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獄中の友情「ゼロ番区」-初日観劇感想

 初夏を感じる気温の日が増え、外を歩いているとじんわりと汗ばむ季節となってまいりました。4月なのにもう場所によっては春蝉が鳴いているみたいですね。そんな気候の中「ゼロ番区」初日を観劇してまいりました。

(公式フライヤー)

ゼロ番区あらすじ

 東京拘置所内にある死刑囚舎房、通称「ゼロ番区」に収監されている4人の死刑囚達。いつ刑の執行が言い渡されるかわからない状況の中、微かな望みや叶わぬ希望を持ちながら、その時が来るのを静かに待っていた。だがある日新任の看守が配属されてからは、その日常が一変する事となる。 死刑囚達は何故、事件を起こしてしまったのか? 刑務官達はどのような感情で死刑囚達と接しているのか?(公式フライヤーより)

 気づけば今月は刑務所に縁があるようで「少年たち」に続き、刑務所もの。今回は歌ったり踊ったりしない刑務所だろうから、辛くならないようとにかく安定した心で向かおうと決心。
 公式グッズを確認すれば、終演後限定販売の額縁入り集合写真の文字が。
 どう考えても嫌な予感しかしない。どう考えても黒額縁はまずい。なんでリスの写真なんだ? ああ、リスプロだからか。
 全員亡くなってもいいようにハートを高めるべく、赤坂見附で元気なおねーさんのダイナマイトボディがみれるハンバーガー屋さんに行ったり(お姉さんがテーブルに腕をついて胸を強調される場面ではどうしても目をそらしてしまい、勿体無いことをしたな……)、美味しいあんみつを食べて自分を元気付けるなどしてみました。ジャンクフードと甘いものは最強! ハイパーブースト状態になったオタクに怖いものなんてない。
 よし、絶対に負けない。
「絶対、大丈夫だよ‼︎」

それではまず劇場感想
「赤坂RED / THEATER」


 赤坂見附駅から徒歩5分程度、そんなにはかかりません。ビックカメラの脇を通り、カラオケ屋さんを抜けてナチュラルローソンすぐそこ、ホテルのそばにあるのが赤坂RED THEATER。
 おしゃれな内装で、雰囲気も十分、ただ、なかなか急な階段を下るので、靴と足元には要注意。またロビーも狭いため、ロビー内で待つところはあまりないかなーっと言う印象。
 椅子は少し固めで、1時間55分の上演時間では少しお尻がもぞもぞしてしまいました。
 客席数は多くはなく、前方4列ほどはフラットですが、それから後ろはなだらかに上がっていくので、どちらの席でも見えにくいなどと言うことはないかなーーと言う印象です。

 さて、本編感想


 結論から言うと……感動したし、少し泣いた。
 リスプロさんは社会風刺的なところがあり、合う人と合わない人がいると聞いていたものですから、合わなかったら……と思うと、観劇に向かう足も少しだけ重たかったのだけれど、天候不良を押して来て本当によかった!
 以下にネタバレを含む感想を記して参りますので、ご自衛いただけると幸いです。また、セリフについては台本を確認していないので、ニュアンスで……正しいものではないことをお許しください。

 やすしの犯行シーンから舞台ははじまるのですが、そこの演出が引き込まれる良さで、ぼんやりと酩靪する男の視界をライティングで表現している! 緩やかに明るくなっていく舞台にグッと物語に引き込まれたのを覚えています。
 やすしという男はどこかおかしい、普通じゃない。やばいやつだとはっきりと示してくるシーンであり、彼の純粋さや、少年らしさを見せて彼のことを好きにさせるシーンでもあるわけです。

「昼間っから酒を飲んでいい身分やなあ」

 そういうやすしはこの酒飲みの男に両親を殺されている。罪を償った男の行動を咎める者は誰もいない。やすしのやるせない感情が伝わってくるだけに、やれ! やめろ! やるんだ! ダメだ! と拮抗した感情で舞台上でこちらに銃を向けるやすしを見つめているうちに、やすしは「大将、僕携帯持ってないので警察を呼んでもらっていいですか。大将、堪忍な。お客さんもすんません。でもすっきりしたわ」と犯行を終える。
 3人をも殺したらしい、妙な親しさを感じさせる男とともに始まる獄中の物語にこの時点で私はもう、ワクワクが止まりませんでした。

