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【Q5.南極観測船宗谷・特急宗谷・宗谷岬】2.南極観測船宗谷から札幌まで(東北新幹線・北海道新幹線完全乗車)

 東京国際クルーズターミナル駅は、午前から降車客が多いが、そのほとんどはフジテレビ側の出口に向かっていく。


 トラブルが発生したため、ゆりかもめは遅延しているとのアナウンスが入る。一一時〇六分発の車輛がやって来たのは、一一時一三分であった。
 臨海部を走るゆりかもめの車窓については、既に多くの人が言葉を費やして賞賛し、また映像を記録している。その上に、今更私如きが、付け加えることが何かあるだろうか?
それでも、窓際に貼りつき、ただ無心にスマホを外に向ける。
 レインボーブリッジを渡る。橋上からの展望は確かに素晴らしいものだが、金網などの遮蔽物が絶えず視野を妨げ、開放感を半減させる。スッキリしない。安全上必要なのであろうが、残念な構造だ。この点は、車窓を妨げる柵が物理的に存在しえない、東京モノレールの方が恵まれているだろう。

 かつて、東京ヘリポートから一般道を通ってレインボーブリッジを渡り、浜松町までを結ぶ路線バスが存在したが、その車窓も、ゆりかもめより見通しが良かったと記憶している。その上、運賃も安かったように思う。
 ループ線を下り、橋を渡り終える。陸側の埠頭地帯に差し掛かると、自分はついつい、山手線側の雑居ビルの隙間を凝視して、東京モノレールの姿を探してしまう。東京モノレールに乗った時は、逆に海側の車窓を凝視しゆりかもめの姿を探してしまう。

 一一時三二分、終点、新橋着。駅舎内には、これからお台場方面へ向かう人の凄まじい行列が出来ている。全ての空間が人で埋め尽くされている。いくら夏休みとは言え、これは明らかに異常だ。コミケはまだ一週間先だ。アナウンスによると、りんかい線が何らかのトラブルで現在運行停止中とのことだった。 

 新橋駅のみどりの窓口で、稚内までの乗車券を買う。若い女性の係員は、正直にも北海道の鉄道に余り詳しくないと自己申告してくる。カウンターの時刻表を開き、希望する経路を説明しながら、切符を発券してもらう。 

 次いで、東北・北海道新幹線の空席について尋ねる。一四時二〇分の「はやぶさ・こまち27号」ならば、通路側に空席があると言うので、それを買う。この新幹線に乗り、新函館北斗にて特急に乗り換えれば、今日中にギリギリ札幌まで辿り着くことが出来る。

 それにしても、随分時間がある。新橋駅前のビルに入った小諸そばにて、朝食兼昼食を喰う。ここも混んでいて待たされる。 
 ざるそばを食べた後、烏森口の駅前広場やSLを撮影する。にわか雨が降ってきたので屋内に逃げる。コンビニのイートインにて充電を行いつつ時間を潰す。 
 一三時五一分新橋発。五五分東京着。 
 これから乗るはやぶさは、一四時二〇分発の予定だが、先行する列車にトラブルが発生したため、出発が遅れるという。自身の指定席である通路側に座って出発を待っていると、窓際席の乗客がやってくる。高齢女性だ。赤く巨大なスーツケースを、網棚に上げるのに手間取っていたので、手伝う。  
 東京駅を実際に発車したのは、一四時二六分だ。せめて、発車時から秋葉原ぐらいまでの車窓は撮っておきたいと、丸の内側に向けてスマホを構えていると、窓際の女性が席を代わって下さるという。何と言う幸運だ。僥倖だ。女神のような人だ。女性は、車窓には特に興味が無いと言い、その発言通りに文庫本を開いて読み始める。充電プラグも、自分には必要ないので好きに使って良いという。本当に神様だ。 

 遅延を取り戻す必要があるためか、このはやぶさは順調に速度を上げていく。小山、宇都宮を通過する辺りで、既に時速300kmを超える。痛快だ。車掌によると、仙台と盛岡で遅れを取り返し、新青森には定刻に着く予定とのことだ。  
 女神のように親切な女性は、新青森にて降りる。  


 奥津軽いまべつ駅を通過し、青函トンネルに向かう。トンネル進入時に、車掌がアナウンスと解説をしてくれる。はやぶさには何度か乗っているが、このアナウンスがある場合と、無い場合がある。昨年乗った「はやぶさ・こまち45号」(東京駅を一九時二〇分に出発する新函館北斗までの最終列車)の時は、特にアナウンスは無かった。
 北海道に上陸する。車内の電光掲示板は、北海道各地の気象情報を繰り返し伝えるようになる。 
 新函館北斗には、定刻通り一八時二九分に到着。この駅に来るのは、昨年の九月以来だ。 
 次に乗る、札幌行きの北斗21号の発車時間は一九時〇六分。少し余裕がある。駅スタンプを押す。改札外に一度出て、ホテル側の駅前広場を何となく眺める。矢倉が組まれ、夏祭りのようなイベントが何か行われているようだ。司会者らしき人物のトークが聞こえてくる。 



 反対側の出口も少し見に行ったが、相変わらず何もない。 
 在来線改札に入構する。これから札幌まで、引き続き長時間列車に乗ることになるので、何か飲食物を調達しようと思ったのだが……。在来線側の売店は、既に閉店している! 痛恨の判断ミスだ。新幹線改札内の売店はまだ余裕で営業しているので、そこで買っておくべきであった! 函館本線のホームは混んでいる。流石に、観光シーズンの北海道だ。
 
 一九時一六分、特急北斗21号は新函館北斗を発車。自由席なので混雑を覚悟していたが、予想に反してかなり空いていて、窓際の席に座れた。 車窓はすぐに暗くなる。噴火湾に沿って走る区間は、昼ならば海岸線の美しさを楽しめるのだが、この時間だとそれは難しい。だが室蘭周辺の工業地帯の夜景を見ることは出来た。北海道の夏の夜を、工業地帯の柔らかい光が優しく照らす。 

 明日乗る予定の宗谷本線の状況を、スマホで確認する。八月始めの大雨の影響で、宗谷本線は部分運休が続いていて、明日も稚内までは行けないようだ。そろそろ復旧すると楽観的な予測をして、見切り発車でこの旅を始めたが、考えが甘かった。 
 旅行サイトで検索した限りでは、札幌周辺の宿泊施設は、当然ながら殆ど埋まっている。残っているのは、大幅に予算超過の高級ホテルと、主にすすきの周辺にある女性専用のドーミーインばかりだ。 
 苫小牧を発車し、南千歳を通過。雨が降ってきた。二二時四一分札幌着。今夜は快活クラブに泊まるつもりで、南口店に入る。以前も使ったことがある店だ。全ての種類のブースが、完全に満室であった。マズイ。雨の中を、慌てて別の店舗まで走る。緊迫した状況だ。最悪の場合、雨の札幌で野宿を強いられることとなる。 



 幸い、狸小路店にて無事にブースを確保できる。雨の中、再び外に出るのも嫌なので、夕飯はフードメニューの豚丼にする。ブース内のパソコンから注文可能なシステムだ。今日は、これ以上もう動きたくない。 

  

【Q5.南極観測船宗谷・特急宗谷・宗谷岬】一日目の行程

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