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戻ってきたお客さん


平成が始まって数年経過した頃のお話です。

その当時は不動産業界もノンビリしてました。


空き部屋の管理も適当なもので、カギなんか締めてない部屋も多かったです。

「どうせ盗られる家具が無いんだから開けっぱなしでいいや」

国民全員善人。

性善説(せいぜんせつ)にのっとった管理体制です。


カギが開けっぱなしという事はですよ?

「不動産屋が同行しなくてもイイんじゃね?」

性善説にのっとった営業スタイルです。


最近になって

「不動産テックでセルフ内見!」

とかドヤ顔で言ってる人たち!

もう20年以上前にやってるんだよ!


取り乱しました。

話しを戻します。


ある日のこと、30歳ぐらいの単身男性が部屋探しで来店されました。

希望条件を聞き、条件に合った当社管理のアパートを内見することになりました。


そう、鍵は開けっ放しです。

大人しそうな男性なのでセルフ内見で対応です。


お客さんの運転免許証をコピーさせてもらい、余白に自宅の電話番号(当時は携帯電話は普及していません)を記入してもらいます。

ゼンリンの地図をコピーし、現在地とアパートの場所をマルで囲みます。


1時間くらいで戻ってきてくださいね。申込まなくてもイイから必ず戻ってきてね」

お客さんにそのように伝えて送り出します。


95%の人は戻ってきて

「申し込みます」

「少し考えます」

となります。


少し意外だったのですが、今回のお客さんは

戻って来なかったのです

絶対に戻って来ると思ったんだけどなー


しかし、そこはノンビリした時代。

戻って来なくても

「あー 戻って来なかったね」

これで話は終わりです。


「念のため部屋を見に行こう」とか

「自宅に電話してみよう」とか

そういう発想は無かったです。

だって国民全員善人の性善説にのっとったスタイルですから。


それから2週間が経過しました。

なんと!

その男が戻って来たんです!


バックレたお客さんは二度と私たちの前に現れないものですが、その男は平気な顔をしてお店に現れました


「契約に来ました」

何事も無かったかのように淡々と私たちに用件を告げる男。

「あ、はい」

あまりにも彼が平然としていた為、こちらも面食らってしまい、戻って来なかったことを責めることなく対応してしまいました。


「では、こちらの申込書に記入して下さい」

私はボールペンをその男に手渡しました。


その男は住所・氏名・生年月日を申込書にゆっくりと記入していきます。

ふと申込書を覗くと

住所の欄に

これから契約するアパートの住所が書いてありました。


「この欄には現在住んでいる住所を書いて下さい」

私が優しく伝えると

彼も優しくこう言いました。


「はい、これで合ってます」


???????

伝え方が悪かったのかと思い、再度伝えました。

「いや、この住所ではなく、今住んでいる住所を書くのです」

間違いは誰にでもあるからね。

私は彼に微笑みながら伝えると


「はい、ですから、この住所です」


話しが噛み合わないこと5分経過.......

やっと事情がのみ込めました....


その男は内見した部屋がとても気に入り

契約もせず、勝手に住んでしまっていたのです!


さらに話しを聞くと

ちゃっかり荷物も運び込んで、

ガッツリ生活してました.....


私は疑問に思ったことを尋ねます。


たくや「鍵は渡してないけど...」

その男「たいしたものが無いので鍵はかけずに生活してました


ネクスト クエスチョン!

たくや「何がきっかけで契約しに来たの?」

その男「隣の部屋の人に『そろそろ契約に行った方がいいんじゃない?』と言われたもので」


いや、もっと早く...

というか契約してから住んで...


怒られるのを覚悟で、事の顛末(てんまつ)を大家さんに伝えると

「アッハハハハ! こりゃぁ傑作だ!」

と、笑って終わり。


現在と違い「全てがアバウト」


前もって細かいルールを定めていないから

何かトラブルが起これば話し合いで解決。


それが良いのか悪いのかは分からないが

心に余裕があったのは

アバウトだったからかもしれない。


おしまい。



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