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【日記】そして僕らは恋の映画の恋の迷路に消えていくのさ

金曜、7時に目がさめるも、引き続き体に力が入らず休みますと連絡を入れる。腰を湾曲させて寝ていたせいか背中一面が痛い。LINEを見ると付き合っていた子から夜中に不在着信が来ていた。いつもだったら副業終わりで出られたかもしれないが寝込んでいてよかったと思った。ヨリを戻したいかと言われたら答えはノー。自分はもう風俗嬢に戻ってしまったし、じきに今の仕事を辞めてしばらくはこの道一本で引き続き貯金をする心算でいるからだ。彼だって専業風俗嬢の恋人は嫌かろう。それに、もう好きじゃない。

え?とだけ返したものの、既読になったまま返信がなかったが、昼すぎになって「すまん、酔っ払って電話しかけた」と連絡があった。しかけた(未遂)というよりした(完遂)では。あともう他人なので3個上の社会人にタメ口をきかれていることに対してムッと皺が寄った。自分が狭量な人間であることはよく分かっている。お腹が張っていて少し苦しく、かつ力が出なくて脳死で仕事をする。夕方の会議の後、今しかないと思って上司に退職したい旨を話した。9月目標で退職することを目標にして代表交えた話し合いを行う流れになり、初めて「辞めるんだなあ」とばかみたいだが実感が湧いた。上司は歳が近く大変親身になってサポートしてくれる人なのでありがたいなと思った。

退勤して久々にSCOOへ寄る。午前の暴風雨が嘘みたいに暖かく穏やかでビール気候だった。C.C.パンダ、確かに白ぶどうの爽やかなニュアンスを感じて美味しかった。電車で帰ろうとしたら山手線が遅延していて、暖かいし別にいいかと渋谷まで歩いてバスで帰る。スマホの充電がなく、オモコロ長島さんの新刊『センスは5% クリエイターをサポートするための45の技術』をずっと読んでいた。自己啓発本が苦手な社長が書く職場環境の整え方と銘打たれただけあって、社員ファーストの姿勢と「マジメにオモロを作る」ための就業ルールが素晴らしい。めがねを回収するためにコーヒー屋。犬2匹連れの常連さんと久々に遭遇。健さんがパドラーズよりうちのコーヒーの方が段違いに美味しいから、と言っていて頼もしかった。帰宅して腹部を見ると胃下垂で妊婦みたいてだらしなかった。日曜日、また好きだった人と花見の場で会えるので、なんとしてでも完璧な自分でありたい。食欲と太りたくない願望が拮抗している。セブンの惣菜だけで夕食を済ませ早々に寝た。

土曜、昼前に起きて副業先へ。ロンドンの古着屋で買ったレザージャケットが暑いくらいの初夏の陽気。休んで酒飲みたかったが、本指240分の予約があるので我慢。15時に店を出て外出コース。上野に行く約束をしていた。

上野公園は、というか上野全体が溢れんばかりの人人人。皆花見か観光だ。ティックトックを撮ってる外人もちらほら。本指が「小難しい展示だからまた今度でも…」と渋っていたが、え〜せっかくだし行きましょうよと半ば強引に背中を押して西洋美術館へ。企画展の『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』鑑賞。

本指は建築が好きなので建築家の展示を観に来たかった、とのことだったが、結果的に現代アートの要素が多く自分も彼と同等かそれ以上ぐらいには楽しんでしまった。バッタリ布施琳太郎さんfeat.〜離さんの作品が見れたのはかなりの個人的な収穫だったし、山谷のドヤ街の内情が絵や言葉や布でありありと描かれた展示ブースには作り手=弓指寛治の並々ならぬ熱量を感じた。作品を通して声が聞こえるような生々しさがあった。

梅津庸一、坂本夏子、安藤裕美らパープルームの展示も前衛的な現代アートが部屋一面に張り巡らされていて良かった。人の脳内を見ているようだねと本指に言ったら「そうだね」と返されたのちに、僕の頭はこんなに詰まってないけど、と冗談めかしながら卑下していた。何考えてるの?と聞く度に「何も考えてなかった」と言われてしまうのだけど、それはあながち嘘ではないのかもしれない。

美術館を出る頃にはほとんど日が落ちていた。少し肌寒かったが、上野公園の中央の方でひしめきあう屋台を見て回り、遠野ビールの屋台が出店していたので一杯ずつ買い、公園の端にある岩の上に座って休憩がてらに乾杯した。自分はシードルにしたが、そこそこアルコールが利いていて全部は飲み切れなかった。18時すぎに公園を出、人混みのアメ横を通って上野駅へ。ほとんど立ちっぱなしで疲れてしまい、帰りの電車ではあまり会話らしい会話をしなかった。新宿駅で解散し、店に「終了しました」と連絡を入れて最寄駅へ戻った。

コーヒー屋へ行くも早い時間なのもあってノーゲスだったので、イワサキさんと雑談しながら残り数少ないATOMを飲んだ。空きっ腹の胃にもったりとしたスムージーがしみる。異業種転職を考えられないからイギリスに行くという決断はイワサキさんにとってどうか、という話に対して、「俺は異業種転職をした側の人間だから言うけど、停滞するぐらいならいっそ環境を変えるっていうのは間違いないよね」との後押しをしてもらった。イワサキさんは元々健さんと同じアパレル畑にいて、今はIT系のベンチャーでMGポジションだと言うのだからカッコいい。見た目もおしゃれだし、話していても自分と違って面倒見の良いお兄さんだなと思う。将来的には地元立川で店を出したいとの談。器用だけれどそれを振りかざさないフランクな人柄が好きだ。タップのビールを一番小さいサイズで飲んで帰宅。

