雪花の盾

 とても恐ろしい夢を見た気がする。何もかもが完璧で幸福で、それでいて壊れているような夢を……

 目を覚ます。純白の部屋。人理継続保障機関フィニス・カルデアの個室。記憶を辿る。私は先輩、いいえ、マスターと共に特異点を修復し、カルデアに帰還した。そこまで思い出したところで扉が開く。「おはようマシュ。」聞きなれたDr.ロマンの声。ああ、私は帰ってきたのだと実感する。「おはようございます。その、どうして私の部屋に?」「おぼえてないのか、ははは、参ったな。でも無理もないか。特異点から帰還した直後に簡易メディカルチェックはしたんだけどね。でも体力の限界がきてた君たちをあまり長く拘束するわけにもいかないからね、それで今日の朝にメディカルチェックをということになってたんだけど…」記憶を手繰り寄せる、確かにそのような話をしたような気がします。

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 「よーし、メディカルチェック終わったぞ。疲労と軽度の負傷、これならしばらくの休養で大丈夫そうだ。」チェックが終わった。私はどうやらまだ先輩のサーヴァントとして戦えそうだと安堵する。「私はまだ先輩のお役に立てるのですね、この身体をくれた私の中の英霊に感謝しませんと。」そうするとロマンは少し悲しそうな顔をして、それからまた笑顔で「今はゆっくり休むんだよ。」と言ってくれました。そして「何か心配なことや相談したいことはある?」と。「その、先輩と一緒にいると胸がドキドキするんです。何かおかしいのでしょうか……特異点ならば先輩を守らなければという緊張感や戦いへの恐れだと説明がつくのですが。このカルデアの中、安心できる場所にもかかわらずマスターとともにいると止まらないんです。」そう思い切って相談しました。何か些細な問題でもあったら先輩の一大事です。でも少し不思議そうな顔をして「それはちょっと…わからないなぁ。少なくとも心身に異常は無いよ、それは医者として保証する。」とだけ言われました。

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 Dr.ロマンにもわからないことがあるようです、しかしこれでは困りました。誰か詳しい人がいると助かるのですが…。そう思いつつ食堂へ向かっているとサーヴァントたちの集団と行き当たりました。考えてみれば歴史上の英雄が目の前の廊下を歩いているのは不思議な光景ですが、カルデアでは見慣れたものです。そうしているとアマデウスさんがこちらにやってきました。「どうしたんだいフロイライン、難しい顔をしているけどなにか悩み事かい?」「おはようございますアマデウスさん。悩み事というほどのことではないのですが…いえ、先輩の近くにいるだけで胸のドキドキが止まらないんですがその理由がわからなくて、ドクターもわからないみたいなんです。心身に異常はないみたいですけど…」「ははは、なんだそんなことか!わからないのもあのドクターらしい」「そ、そんなことってなんですか!?」思わず声を上げてしまう。「簡単なことだよお嬢さん、それはね、愛だよ。親愛か情愛か友愛か、それは僕にはわからないけどね。フランスの特異点で伝えたことが実っていたようで嬉しいよ。」

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 私はまだ愛がどのようなものかはわかりません。でもこの胸のドキドキが愛だというなら、先輩と共にいるときに感じる少し心地よいドキドキを大切にしていきたい、そう思いました。

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