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六月の夜の都会の空

 六月の夜の新宿区を、西に向かって自転車で駆ける。
 山手通りと早稲田通りの交差点、地下鉄東西線落合駅の入口横に、二階建てのマクドナルドがある。夥しい数のシェアサイクルが、店の前で待機している。ほぼ全てが、ウーバーイーツもしくはウォルトの配達ボックスを積載している。
 ドコモバイクシェアとハローサイクリング、台数が多いのはいずれなのか? 特に数えることはしなかった。
 コロナウイルス以降の社会の変化によって、自転車宅配ビジネスはこの数年で著しく成長した。その勢いは、現在も全く衰えていないように見える。
 この風景こそ、バイタリティそのものの具象化であり、人々の生活力、都市の生命力なのだと感じる。少なくとも、ウイルスや細菌によって東京という都市が滅びることは無いだろうと思わせてくれる。
 頼もしく、心強い。爽快な気分になる。
 (この街のどこかに核ミサイルが落とされたとしても、生き残った誰かが走り始めるのかもしれない。)
 
 今夜はサイクリングに丁度良い涼しさだ。
 ほとんどの車両のハンドルに、スマホホルダーがセットされている。勿論、各配達員の私物だ。人工の星に導かれて、彼らは六月の夜に走り出す。
 自分は、この近辺は学生時代から知っている。山手通りの地下を南北に走る、都営大江戸線がまだ開通していなかった、二十世紀末から、自転車で走り回っている。もちろん、当時はスマートフォンなど存在していない。誰からも何も教わる必要もない。
 だが、山手通りを北上する際に待ち構える、西武新宿線と妙正寺川に架かる橋の勾配は厳しい。中落合や豊島区の方向に進むならば、電動サイクルの助力を最大限に仰いだ方が賢明だろう。

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