのだ。多分。いや、自信はないけども、、

説明とか無意味だと思うので、評論すらおこがましいと思ってしまう。これはよく刺さるメタル、ラウドロックのプロモーションビデオみたいなもんだと思って観るのが正解だ。何だかよくわからない。よくわからないがその痛みと人間愛だけは本物だ。念頭に置くべきはデヴィッド・クローネンバーグの「クラッシュ」と、塚本晋也の「鉄男」だろう。

監督のジュリア・デュクルノー自身が、クローネンバーグの影響を公言しているため、↑の話は間違いない。「鉄男」もクローネンバーグの映画の影響を受けているそうなんで、2つは父親を同じくする兄妹みたいなもんだろうか? とはいえ「チタン」のほうが現代的でオシャレである。最近の流行り(ジェンダーフリー)もガッツリ取り込まれているのでサブカル大学生はこの映画を観て人間という名の深淵を学びつつ、社会でその知識や教養が全く必要とされない絶望をたんと味わってもらいたいものだ。その絶望が君を成長させる(真顔)。間違いなし(断言)。

まー、それはいいのだが、この映画がどんな話だったのかという無益な話に少しだけ触れると、徹底的に社会から異物としてはみ出す宿命を負った女が、何もかも全部受け入れてくれる昭和の堅物親父のようなマッチョな爺さんと出会い、骨抜きにされちゃうという愛の物語だ。

冒頭の奇天烈な無差別殺人の模様は爆笑もので、大音量のBGMの中で私は館内でゲラゲラ大笑いしてしまった。噴くのを抑えられないというか、たしかに、「クラッシュ」が流行った90年代的なバカバカしさがそこかしこに漂っていて、この監督が俺と同年代というのも何だかわかる思いがした。(監督は2022年現在38歳の女性)

発達障害とか統合失調症とか、単に異常者であるだとか、型にはめた表現はナンセンスと言えるほど主人公女性は変態で、底のしれない人物だ。平気で人を殺すし車とセックスしたかと思えばガールフレンドの乳首を噛みちぎろうとする。んで、いきなり意味もなく殺しちゃう。

一緒にいた人達も目撃者だから虐殺! 感性は独特だが警察には捕まりたくないというのは普通にあるようで、変装して逃亡。とある老いた消防士(ヴァンサン・ランドン)の息子になりすまして家の中に逃げ込む。

この変装のシーンも異常極まる痛々しさで、高い鼻を自分でへし折って鼻の形を変えてしまうし、オッパイと、車とヤった後に膨らんできたお腹をテーピングでギュウギュウに締め上げて髪の毛切って男になろうとする。ヴァンサン・ランドンはどこに息子の面影を見たのか全く不明だがこの顔色の悪い眉毛のない痩せぎすの女を、行方不明の息子だとの壮絶な勘違い。奇妙な共同生活が始まる。

とにかく自傷シーンが半端ないので観賞要注意だ。俺は仕事でしょっちゅうリスカだのアムカだのする女の子と出会う。中には毎日自宅で首×××××をし、×××××××××寸前に寸止めするという変態プレイに耽溺し、首を常に×××××で隠しているという人間や、「パ××ンゴールド」を毎日何百錠も飲んで頭がおかしくなり、それを×××××しようと、××××××した挙げ句×××××××××された人間などもいるのだが、本当に、キのままの野良のキ××イというのは怖いものである。。医療機関と繋がって治療を受けている人は全然普通であるし、話していることも理解できる。普通に理解できる同じ人間という感じがするが、ノラのキ××イは本当に怖い。

全く嫌になるが、それに比べればこの主人公は生きるため逃げるため前向きによりよい人生を歩むためにたびたび自傷行為に及ぶ。映像的には半端ない痛々しさで、この辺りで途中退席者もいたと記憶しているが、この娘は生きようとしているんだよ(ToT)。だから怖くない!だからこれは良い自傷!・・・となんとか自分を納得させてほしい。

ヴァンサン・ランドンも老いから逃れようと、男らしさの呪縛に囚われ、かつてはできたであろうトレーニングが今はもうできない事実にいちいち憤慨し、大声上げて悔しがっている、で、毎晩怪しげな注射。。もうシンクロしまくりである、、、俺は男だからこのおっさんの気持ちがめちゃくちゃわかる、、家族を守るのが男の甲斐性、、、どこまで行ってもこれが一般男性の平凡な幸せだ。嘘ばかりの世の中なれど、わが子の可愛さだけは真実だ。子を失った人生など消化試合にもならぬ空疎なものであろう。

息子が帰ってきてくれたという幻想に頭蓋骨から突っ込んでいき、その信仰心でもってどんな矛盾が襲いかかろうと筋肉で跳ね返してしまう。めちゃくちゃ男らしいのにどこか母親的でもある。突き詰めた男らしさの向こう側にジェンダーを超えた何かを感じた次第である笑。フランス映画はこういうのがオシャレだ。

老いた男の筋肉は無為で虚しい



幼少期の事故で頭蓋骨にチタンが埋め込まれた主人公、車とセックスして何だかよくわからない物体をご懐妊。どんどん膨らんでくる腹。体中から溢れ出る真っ黒なオイル。体はどんどん人間から離れてゆくが、ヴァンサン・ランドンの狂気の愛は曇ることもなく揺るぎない。しかも歪んでいない。あくまで息子の父親として接するのだ。その混じりっけのない親の愛は露骨に狂気をはらんでもいるが、アウトサイダーの主人公をとてもとても癒やすのだ。そして二人は歪な形とはいえ幸せになっちゃう。

・・・

そんな感じの素晴らしい変態フレンチホラーなんだが、個人的にはクローネンバーグというより「屋敷女」や「マーターズ」、ハネケ映画のような人間に対する探究心がまろびでた哲学(と愛の)映画と解釈。素晴らしいので是非観てほしい。やはりカンヌパルムドールは伊達じゃない。この監督の映画は全て観ようと思います。

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