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『おっさんずラブ』が帰ってきた。

『おっさんずラブ』が帰ってきた。

続編の発表があった2023年9月25日以来、どれだけそれが事実であると言われても現実のことと思えなくて。春田さんに、牧に、部長に、天空不動産のみんなにまた会えることが、涙が出るくらいうれしい反面、息が止まるくらい怖かった。

後にも先にも、あんなに夢中になったドラマなんてない。見ているだけで幸せになって、1日1回は見ないと気がすまなくて、ただの役が実在の人物みたいに感じられて、ふたりが泣いていたら心臓に錐を突き刺されたみたいに苦しくてたまらない。最終回の感動と興奮は、五輪で金メダルを獲ったみたいだった。獲ったことないけど、金メダル。

だから、あの美しい記憶が残念なものに上塗りされるかもしれない恐怖がひたひたと背中に張りついて、続編を見られることを手放しには喜べなかった。1月5日が来てほしいようで、来てほしくなくて、ずっとソワソワしていた。

そして、1月5日。僕たちは、彼らに再会した。

最初に心が震えたのは、音楽だ。しっとりとしたピアノの調べから始まるメインテーマ。何度も何度も聴いた音楽が、細胞に染みついたあの日々の記憶を、空気を、一瞬で甦らせる。

バージンロードには、花婿姿の春田さんと部長。祝福の拍手を送るおなじみの顔ぶれ。その先で待っているのは、牧だ。何も変わらない。一緒に青春を過ごした友達に再会したみたいな、なつかしさと、照れくささがこみ上げる。

結論から言えば、期待と不安で始まった『おっさんずラブ-リターンズ-』は、僕の大好きな『おっさんずラブ』だった。はちゃめちゃで、ノリノリで、でもどこまでもピュアで、温かい。腹を抱えて笑って、なのに気づけばキュンとしている。あの頃のままの『おっさんずラブ』だった。

変わったところといえば、前作のヒットのおかげで番組予算が増えたっぽく、天空不動産の営業所がやたらでっかくなったことくらい。新居もかなりオシャレだった。オタクが溶かしたお金は、どうやら美術セットになった模様。それ以外はもういつもの『おっさんずラブ』。

とりあえず言っていい? 「チェンジで」の間合いが良すぎ。もうこのシーンだけループ再生しててもずっと笑っていられる自信がある。ドーベルマンにグレードアップしたらしい元チワワの牧と、シェパードみたいな顔をしてマルチーズのような乙女心を持つ部長。ふたりの小競り合いも変わっていない。なんだよ、ばしゃうまクリーンサービスって。絶対にブラック企業確定のネーミングじゃねえか。

そして何より春田さんと牧です。僕は頭のおかしいオタクなので、牧から送られてきたLINEが「あの階段上がったところですよね?」なだけで泣けてくる。そう。あの階段だ。春田さんが牧にルームシェアを提案した場所。ある意味で、ふたりのはじまりの場所。そこへ、春田さんが牧を迎えにいく。

思えば、『おっさんずラブ』の春田さんはよく走っていた。春田さんのことを思うと、あの吹っ切れた変顔と、走っている姿ばかり浮かぶ。そして、春田さんが走っているときは、いつも牧のためだった。

「すっげえ裏切られた気分だわ」とケンカして、家を出ていった牧を追いかけたとき。待ち合わせの臨海公園に遅れて、急いで駆けつけたとき。教会から飛び出して、牧へ想いを伝えにいったとき。走っている春田さんを見守りながら、「頑張れー!」と拳を握りしめていた。牧のために一生懸命な春田さんが大好きだった。

そして今、走って迎えにいった先にはやっぱり牧がいる。変わらない。何も変わらない。その変わらなさが、いとおしい。

「ただいま」「おかえり」もグッときたけど、それよりさらに沁みたのは、そのひとつ前のやりとり。「スマホ忘れた」と言う春田さんに、少し間を空けてから、牧が「何やってんすか」と笑う。この間と、「何やってんすか」の言い方が、めちゃくちゃ牧で。春田さんと牧が、空白の時間を飛び越えて、また帰ってきたという事実を、ようやく現実のものと認識できた。最高に幸せな現実だった。

カメラを向けられると、縁石に足をあげてカッコつけちゃう春田さんの癖も、5年前と同じ。へへっという、ちょっと照れたような牧の笑い方も同じ。

もちろん変わったところもたくさんあって。いちばんは、人前で手をつなぐようになったこと。なんなら春田さんはポッケに牧の手をお誘いしたりしている。いとおしそうに頭なでなでとかする。なんだこれ。夢か。夢ですか。夢なら夢でいい。一生醒めるな。眠り姫は紡ぎ車の錘が指に刺さって100年の眠りについたけど、春田さんと牧がいちゃいちゃしているだけの夢を見られるなら、今すぐ僕の指に錘を刺してください。

『おっさんずラブ』は、〝人を好きになるとはどういうことか〟を描いた作品だったけど、『おっさんずラブ-リターンズ-』はさらにその先、〝一緒に生きるとはどういうことか〟を問う作品となる。

