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電車の中で人にお酒をこぼしてしまい、すみませんでした

 僕は以前、しばしば電車の中で缶ビールなどを飲んでいましたが、最近はまったく飲んでいません。なぜかと言うと、この記事のタイトルにある通り、知らない人にお酒をこぼしてしまい、非常に居たたまれない思いをしたからです。

 たぶん7年くらい前だと思うんですけど、飯田いいだくんというミュージシャンをやっている友人の家で、楽しくサシ飲みをしました。そしていつも通りベロンベロンに酔っ払い、最寄りの板橋駅まで2人で歩きました。改札の前で飯田くんとさよならして、埼京線の電車に乗って赤羽駅で降りました。それから、京浜東北線の大宮行きの終電に乗りました。電車はけっこう混んでおり、椅子に座ることはできなかった。

 僕はなぜか、缶ビールを左手に、缶チューハイを右手に持っていました。どうしてそんな状況になったのかは分かりません。まだ缶ビールが残っているのに、間違えて缶チューハイを開けてしまったのかもしれない。たぶんそうだと思います。両手が缶ビールと缶チューハイでふさがっていたら、電車の中で上手く吊り革や棒をつかめずにフラついてしまうことは分かっていました。しかしながら、ケチくさいことで有名な僕は、両方とも捨てることはもとより、片方の缶を捨てることすらできなかった。

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 僕は長椅子のまん中らへんの前に立ち、左手に缶ビールを持ち、右手に缶チューハイを持ったまま吊り革をつかみました。缶チューハイを保持しながら吊り革をつかむのは難しかった。電車が揺れたときに、「ちゃぷんっ」という音がして、アルコール入りの液体が少しこぼれた。その液体は、長椅子に座っているサラリーマンの膝のところに着地し、シミになった。僕は、一瞬で酔いがさめたような心持ちになったが、実際のところ全然さめてはいなかった。僕は両手に酒の缶を持ったまま「あ、すみません…」とサラリーマンに謝ったけれど、20代後半と思われる彼は僕の目をするどくにらみつけた。その目つきは7年以上たった今でも鮮明に覚えています。あれほど憎しみのこもった目で睨まれたことは人生でほかにないかもしれません。彼のスーツは高そうなものだったから、飲みかけの酒をこぼされたらそりゃ怒ります。そして僕には弁解の余地がまったくなかった。

 100%僕が悪い。そう思った僕は、せめてズボンのクリーニング代を支払おうと考え、尻ポケットから財布を取り出し、名刺を探した。とりあえず名刺を渡して、あとで連絡してもらおうと思ったのである。しかし名刺が見つからない。僕は両手に缶を持ったまま財布をいじくり回していたため、缶が不安定になり、ふたたびこぼしそうになったが、なんとか持ちこたえた。けっきょく名刺は財布のどこにも見つからなかったので、そのサラリーマンの隣の席があいた時、僕はすかさずそこに座った。そして酔ったいきおいで、被害者のサラリーマンに声をかけた。「あの、さっきはすみませんでした。クリーニング代を支払います」と。

 すると、若いサラリーマンはとても迷惑そうな顔をして、「いや、いいですよ。マナーは守ってくださいね!」と言いました。僕は「はい…」と力なく答えました。そして僕らは無言のまましばらく電車に揺られ、とある駅に到着すると、サラリーマンが立ち上がり、僕のほうに目を向けることなく扉から出ていきました。僕は「本当にごめんなさい…」と彼のスレンダーな後ろ姿に向かって謝罪しました。

 この事件が発生してから7年以上が経つけれど、僕は一度も電車の中で酒を飲んでいません。これからも飲むことはないでしょう。繰り返しになりますが、あの時のサラリーマンさん、本当に申し訳ありませんでした。

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