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【偏愛土木写真0026】暮らしを守る九州最大規模の重力式コンクリートダム

 このコーナーでは、土木写真部の部員が一押しの土木構造物やお気に入りの写真をご紹介します。
 第26回は、熊本県球磨郡あさぎり町の白髪岳を源とし、宮崎県の西諸県盆地、鹿児島県の大口盆地、川内平野を貫流し、薩摩灘へ注ぐ九州屈指の大河川「川内川」に建設され、重力式コンクリートダムとして九州最大規模を誇る「鶴田ダム(鹿児島県薩摩郡さつま町)」です。

 川内川の中流に位置する鶴田ダムは、1966年(昭和41年)の完成以来、約半世紀に渡って、洪水調節と水力発電を行ってきましたが、2006年(平成18年)7月豪雨に伴う計画規模を超える洪水では、川内川の上流から下流に至る3市2町で浸水家屋2,347戸に及ぶ甚大な被害が発生しました。
 これを受け、2006年(平成18年)から、川内川河川激甚災害対策特別緊急事業により、堤防や分水路の整備などが進められるとともに、2007年(平成19年)には、鶴田ダム再開発事業が採択されました。
 この事業は、新たな放流管を増設し、より低い貯水位まで放流できるようにすることにより、洪水期の洪水調節容量を約1.3倍にするもので、ダムを運用しながら水深約65mで約60mにも及ぶ堤体削孔を行うなど日本最大規模の再開発事業となりました。

再開発事業中の鶴田ダム(2013.7撮影)
天端構台の設置状況(2013.7撮影)
減勢工増設中の様子(2013.7撮影)
堤体削孔用の施工機械(2013.7撮影)

 2019年(平成31年)1月に再開発事業が竣工し、生まれ変わった鶴田ダムは同年7月に国土交通省が進める「インフラツーリズム魅力倍増プロジェクト」で、社会実験を実施するモデル地区に九州で唯一選ばれ、ダムを観光資源として生かす試みが進められています。
 堤体の真ん中あたりに位置するコンジットゲートの点検を兼ねて行われる放流の一般公開の際には、ダム堤体の近くまで歩いて行くことができ、風向きによっては、ダム愛好家の間で「ダム汁」と呼ばれる放流水の水しぶきを浴びることできます。

鶴田ダム観光放流【全景】(2019.11撮影)
鶴田ダム観光放流(2019.11撮影)
観光放流の様子を減勢工付近から撮影(2019.11撮影)
クレストラジアルゲート(2019.11撮影)
風向き次第では「ダム汁」が浴びられます(2019.11撮影)

 ぜひ多くの方に訪ねていただき、近年、観光資源としても注目されているダムの魅力を実感していただきたいものです。

構造概要
 所在地 鹿児島県薩摩郡さつま町
 河川名 川内川水系川内川
 形 式 重力式コンクリートダム
 堤 高 117.5m
 堤頂長 450.0m
 総貯水量 12,300万m3
 管理者:国土交通省
 完成年:1966年(昭和41年)

鶴田ダムの位置 31.988938, 130.493779

鶴田ダム再開発事業の概要(九州地方整備局、土木研究センター)

https://www.pwrc.or.jp/thesis_shouroku/thesis_pdf/1106-P026-029rep_yasuda.pdf

(動画:九州地方整備局)

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写真・文:岡部 章 土木写真部長
 1992年に宮崎県庁に入庁。瓜田ダム建設工事事務所での勤務を皮切りに、県内各地で土木工事の調査・設計・監督業務に携わる。
土木構造物を世界にただ一つのオーダーメイドの作品と捉え、その魅力をより多くの人に伝えようと、2014年に「土木写真部」を立ち上げる。
 ライフワークは土木広報と景観まちづくり。宮崎県県土整備部都市計画課長補佐、日本ダム協会認定ダムマイスター。