そして、その答えのひとつが第1話で早くも提示された。

仕事に追われ、考え方も異なる2人の生活はすれ違いばかり。一緒に生きると、ストレスはつきものだ。じゃあ、どうして人は一緒に生きるのか。

今季一番の冷え込みになるというニュースを見た春田さんは、残業で帰りが遅くなる牧のために、カイロを持って迎えにいく。そして、マフラーをなくした春田さんのために、牧は新しいマフラーをプレゼントする。

一緒に生きるとは、ただ生活を共にすることではない。一緒にいないときに相手のことを思うこと。それが、一緒に生きるということなのだろう。

きっとこれから春田さんと牧にいろんな試練が降りかかるはず。でも、ふたりならきっと大丈夫。だって、春田さんと牧は一緒に生きるパートナーなんだから。そんな確信を深めた第1話だった。



と、穏やかな気持ちで初回を観終えた僕でしたが、その時点ではまだ本当の意味でリターンズの破壊力に気づいていませんでした。放送終了後、発表された『おっさんずラブ-リターンズ- 春田と牧の新婚初夜』というスピンオフ。

はいはい、「新婚初夜」なんてオタクが飛びつくパワーワードで釣って、どうせ中身は全然違う話なんでしょと訳知り顔で再生ボタンを押した僕が間違いでした。

何これ???????? オタクの妄想が具現化したやつやん????? 最初から最後までずっと春田さんと牧。ほんまに牧が帰ってきた最初の夜をそのまま公開してくれてた。

冷蔵庫のドアがタッチで開けられるのを見て「すげ」とつぶやく牧も、「俺はビールの精だぜ〜」と舞い踊る春田さんも可愛すぎて、もはやどこまでオタクが正気を保てるか耐性テストをかけられているのかと思った。

「どこで買ったんですか」って聞かれて、なんで春田さんは笑たんや? 完全にあそこは田中圭だった気がするんだけど、ふたりのやりとりが自然すぎて、どこまでが台本で、どこからがアドリブなのか全然わからん。牧の「ぽんぽこぽんぴんぱ〜ん」でたぶん牧のオタクが全員息絶えた。まじで世界樹の葉が100枚くらいないと最後まで見られへん。公式がオタクの息の根を止めにきてる。

しかもルームツアーまでしてくれる。こんなの、公式からオタクへのお年玉としか思えない。とりあえずオタクとして気になることは、どう見てもバスルームに椅子が2つあったんですけど、これはあれですか、ふたりで一緒に入ることを想定した上で2つ用意したということでしょうか。あかん、想像だけで脳が自爆した。

まさか生きてる間に春田さんと牧の寝室が見られるとは思っておりませんでした。ふたりの愛の巣はダブルベッド。これ、テストに出るやつですね。頭に叩き込んでおきます。

しかも、老後のいい思い出ができたと思ってニヨニヨしていたら、最後の最後でどえらいものが待っていた。幸せそうに見つめ合う春田さんと牧。気恥ずかしさを隠すように、牧が「お風呂入ってきます」とその場から離れようとする。その肩をつかみ、春田さんが言う。

「そんなの後でいいだろ」




この突然漏れ出る春田さんの雄み……!!!!

田中圭が全員まとめてあの世送りにしてきた。スピンオフの殺傷能力が高すぎて、正直もはや本編の記憶がない。

いや、確かに、繰り返し申し上げてきましたとも。我々が見たいのは爆破ではない、春田さんと牧の日常なのだと。ただ理解はしているんですよ、やっぱり番組としてやる以上、ただの日常では企画が通りにくいのであろうと。そんなのは『きのう何食べた?』くらい原作が強くないと無理。だから今回もいろんな事件や波乱があることくらい覚悟はしていた。井浦新が血まみれで倒れているのも「お? なんや? 今から『unknown』をやるんか?」くらいの目で見守っていた。

でもまさかスピンオフでこういうボーナスがあるとは想定していなかった。オタクたちが望んできた、ただ春田さんと牧がイチャイチャしているだけの日常をこんなにも余すことなく見せてくれるなんて、公式が優しすぎて逆に怖い。別れる前だけ優しくなる男みたいで怖い。え? この後、牧が白血病になるとか、そんな展開ないよね??

まさかこんな夢のようなコンテンツが、TELASAとかじゃなくTVerで配信されるとは思ってなかった。文字通りの「無料で見せてもらってほんまにええんか」案件。

とりあえず僕が臨終を迎えた暁には、『おっさんずラブ-リターンズ- 春田と牧の新婚初夜』が走馬灯で出てきてほしい。それだけで、幸せな人生だった……とにっこり微笑んで生涯を終えられる気がします。

そして、しばらくはこのスピンオフをひたすら再生し続ける毎日を送るので、TVerさんは当面このまま配信し続けてください! お願いします!

▲ダイイングメッセージ代わりに、スピンオフのリンクを貼っておくので、どなた様も漏れなくご入場ください。再生数があればあるだけ、きっと長期間公開されるはず……!

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