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【日記】Dream Job

月曜、出社。件の爆速ライターから週末に連絡があり、「肝硬変で長期入院する運びになったため直近の取材をキャンセルしたい」との由。納品が異常に早く、しかしながら本来のクオリティを担保できていない理由が分かり、失礼ながらどこか腑に落ちた。あとはこちらで巻き取るのでご療養ください、と連絡を入れてから、担当してもらう予定だった直近3本分の取材を各方面にキャンセル、またはメールインタビューでお願いできないかと謝罪する。しかし運良く、というか、質問原稿はすでに上がっていたのと、先方が親身になってくれたおかげで、うち2件はレーベル側でインタビュアーを手配してくれたし、残り1件は自分の相互フォロワーに依頼をしたところ、無事快諾してくれた。ピンチをチャンスに。恵まれている。

定時退勤。飲みに出たい気持ちと家でまったり過ごしたい気持ちが半々。結局、スリーフィートでクラフトビールを2本買って帰る。奈良醸造とアマクサソナーのIPA。お腹が異様に張っていて、正直全然空腹を感じていなかったが、いそいそとホットサンドを拵えて、ハンターハンターの続きと一緒に食した。定時で帰るとこんなに自由な時間を享受できるのか。深夜稼動が続いてたので、定時=ほぼ休み、みたいな感覚になっている。彼氏に、クリスマスデートは坂本龍一の展示巡りをしようと提案したら「行きたい、行こう、行きます」と回答があり、嬉しく思う。そういえば、恋人ありきのクリスマスは本当に久しい。だらだらと食べ飲みしてしまって、0時半頃眠った。

火曜、一度目が覚めるも全く起き上がれない。二日酔いほど飲んだかな?と思い、Slackの勤怠チャンネルに一旦様子見で休みますと投げる。ほどなくして、これあれだわ偏頭痛だわ、と自覚。社内の人間もいつもより多く体調不良者が出ていたようだった。後頭部のじくじくした痛みを抱えながら二度寝して、昼前に「とりあえず会社には行くか…」と身体を縦にし出社。とりあえず行って、無理なら途中で帰ろうという策。会社を休んだり、在宅勤務という行為に社会から疎外されているような寂寥を感じるので、どんな体調不良でも(風邪など除く)午後にはなんとか踏ん張って出社したい。なぜか。無理をしている自分を外側から見るのが好きだから。

出社の折、チバユウスケの訃報を見る。電車の中で、身体が一瞬硬直した。自分が彼を知ったのはバースデイの活動初期だった。当時、学校に通えずテレビとパソコン浸りだった頃、スペシャのパワープッシュで「なぜか今日は」のMVが繰り返し流れていて、その度にリモコンを置いて眺めていた。それからROSSOやTMGEも人並みに聴いて今に至る。けれど、あのどこにも行けなかった時代に〈なぜか今日は殺人なんて起こらない気がする〉〈でもなんか今日は/でもきっと今日は〉と歌われていたことは、どこにも行けなかった、何も為せなかった当時の自分にとって確かに希望だった。シャロンもバードマンもさよなら最終兵器も世界の終わりも大好きだけど、リスナーに寄り添える優しさと、自身から末長く滾る熱をバースデイ時代の不摂生と加齢が由来したガシャガシャの嗄れ声で歌うチバが好きだった。

教授の時もユキヒロの時も同様に哀しかったが、チバの急逝はあまりにも若く、リアルで、午後は終業まで心ここにあらずだった。彼氏も相当落ち込んでいた、けど、多分チバにとってはこんな風に辛気臭くいられるのは「ふざけんじゃねえ」と言わんばかりに嫌なんじゃないかなという話をした。25年前、フジロックの中止動画で「絶対死ぬなよ!」とオーディエンスに向かって叫んでいた、日本が誇るロックンローラーが死んでしまった。日付が変わると国内リリースの嵐。色々聴いて、3時半頃に寝た。

水曜、出社。寝起きは良かったが会社に着いた瞬間猛烈な眠気。昨日と打って変わっての晴天で、日曜まで日中は春の陽気だそうだ。冬の曇天ほど「来なくていいもの」ってないよな。家を出る間際、可燃ゴミと一緒に家の鍵を棄ててしまいそうになり、馬鹿馬鹿馬鹿!と一人焦る。昼、たべる牧場ミルクのビスケットサンドとホットコーヒー。昼の固形物、ミルクアイスを挟んだビスケットたった2枚だけでも若干抵抗がある。普通じゃない。イギリスにいた時は夕方にカフェラテとホテルに隣接しているカフェに売っていた、大きなパリパリのクロワッサンを夕方のおやつ代わりにしていたのに。滞在先でしか解放できない食のリミッターだ。関係ないけど、来月あたりには一人で慰安旅行がしたい。遠くなく、派手な観光地でもなく、山形あたりがいいな。今月はどうにも頑張らなくてはいけないので。

