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春田と牧の結婚式に参列しました。

結婚式の次の日って、ちょっと夢見心地で、ぼんやりしている。気の抜けた炭酸のような、冷蔵庫の中に眠ったままのチョコレートケーキのような、パーティーが終わったあとの、非日常と日常の間(あわい)にいる気分。

身内でも友達でもない、ドラマの中の架空の人物の結婚式で、こんな気持ちになってしまうなんて、やっぱり『おっさんずラブ』はすごい。



昨日、春田と牧が結婚式を挙げたーー。

何年も、ずっと、ずっと、待ち侘びていた景色だった。

タキシード姿の春田と牧が手をつないでバージンロードを歩く。見守るのは、ふたりの家族。ちずに、マロに、マイマイ、鉄平兄、武川さん、蝶子さん、そして部長。温かい拍手。舞い上がるフラワーシャワー。そのすべてが夢見たままの光景で、やっとふたりはここまで来たんだと、長い小説の最後の数ページをめくるような充実感と名残惜しさに包まれる。

そこまでの道のりも、とても良かった。この6話は-リターンズ-に入ってから、もっともバランスのいい回だったと思う。脚本も、演出も、素晴らしかった。

部長、武川さん、和泉さん、菊様、それぞれの用意したチョコレートが、決して人の恋路を邪魔したり横恋慕したりするものではなくて、ただ行き場のない想いに区切りをつけるためのものであったことが良かった。

そして、結婚式という大きなイベントを前に悩む春田と牧の背中を押したのが、鉄平兄とマロという、ふたりのことをずっと見守り続けてきた人物であったことも良かった。

一度大団円を迎えたストーリーの続編をつくるとき、既存のサイドキャラクターをどう生かすかは意外に難しい。新キャラをつくって、そちらに軸を置いたほうが、物語を広げやすいからだ。

でも、みんなの相談役になっている蝶子さん然り、みんなの心配のタネになっている武川さん然り、『おっさんずラブ』はこれまでのファミリーができるだけ本筋にリンクできるよう心を砕いているのがわかる。春田と牧と部長だけじゃない、みんながいての『おっさんずラブ』だ。

牧と価値観が合わないことに悩む春田に、世帯を持つ先輩として鉄平兄がアドバイスする。どこでくだらないボケをぶちこんでくるのかと待っていたら、最後の最後まで真面目だった。こんな鉄平兄見たことない。「ハッピーハッピーラァァァブ」とか歌わなくていいの? わけのわからない創作料理とか出さなくていいの? でも、そんな真面目な鉄平兄がとてもカッコよかった。

仕事に追われる牧に対し、「春田さんには牧さんしかいないでしょ!」と言ったマロも、本当にカッコよかった。クレーム中のお客さんの前でスマホをイジっていたマロはどこに行った? 後輩のミスまでフォローしているマロの成長に、お母さん涙が出そうでした。というか、マロって普通に人としてポイントが高いよね。明るいし素直だし誰からも可愛がられるコミュニケーション能力を持ってるし好きな人に一途で日英中のトリリンガルで本社勤めのエリートで20代の若さで二世帯住宅まで構えちゃってる。こんなんマッチングアプリで現れたら全員がいいねを押しまくる。蝶子さんの先見の明がすごすぎて弓道場をやるよりも「いい男の育て方」でエッセイを書いてほしい。普通に買います。

あと、すごい今さらなんですけど、もちろん牧といるときの春田さんがいちばん好きなんだけど、次点でちずといるときの春田がめちゃくちゃ好きなんですよね。ちずといるときの春田は普通の男の子っぽい雑さがあって、ちずの春田に対する扱いも雑で、なんというか、悟空とブルマ感がすごい。ふたりでドラゴンボールを探す旅に出てほしい。来週はやっとちずにスポットが当たりそうで、ちずの健康は心配だけど、ちずの出番が増えるのはめちゃくちゃうれしいです。

武川さんは武川さんで面白さが振り切れてて、もうこのまま行けるところまで行っていただきたい気持ちです。牧とのエレベーターのシーンは、台詞のテンポも緩急もバッチリで、めちゃくちゃ笑った。「期日前バレンタイン」とか、すっかり武川さんはパワーワード製造機。牧の「重い」の返しもいいし、「エレベーター遅い」からの「押してないからだ!」も見事なオチ。編集のリズムもキレキレで、名曲「君に会えてよかった。」の無駄遣い感もたまらない。パワープレイではなく、会話で笑わせてくれるところが最高に僕好みでした。

結婚式で牧パパが泣いてるのも涙腺に直撃でした。いちばん反対しているように見えたのは、それだけ息子を愛しているから。反対にお母さんズは大喜びで。そんなところにも性格がよく見えるというか。

そう。この第6話がこんなにも胸に沁みたのは、これまでの回の中でもっとも初代連ドラからの積み重ねをしっかりと感じた回だったから。

この回で『Revival』が流れるのも必然で。今よりずっと若い春田さんと牧の出会いから現在までがフラッシュバックする。喧嘩もたくさんした。すれ違うことも何度もあった。そのたびに引き裂かれるくらい胸が痛んだ。こんな苦しさ、出会わなければ知らずにすんだ。だけど、出会わなければ、こんなにいとしい気持ちを知ることもなかった。声をあげて泣く春田さんと一緒に、僕も泣いていた。

