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【Q4完結】【Q4.直行しない水戸直行業務】5.そして出勤へ

  一六時四二分、水戸駅着。
 スマホアプリから予約した今日のホテルは、水戸駅の至近である。北口から徒歩二分、ペデストリアンデッキを降りて直ぐの所だ。


 チェックインする。そのフロントの清潔さ、制服をきちんと着用し、整然とした接客を行うスタッフに安心感を覚える。昨日の宿とは大違いだ。入室する。本当に、全てがキチンとした普通のビジネスホテルだ。テレビは壁に備え付けの巨大モニターで、アベマ、ユーネクスト、フールー、YouTubeに対応している。これで素泊まり二九〇〇円、大浴場付き。今夜は大当たりを引いた!



 水戸駅の観光案内所は、夜まで営業している。流石に県庁所在地、県代表駅だ。お勧めの飲食店を聞くと、「天政」という店を教えてくれて、地図と一杯無料のクーポンをくれる。この観光案内所でも、スタンプを押す。

 入店する。やはり郷土料理である鮟鱇料理と、納豆料理に興味を惹かれる。注文は、タブレット端末入力式だ。タブレット注文自体は平成時代の後期からチェーン店の居酒屋やファミレスで見かけたが、その普及を加速させたのはやはりコロナウイルスだろう。
 鮟鱇料理は普通に美味だったが、納豆は何をどうしても納豆だと再確認させられる。私は、納豆は割と好きな方だが、やはり醤油でかき混ぜてご飯にかけて食べるのが一番旨いのではないか?


 茨城県は、都道府県観光ランキングにおいて最下位だと聞くが、自分としてはここまで、ほぼ全てが大満足であった。世評は全く当てにならない。

 よく眠れた。月曜日だ。指示された簡単な用事を水戸市内で済ませ、出社しなければならない。職場の人間から確認のラインが入っているので返信する。
 大浴場で朝風呂を浴びてチェックアウト。土産物を入れたレターパックをポストに投函。命じられた仕事はすぐに終わる。

 徳川斉昭が創設した幕末の藩校、弘道館を見物する。係員のおばちゃんが「今日は朝から、ワイシャツに革靴のお客さんが多いが、何か学会かシンポジウムでもあるのか」と聞かれる。自分は特に関係ないと答える。
 建造物内部や、扁額の写真を撮る。藩士達が藩主の御前で諸芸を披露した広場、藩主用の風呂と便所などを見る。撮影禁止の展示コーナーには、吉田松陰直筆の手紙が残されている。松陰は全国を旅した人で、水戸藩士とも交流があったのだという。スタンプを押す。




 水戸城の跡地の方へ進む。かつて城があった土地のある部分は中学校となり、ある部分は高校となっている。暑い。途中、進行方向左手に「水戸城址二の丸展示館」というこじんまりした展示施設を見つける。入って涼む。ここでもスタンプを押す。
 眼下の切通しを走る水郡線を目撃する。一昨日乗った路線だ。本数が少ないので、車輛が走る瞬間は撮影出来なかった。


 昼食は、エクセルビルという名の、水戸駅の駅ビル六階の蕎麦屋で食べる。窓際の座敷席が空いている。景色が良い。 


 指示された業務を無事終えた旨を職場に報告し、帰りの予定を伝える。
 時間まで駅ビルを散歩し、地下の食品コーナーで買い物をする。
 予定通り、一三時三七分発の常磐線上り列車に乗る。出社予定は一六時。列車が速度を上げるごとに、自分の内面もまた、旅人から被雇用者のものに近づいていく。自分は一匹のピクミンに、急速に戻ろうとしている。内面だけでなく、顔付きも次第にピクミンに似てくる。そうに違いない。

 途中、土浦にて乗り換える。
 上野東京ラインは、遅延することもなく都心に向かって軽快に走る。自分を現実に引き戻そうとするその速度、その爽快感が恨めしい。千葉県内を通過し、とうとう東京都内に入ってしまう。
 こうして、全ての業務は滞りなく完了した。この週は他に特筆すべき業務はなく、職場ではずっとマイクロソフトエクセルの操作ばかりをしていた。水戸の駅ビルを思い出すかと問われれば、別にそんなことはなかった。

Q4.直行しない水戸直行業務の行程表


 


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