夜、なんだか忙しく、眠い目をこすりながら働く。金曜日は通院やらで午後休を取ったので、夕方から彼氏と出かけることに。どこに行こうかと勘案した結果、過日、二人で飲んだばかりのインクホーン・ブルーイングを訪れるのと、なんだかんだいつもビアバーか家かなので、シンプルに居酒屋を梯子して飲もうという流れになった。ここ数日ずっとお腹が張っている感覚があり、そこだけ少し不安だが、せっかくお互い喫煙者なので席での喫煙と生ビール、とめかしこみたいところ。寝入りがものすごく遅くなり、明日の出社を半ば諦める。4時すぎに寝た。

木曜、なんとか起きて出社。少し遅れそうだったが、電車の遅延でカモフラージュして事なきを得る。春みたいに暖かくて半袖でも平気だなと思ったが、社内の人間に誰一人半袖民はいなかったので薄手のトレンチコートを羽織ったまま仕事。ここのところずっと、平日の大半は朝から深夜まで働いて、意識が飛びそうになることも稀じゃない。だけどそれでもかっこいい女でいたい、容姿も中身も。年下の愛しい彼氏がやすやすと離れていかないように、強かな女でありたいと思う。加えて言えば、この人しかいないと盲目になっていた年上の男からできるだけ距離をとりたいのだ。あの時、選んでおけばよかったとひどく後悔するように。だから自分は誰よりも幸せにならなくてはいけない。

早上がりして渋谷へ。クアトロで半年ぶりヤードアクト。この日がどれだけ待ち遠しかったことか…早めに着いたので、ロッカーに荷物を入れて待機。SMASH先行があったのを知らずに「一桁台だ!」と浮かれていたのでSMASH先行の番号から呼ばれ始めてビビるも、なんとか2列目の中央、ジェームスの目の前に。最前列には行けないかあと思っていたら、開演とほぼ同時にモッシュに揉まれてグイグイと押され、最前列中央の2人の間に挟まる形になった。前回の来日で「君のネイル最高だね!また12月に必ず会おう」と言ってくれた、大好きなジェームス・スミスがほんの手の届く距離に。終始アッパーでダンサブルな空間に踊らされながら、イギリスから十何時間もかけて半年ぶり二度目の来日を果たしてくれたことに少しだけ涙が出た。自分も今年、現地を訪れたからこそ、海外アーティストと日本のリスナーに隔たる「距離」にはほとほと感慨深くなってしまう。

大好きなPour Anotherはやらずに100%Endurance〜Trappers Peltsでしっとりとゆるやかに終わっていったが、やはりそこまでに至る緩急の付け方、いやほとんど常時ボルテージMAXの雰囲気にすっかり飲まれてしまった。ジェームスは終始ニコニコしていてアグレッシヴなマイクパフォーマンスを披露する一方、ライアンやサムはクールな佇まいながら力強い音圧を展開しているのも良かった。途中、メンバー紹介の折り、ジェームスがサムに向かって「バンドの次に大切な存在、二番目のベストフレンドなんだ。」と話していたのを聞いて、「それはセカンドフレンドでは…?」と思った。その直後、親友の証としての頭にキスやハグも含め、彼らがどれだけ友好的で愛に満ちたバンドであるかを実感した。10代の頃はほぼ日本のアーティストしか聴いてこなかった自分が、26歳になってこんなに熱をあげられるUKバンドに出会えたことはほぼ奇跡に近しくて愛おしい。一時間+アンコール1曲と短尺だったのもあって、まだまだ観足りない。来年の渡英時には現地で観られたらいいな、もちろん日本にもまた来て欲しい。

21時半に帰宅。アドレナリンで眠気がすっかり吹き飛んでいたので、コーヒー屋へ行こうか悩んだけどシンプルに疲れていたため直帰。無理に脳を起こしていたせいか感覚が変。何食べたらいいかわからなくて、コンビニをぐるぐるするも結局家にあるもので済ませてしまった。感想をSNSに投稿して、友人や彼氏と少しLINEをして、0時前に寝た。