牧は言う。「結婚式なんかしたら、もう簡単には戻れなくなりますけど、本当に俺と結婚していいんですか」と。語尾が揺れて消えたのは、怖かったからだ。春田さんの返事を聞くのが。

牧が結婚式を挙げることに消極的だったのは、恥ずかしいからだけじゃなかった。春田さんに十字架を背負わせてしまうことが怖かったのだ。

初代連ドラのときも、劇場版のときも、そうだ。牧はずっと罪悪感を抱えている。ヘテロセクシュアルだった春田さんを、「自分の世界」に巻き込んでしまったことに対して、心の隅で申し訳なく思い続けている。それくらい「普通」の道を歩めなかったことへの後ろめたさのようなものが、牧の中にはあるのかもしれない。法律上の夫婦になれないことも、子どもを持てないことも、自分がゲイであると自認したときから、牧は心の準備をしていたのかもしれない。でも、春田さんは違う。春田さんには、「普通」に結婚することも子どもを持つこともできた。春田さんから「普通」の幸せを奪ってしまったという負い目を、牧は今でも感じ続けていた。

そんな牧に、春田さんはちゃんと目を見て答える、「だって戻りたくねえもん」と。あの日、四車線の大通りを渡って牧のもとへやってきたときから一度だって後悔なんてしていない。春田さんのまっすぐな目がそう言っていた。

まるでおいでをするように牧が腕を広げる。春田さんがねだるように胸に飛び込む。甘えん坊将軍の本領発揮だ。泣きじゃくる春田さんの背中に腕を回した牧の顔は、とても優しかった。

そして、ふたりだけの期日前バレンタイン。たけのこの里ときのこの山。「もうコンビニしか開いてなくて」と牧は申し訳なさそうに笑って、少し涙声になった。

春田さんが「俺、マリッジブルーなんだって」と打ち明けたのを聞いたときから、きっと牧は不安だった。やっぱりこの結婚は間違いなんじゃないだろうか。いつか春田さんを不幸せにするんじゃないだろうか。その気持ちを打ち消すように、バレンタインのチョコをネットで見繕って、でも仕事に追われて、結局何も用意できなかった。いつも目の前のことにいっぱいいっぱいになってしまって、春田さんのことをもっと大切にしたいのに、できない。そんな牧の自分自身への不甲斐なさが、あの涙声ににじんでいた。

でも、春田さんはそんなことを気にする人じゃない。高級チョコもうれしいけど、自分のことを思いながら選んでくれたたけのこの里はもっとうれしい。いつだって価値があるのは、物じゃない。そこに込めた想いだ。

春田さんはたけのこの里派。牧はきのこの山派。こんなところでも、ふたりの考えは食い違う。でも、もう違うことを気にしたりしない。だって、全然違う世界で生きてきたふたりだから、恋におちたのだ。

チャペルへ入場するときも、春田さんはどちらの足から踏み出すを気にする。でも、牧は笑う、「ま、違ってもいいじゃないですか」と。

これまでのすれ違いは、すべてこの台詞のためにあった。そして、結婚式という特別な場所でこの台詞を言うことに意味がある。

踏み出す足は、ふたりとも右足。そして、靴音の代わりに流れる『Lovin' Song』。

僕らは愛し合い
思いやりのテンポを刻むメトロノーム
時にはすれ違う
優しさを忘れたワガママなハーモニー

スキマスイッチ『Lovin' Song』

この歌詞がそのまま春田と牧みたいで。たとえばメトロノームなら、春田はテンポ60で、牧はテンポ200で。確かに全然合わないんだけど、でもたまに音が揃うときがある、ふたりにしかわからないリズムで。

違う人と、違う人が、お互いの違うところを持ち寄りながら、時に怒ったり、時に傷つけたりして、でもそんな違いをいとしく思う。それが、「一緒に生きる」ということなんだろう。



素晴らしい式だった。そして素晴らしい最終回だった。きっと僕はこの日の思い出をいつまでも胸にしまいながら、余生を生きていくことでしょう。ありがとう、『おっさんずラブ』。『おっさんずラブ』、フォーエヴァー……!




と言いたいところだけど、ここで最終回にならないのが『おっさんずラブ』なのである。部長、血吐いてたけど何事??? 菊様も病院に運ばれましたけど、そういうのは『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』あたりでやるから大丈夫だって! 西島秀俊に任せときな!!

赤木春恵にさんざんイライラしながらも、赤木春恵がアメリカに行っちゃった『渡鬼』が一気にパワーダウンしたように、部長あっての『おっさんずラブ』なので、部長、ちゃんと元気になってね〜〜!!



追伸、情報量多すぎて拾うタイミングなかったんだけど、牧の「蝶子のチョコ」が可愛すぎたので、こういう全員に無視される寒いギャグ、これからもください。

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