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【往来堂書店】2023年文庫売上冊数ランキング

11月半ばから文京区のPayPayキャンペーンが始まり、そのまま年末の繁忙期に突入したおかげでずーっとひいひい言っておりましたが、クリスマスも終わり出版流通も年末休みに突入したので、ようやく落ち着いて仕事に取り組めます。まあ、年明けからまた忙しくなるので束の間ではありますが……。イベントの準備やらフェアの準備やらなんやらかんやら、溜まりに溜まったタスクをひとつずつ片付けています。

さて、年末といえば振り返りです。どうですかみなさん、振り返っておられますでしょうか。そうですよね、いまさら思い出すこともないですよね。忘年会も済んだことですし。なによりめんどくさい。そんな暇あったらビールでもあけてのんびり「孤独のグルメ」でも眺めていたいところです。腹が、減ってきた。

ただ仕事となるとまた別の話。やらなきゃいけないことはやらなきゃいけない。ということで、タスクのひとつである「一年間の売上集計」をやっておりました。担当ジャンルの文庫に絞って売上を抽出し、冊数順に並び替えてみたり出版社別に見てみたりして、まあ傾向と対策ですわな、いろいろと分析するわけです。目立った売り逃しがないか、とか、この出版社の本はあんまり売れなかったな、とか。これが案外楽しくて、見始めるとキリがないんですが、自分ひとりでニヤニヤしているのももったいないと思ったので、今年は公開してみます。往来堂書店で2023年に売れた文庫のトップテン。シンプルに売上冊数で集計しました。それではどうぞ。


第10位

有吉佐和子『青い壺』文春文庫

言わずと知れた名著ですが、『三千円の使いかた』や『ランチ酒』などの著者・原田ひ香さんの帯が巻かれてから再ブレイクしました。コピーは「こんな小説を書くのが私の夢です」いやはや、シンプルイズベストですね。主張しすぎないデザインもポイントでしょうか。今日も売れてゆきました。

第9位

津村記久子『サキの忘れ物』新潮文庫

『うどん陣営の受難』で初めて津村さんの小説を読んで、これは、これはいいぞ、なんで今まで読んでこなかったんだろうか、まったくもう、となり、もっと読んでみようと直後に手に取ったのが、ちょうど良いタイミングで文庫化された本書でした。短編集ですが、表題作の「サキの忘れ物」が本当にいい。読書の原体験が生のまま詰められているような作品ですね。うちのお客さんにはきっと響くだろうとしつこく積んでいたらしっかり売れてくれて年間ベストにもランクイン。嬉しいです。『水車小屋のネネ』は最高です。

第8位

村上春樹『一人称単数』文春文庫

あれ、これって今年だったっけ……? と不安になりました。今年の2月刊でした。村上春樹に関しては、数年前に『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を読んだくらいで語れるほど知識がないのですが……今年は新作も出ましたしね。新刊が出てあれだけ盛り上がる作家さんも、今や稀有ですね。いずれは体系立ててガッと読んでみたいのですが、いつになることやら。まあ死ぬまでにどっかで読めればいいんです。

第7位

坂本龍一『音楽は自由にする』新潮文庫

今年逝去。著書や関連書もたくさん出ましたね。どてらYMOがほんとうに好きです。

第6位

石垣りん『朝のあかり』中公文庫

2月刊。刊行時にもよく売れていましたが、夏に開催した「D坂文庫2023」フェアにて、沖縄・市場の古本屋ウララの宇田智子さんが推薦してくださり、さらに売れました。ありがとうございます。作品が素晴らしいのはもちろん、書店での紹介の仕方ひとつでこんなに伸びるとは、まだまだ、書店員としてまだまだやれることがありそうだな、と背筋の伸びる思いに駆られたのでした。

第5位

東野圭吾『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』光文社文庫

よーく売れました。初回配本で50冊くらいドンと入ってきた時は、こんなにあって大丈夫か……?と不安になったものですが、みるみる売れてゆき、二ヶ月も経たないうちに初回入荷分はさっぱり無くなりました。ありがたい、本当にありがたい。東野圭吾さんは既刊もよく動いていますし、書店にとっては救世主でしかありません。最近の作品はあまり追えていないのが後ろめたいところなのですが……『容疑者Xの献身』とか『流星の絆』とか、もう一回ぐらいは読みたいなあ。

第4位

辻村深月『傲慢と善良』朝日文庫

去年文庫化、今なお売れ続けています。高橋は単行本の時に読んで、文庫でも改めて読んだんだったかな。傑作です。ミステリ仕立ての恋愛小説、いや婚活小説というべきなのでしょうか。侮るなかれ、です。いまさら侮っている人なんていないと思いますが。いやしかし、この作品は文庫での再ヒットと言っていいのではないのでしょうか。雪下まゆさんの装画も、単行本ではクッと引いたアングルでしたが、文庫ではアップに変わりました。これも再ヒットの秘訣かも。

第3位

安部公房『カンガルー・ノート』新潮文庫

今年没後30年、来年生誕100年を迎える安部公房の遺作と呼ばれる一冊です。往来堂書店の高橋さんのツイートがきっかけで、耳目を集めることとなりました。

エイプリルフールに絡めて軽い気持ちで放ったツイートでしたが、とんでもない拡散のされ方をしてビビりました。これがきっかけで重版がかかり、帯がかかったりしましたね。すごいことです。

バズを眺めていて特に目についたのが「ボーボボかよ」というツッコミでした。ううむ、まあわからんでもない。そういえばこの頃はまだ、ツイッターにアラビア語が蔓延する前でした。あの頃は平和だった、といえれば簡単な話ですが、そうでもなかったような。

第2位

國分功一郎『暇と退屈の倫理学』新潮文庫

こちらも去年刊行ですね。みんな買ってはいるけど読み切ってはいない、でお馴染みの一冊です。高橋もまだ読み切っていない気がしています。単行本も持ってるんですがね。来年こそは完読したいところです。まだまだ売れてくれ!

第1位

朝井リョウ『正欲』新潮文庫

一位は今年実写映画化もされたこの作品です。賛否ありますが、"多様性"という言葉の軽んじられ方に言及しただけでも非常に価値のある作品だと、高橋は思っています。ここからどう考えていくか、どう生きていくか、ということが重要かと。何はともあれ、ひとまず読んでみることをおすすめします。あまり好きな言い方ではないですが、まず読んで損はないと思いますので。


いかがだったでしょうか。当店に通い詰められている皆様にとっては、大方予想通りだったでしょうか。あるいは「あれってそんなに売れてるんだ、じゃあ読んでみようかな」と、また購入リストが増えたでしょうか。後者なら、これほどの喜びはありません。

実を言うと、文庫ジャンルでのトップは当店オリジナルの「D坂文庫2023小冊子」でした。2位にダブルスコア以上の差をつけて、238冊でぶっちぎりの1位。まあちょっと趣向が違うので今回は除いてしまいましたが。ちなみに収益としてはここまで売ってようやくトントンくらいです。本が売れりゃそれでいいのだ!

このあと2023年の個人的ベスト的なやつも書きたいと思っておるのですが、そんな時間はあるのでしょうか。そんな時間があったら追加のビールを買ってきてまったりしたいところですが。はたして。よいお年を。

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