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男なのに痴漢にあったことがあります

 実を言うと、僕は一度だけ痴漢にあったことがあります。いまは42歳ですけど、それが起こったときは30代前半くらいだったと思います。

 僕は、やや混んでいる電車のなかに立っていました。満員電車の一歩手前くらいの混み方でした。僕は1駅乗ったら降りるので、3分くらいのあいだにそれは起こりました。目の前に立っている中肉中背のおじさんが、僕の股間に手を伸ばしたのです。僕の股間にあるモノをズボンの上からいじろうとするので、僕はびっくりして股間を両手でガードしました。するとそのおじさんは、ものすごく強い力で僕の両手をこじ開けようとしました。僕は恐怖にうち震えながら、必死におじさんの手から自分の股間を守りました。

 男が男に痴漢されているなんて恥ずかしいので、おじさんの手をつかんで「このひと痴漢です!」と叫ぶことはできませんでした。2分くらいのあいだ、おじさんの手から僕の股間を守る戦いは続きました。そして電車は僕の最寄り駅に到着しました。降りようとすると、そのおじさんが先に降りました。僕も続いて降りました。そしておじさんは、振り返ることなく、何事もなかったかのように僕の数歩先を歩いていきます。どうやらおじさんの最寄り駅は、僕と同じみたいでした。

 僕はおじさんの薄くなりかけた頭を見つめながら歩き、改札を抜けました。駅を出るとおじさんは僕とは違う方向へ向かいましたが、僕の股間を狙う痴漢おじさんが僕の近所に住んでいることに恐怖を覚えました。しかしそのあと、幸運なことに、その痴漢おじさんには一度も出会っていません。もしかしたらあの出来事は現実ではなく、夢のなかで起こったのかもしれません。でも夢にしてはひどく生々しかったので、おそらく夢じゃないと思います。いずれにせよ、たとえ男であっても、痴漢に遭うとものすごい恐怖を覚えることが分かりました。僕が女だったら、もっと強い恐怖を感じていただろうと思います。痴漢ダメ、ぜったい。

 痴漢とは違いますが、十数年まえ、上野駅の13番ホームにあるトイレで、知らないおじさんに個室へ誘われたことがあります。あとで知ったんだけど、上野駅の13番ホームの男子トイレって、ある種の人びとにとって有名な場所らしいですね。僕はそのことを全く知らずに13番ホームで電車から降りて、近くのトイレにおしっこをしに行きました。普通のトイレとは違う種類の空気が感じられたのは確かだけど、僕はとくに気にせず小便器でおしっこをしました。

 おしっこを終えてズボンを上げて小便器から3歩ほど離れると、知らないおじさんが声をかけてきました。「お兄さん、ちょっと個室行かない?」と。僕はその言葉が何を意味するかをすぐに悟って、「あ、すみません…」と苦笑いを浮かべて断りました。そして手も洗わずに逃げるようにしてそのトイレから去りました。遠くから振り返って眺めると、上野駅の13番ホームのトイレは、確かにほとんど人の通らないところにあり、怪しげな雰囲気を放っていました。

 僕が「お兄さん、ちょっと個室行かない?」と言われて「はい、行きます」と答えていたら、どうなっていたのだろう。けつあな確定だったのかもしれません。いまも上野駅の13番ホームのトイレは、ある種の人びとが集まる場所になっているのだろうか。もうそのトイレは存在しないのだろうか。グーグル先生に尋ねてみたらすぐに分かることなんだろうけど、あんまり尋ねてみる気持ちにはなりません。そして僕は、そのトイレがまだ存在していようがいまいが、上野駅の13番ホームのトイレを利用するつもりはありません。電車が13番ホームに着いたときに、おしっこが漏れそうな状態だったら話は別ですけれどね。

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