クエスト・オブ・ネオサイタマ・アンダーグラウンド #3

 イクサは終わった。そしてただ一人残ったリアルニンジャ、ヴァルゲイトはイクサで負った傷を癒すためにアグラ・メディテーションをしていた。いつの間にか彼は凶悪な恐竜じみた姿から元の人間の姿に戻っていた、ダイナソー・ヘンゲ・ヨーカイ・ジツは負担が大きく乱用すべきものではないのだ。

((なんとも、油断したものよ。これでこの研究室も破棄だ、忌々しい。))

そう心の内で毒づき、物思いに沈んでいった。

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 ヴァルゲイトはリアルニンジャとしてはさほど古い存在ではない。彼は黄昏の時代、リアルニンジャが力を失いつつあった江戸時代に生まれた。厳しいインストラクション、クラン間のイクサ、ハナミ儀式。遠い過去の輝かしい記憶、たとえ黄昏の時代であったとしてもそれは。

 だがしかし、ニンジャとなってからはその感慨も喪われ、むしろ絶望が襲い来た。あれほど焦がれた力を手にしたところで所詮は黄昏の時代のもの。如何にモータルとは隔絶した存在とはいえ、彼の力は遥か昔、平安時代の神話じみたニンジャには、ましてや伝説上のヌンジャに遠く及ばなかった。いいや、彼自身が至らないから届かないという話ならば納得もしただろう。江戸時代ニンジャのカラテもジツも、記録に残された平安時代のものと比べると遥かに小規模に成り果てていたのだ。この事実を知ったヴァルゲイトは世界を呪った、そして疑問を抱いた。

 今からでも平安時代の高みに登る方法はないものかと。

 ヴァルゲイトが天啓を得たのはこの疑問を得た少し後である。なんでも「ニンジャを殺す者」と名乗るニンジャ狂人が暴れまわっていたらしい。特筆すべきことに、原因は不明だがモータルが急激にニンジャ化というのである。ここでヴァルゲイトは一つの可能性を見出した。原因がなんであれモータルがニンジャになることができた。それは通常ありえないことだ、だが件のモータルは一瞬にしてモータルからニンジャの高みへと登ったのだ。

 ならば、ニンジャも同様のことが可能ではないか。通常不可能なジャンプをたかがモータルが成し遂げた。ならばニンジャができないはずはない、より高位のニンジャ、あるいはヌンジャにすら飛躍できるかもしれない。

 いや、実際は逆なのかもしれない。モータルがいとも簡単にニンジャへと変容できる。ならばニンジャとモータルの間にさほどの違いはないのか?ニンジャとヌンジャの差とはいかばかりか?いずれにしてもヴァルゲイトは探求を始めた。

 ニンジャとは、ヌンジャとは何かを知り、遥かな高みに登ること。あるいは、ニンジャとヌンジャの本質的差異などないと示し、高みなど存在しないことを証明すること。

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 ((今回の実験も有用なデータを取れた。やはり被験者の血中カラテ濃度を強制的に高めることは身体の不可逆的変化とカラテの強化を促し…))

 そしてヴァルゲイトは立ち上がり、もはや廃墟となった研究室から立ち去った。

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 ネオサイタマ某所、多発していた行方不明事件も沈静化。株価も持ち直し、世界は何事もなかったかのように動き続ける。三人のアマクダリニンジャの物語を知るものはいない。ただアマクダリの記録に「派遣した三名のニンジャが作戦中に死亡」と残されるのみである。

クエスト・オブ・ネオサイタマ・アンダーグラウンド 終わり

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