夕食、コーヒー屋で金曜日に健さんからお裾分けしてもらったバテレの缶(DIPA)に市販のサバサンドを合わせる。ほうれん草とアボカドが安かったので中に詰めた。カキフライとクリームコロッケ。突然の給油活動で胃もたれした。0時頃になって寝た。

日曜、朝早い時間に目がさめるも長い時間天井を見つめていた。まだ少し胃が重い感じがする。11時頃になっていそいそと支度。古巣である吉祥寺の某バーの花見へ。初夏の陽気で暑く、新宿駅のホームで水を買おうと思ったらレッドブルとホットドリンク以外準備中の表示で狼狽た。

わかってはいたものの人が多すぎる吉祥寺。井の頭公園に着くと常連の友人がブルーシートの上で手を振ってくれたので向かう。4年ぶりの花見企画ということで、(自分がほとんど足を運んでいないのもあり)知らない顔が圧倒的に多かった。が、一方でもちろん馴染みの顔もちらほら。ロンドンから弾丸で日本に来ている年上のイギリス人の子、前の職場が近かった関係でよく飲みに連れて行ってくれた人、超がつくほど古株の妙齢の女性などなど。髪を染めていたり、伸ばしていたりしたのもあって「あの人か!」と認識するのに時間がかかった。自分に競馬を教えてくれたギャンブラーかつ姉御肌の子が、失礼ながら見違えるほどふっくらしていて、何があったんだろうかと思ったが特に聞かなかった。好きだった人は例年通りに遅く来て、カットフルーツをばらまきながら自分とは別のサークルで談笑していた。

結論から書くと、好きだった人とはこの日一言も話さなかった。自分も自分で別のコミュニティに入れさせてもらい(自分があまりにも店に行かなさすぎて新参者かと思われていたみたいだが、一応6〜7年通っている古参である)、初対面の人たちと音楽の話などなどで盛り上がった。酒が入っているとなお舌が回る方だけれど、別にシラフであっても人と会話することに苦労はしない。なんなら自分はこの店一帯の中でも「話が面白い人」の部類に入るのではないかと自負しているほどだ。手を叩いておおげさに笑ったり、リアクションも平均値以上は出せる。自分の話を聞いてもらいたいのもあるけれど、自分が常に会話のイニシアチブを握っていたい。これはひとつの承認欲求のあらわれだと思う。

それこそ通いたての20〜21の頃はコミュ力など皆無だったけれど、社会人経験ないしは風俗勤務経験が自然と人を惹きつける会話スキルを身につけさせてくれた。性格の悪いことを書くが、どいつもこいつもテンプレ会話で中身ないな、と思うことは少なくない。この店に来なくなったのはそれが原因でもある。実際、この日初めて話した人のうちの1人から「星野は良いリアクション返してくれてええなあ」と褒めていただけた。好きだった人が会話の中心になりやすいのも、多分彼の展開する会話術に皆引き寄せられているのだと思う。

皆どこから聞きつけたのか、あらゆる人から「ロンドン行くんでしょ?」と聞かれ、その都度丁寧に返した。自分よりふたまわりぐらい上のおじさんに「UKロック好きな女の子最高だね、飲み行こうよ」と誘われて、全然行く気にならなかったが適当にいいですよお〜と返した。タトゥーいいね、とか、この間見かけて話したいと思ってて、とか、なんだかおじさんに話しかけられることが多く、うまくかわして擦り抜け、仲の良い友人グループの方へ逃げた。好印象を持ってくれるのはいいし、自分もそれなりの対応はできるのだけど、客観的に見て今この光景って自分に利益ないよなと思い気持ち悪くなった。おじさんがたとプライベートで酒をかわすよりも、好きだった人と二人で過ごしたい。今日は話せなかったが、イギリスに行く前にまた。

1人一品持ち込み制のフードから手作りだという唐揚げを二つ取って食べたら実家の味がした。あとは高そうなパック寿司からイカを一貫。酒は350ml缶を5本ほど。普段度数の高いクラフトばかり飲んでいるのと、トイレに何度も立ったのもあって全然酔わなかった。途中で付き合っていた子の後ろ姿を見かけたが特に話しかけるとかはなかった。18時半ごろにお開きになり、バーで二次会をするために皆で来た道を戻ったが、好きだった人はどこかに消えてしまって寂しかった。店で一杯だけハイネケンをあけて先に会計。常連同士の謎飲み会に誘われ、行けたら行きます(多分行かない)とだけ伝えて帰った。

アトレの地下を三周し、蟹とほうれん草のラザニアが目にとまって買う。思えば7時間以上喋り倒しており、さすがに反動で虚無になってしまった。さっぱりしたものが食べたくなって、セブンの春雨サラダ。この組み合わせ何?スーパーカーの「My girl」の歌詞でつらくなった。好きだった人は今日誰とどんな会話で4年ぶりの花見企画を楽しんだんだろう。自分はいつまで過去に生きているんだろう。色々な思いが胸の内をめぐってしんどかった。

淡い願いの恋は叶ってたんだった。
永い誓いの愛に構えてたんだった。
期待を引いた分の甘いストーリーを
ギターを弾いて今日は歌うつもりさ。

紙のタバコを久々に買った。直感でケントのスリムのなんかシトラスっぽいやつ。家ではもっぱら電子派なので、買ったはいいもののほとんど出番はなさそうだ。思えば容姿も会話のスキルも自分は無能の状態から努力で勝ち取ってきたもので、そこは誇ってもいいのかもしれないなと思った。炭酸でお腹が膨れていたのと単純な疲労感で23時前に寝た。