 ゼロ番区と呼ばれる死刑囚の収監される監獄で登場するのはやすしと、3人の死刑囚、そして3人の看守だ。まずは囚人達についてそれぞれ感想を記していきます。

やすし(南やすし:松島庄汰さん)


 やすしは、両親を強盗犯に殺されてしまって以来、精神遅滞を生じているのか、少しネジが抜けたような行動をする青年で、おそらく28歳程度という年齢からは考えられないくらい、幼く、まっすぐな男で。誰もがやすしには毒気を抜かれてしまう……そんな感じです。自身を育ててくれた祖父を大切に思い、過去を抱きしめていきているがために彼の時間は止まってしまっているのかな……と思うと切なくなります。
 やすしがいたからこそ、4人は獄中で友情を育み、「友達」になったのだろうと思います。
 そんなやすしの発言にはたくさん考えさせられるところがあるのですが、もう心が震えて止まらなかったのが「先生はなんも悪いことあらへん、僕は人殺しやもん」と看守長に言う所。やすしに理不尽な感情をぶつけていた看守長が、やすしは自身の鏡であったと気づくあのシーンから、思えばすすり泣きが広がっていった気がします。私も今までは感じなかった、鼻の頭のジーンとした感じを感じ始めたのはあのシーンからです。いやもっと前か?

今ちゃん(今西:富田健太郎さん)


 今西さんは、冤罪で逮捕されるが警察の圧迫聴取に耐えられずありもしない罪を認めてしまった。と言う役柄。全体的に気弱で、神経質そうな男の子でいつも所在無さげにもぞもぞと手を動かしているのが印象的でした。自身はやっていない罪で投獄されており、他の3人とは違うと最初こそ心を閉ざしていますが、やすしとメガネさんの暖かな声かけに次第に心を開いていく様子が、なんとも微笑ましく、視線がしっかりと前を向いていく様は見応えがありました。
 妹との面会以来、自身の無罪を信じてくれる人がいないと気落ちし、精神薄弱のような症状に陥る今西さんですが、やすしの励ましによりなんとか立ち直り、最後やすしにはなむけの言葉を向ける様子には彼の成長が感じられ、涙涙の大洪水。今西さんが声を震わせながら、今まで一度も読まなかった俳句を詠む姿は必見です。
 また、今西さんの役柄はマスメディアに対する皮肉も効いているなと言う印象で、まだ収監されて半年ほどの彼の家庭に、あの人は今──みたいな番組が押しかけてきて、その結果家族が追い詰められてしまう。面白いを履き違えた不幸な番組に対する怒りのようなものをじんわりと感じました。

メガネ(浜田:横関健悟さん)


 メガネさんは、なんでこの人が犯罪者に!? と言うくらい温厚な方で、でも端々に弱さと言うか、何かに縋らなければこの人はすぐにダメになってしまうのかな……と言うような印象を抱かせる人でした。慢性的な頭痛を抱えており、どう考えてもおかしいそれを獄中の医者は正しく見ることができない。やすし達ゼロ番区のメンバーは、「シャバの病院」での精査を進めるが、彼はそれをのらりくらりとかわしていく。日に日にひどくなる頭痛に悩まされるメガネさんの最後の演技は真に迫るものがあって「素直にこの痛みを受け入れることこそ私の考えた償いでもあります」と冒頭の経を読むような静かな声で語り出し、徐々に痛みにのたうち回りながら「心の底から友と信じた北山兄弟に私の人生の全てを託していたと言うことはどうか信じてください。ワアアアアアッ!」と言う彼は一体どんな気持ちでやすしの「友達」という言葉を聞いていたのだろうな……と考えさせられます。

先輩(秀島:齋賀正和さん)


 先輩は、ぶっきらぼうな中にも暖かさを感じさせる人柄で、遣る瀬無い思いをして欲しくなくてか今西に絡んだり、古木看守長に酷く突っかかられているやすしを庇って懲罰房に入る。などゼロ番区のリーダーのような存在。その一方で犯行当初からすこしストレスに弱いところが見られており、懲罰中にも拘禁ノイローゼを発症するなどして、しっかり結っていた髪を後半では振り乱しぼんやりとしているシーンが見られます。先輩は、ヤクザの親玉を相方とともに襲撃し、相方は弾を外したため8年ほどで出所し、自身は極刑というやるせなさを抱えています。「無知な奴が負ける」そういったニュアンスの発言からは、街のチンピラに肩代わりをさせる、親父が俺たちを裏切るわけがない。と信じたものの、尻尾切りにあった辛さのようなものを感じてしまいました。最後のシーンでは今西へ言った言葉が自身への希望のようにも思えて仕方がありません。
 キャラクター性もあったのでしょうが、一番熱い演技をする人だな。と思ったり。

 死刑囚達が誰も憎みきれない人たちとして描かれており、不自由な環境だからこそ人間の芯の部分が見えてくるのだな……と感じたり。死を待つ日々だからこそ生まれた友情だったのやも……とか。
 この4人は世間的には圧倒的に「悪」であるが、そうは思えない。物事を見る側面が違えば違って見えてきてしまうのだな。
 さて、次は「正義」の話をしよう。
 やすしたちと寝食を共にする刑務官たちについて書いていきます。

小松刑務官(谷口勇樹さん)


 配属されたばかりの新人刑務官で、彼自身事故遺族であるのですが犯人に対しての憎しみはあまり感じられない……のは彼自身が犯罪心理学を学び、犯罪者を更生させたい。と思っているから……なのでしょうか。
 1番観客が感情移入しやすい役で、古木看守長の横暴に怒り、なにかよくしてやりたいと日々考えている。若くて熱い彼が藤原刑務官と同じように10年を過ぎ、どう変わっていくか楽しみだな〜と感じました。その時やすしたちの存在は彼の心にどう影響を与えるのだろう。

藤原刑務官(朝枝知紘さん)


 規律は守る中にも、優しさを感じさせる刑務官。やすしを同期と気にかけており(職務中は私的感情はないらしいが)どうしてもキャッチボールがやりたいというやすしの願いを紙を丸めたボールで叶えてくれる人。
 公平に物事を見れる人だな……と思う一方、この人がこうなるまでどのような葛藤があったのか、底知れない恐怖を感じる人でもありました。

古木看守長(伊原農さん)


 被害者遺族であり、やすし達死刑囚に何よりもキツくあたる人。その行き過ぎた行動から出世のルートからも外れてしまいそれでも憎むことをやめられない。そんな男性。
 彼の姿で印象的なのは、背筋が伸びてないくったりとした立ち姿であると言うこと。他刑務官が姿勢が良い分目立つのですが、彼の歪みのようなところをそこでも示しているのかな……なんて。
 言いがかりとしか思えない文句をつけてはやすしを懲罰房に送る看守長だが、彼の犯行動機を知って以来行動に戸惑いが見え始めます。
 大学生の頃、兄と父を暴走族に殺され復讐を試みるも叶わず刑務官として死刑囚という社会悪に対して自身のマイナス感情をぶつけることで、自信の正義を示す彼が、自分もそうなっていたかもしれない、同じ立場のやすしと出会った時一体どんな気持ちだっただろうな。と考えると胸が締め付けられます。
 伊原さんの間の演技が素晴らしく、葛藤のようなものが見て取れて……これが千秋楽になったら一体どうなってしまうのだろうと楽しみなところでもあります。

 やすしと看守長はレミゼラブルの、ジャンバルジャンと警部のように、どこまでも似ていて対象的な二人なのだなっと……人間はどこで道を違えるかわからない。選択の結果は取り返しがつかないけれど、どこででも楽しむことはできる。また、友情とは何物にも代えがたい宝である。

 なんだか夕日が見たくなる、涙が出そうなくらい残酷で優しい作品でした。
 もう一回くらい行きたいな。今日はここまで。

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