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ギターの音


ある日、ぼくが管理しているマンションの住人(Mさん・42歳・男)がやって来ました。

「夜中にギターの音がするんです」

騒音のクレームか...

こっちは管理のプロである。

こういう場合には堂々とした態度で

「そんなの大した問題じゃありませんよーん」

としておくのが大事なのである。


「隣ですか?上ですか?」

騒音問題は上下左右の部屋同士で勃発するのが一般的だ。

「いや...それが分からないんですよね...」

今回は特殊なケースのようだ。


ギターのベースの音が微かに聞こえる程度で、どの部屋かまでは特定ができないとのこと。


このようなケースでは、まず【楽器の演奏は禁止です】というお知らせチラシを全世帯にポスティングして様子をみるのが当社のやり方。


ぼくはMさんに伝えた。

「全世帯にチラシを入れましょう」

ぼくの提案にMさんは意外な反応を見せた。


大きな声で

「エッ!!!?本当に!?イイんですか?」

驚いたようにMさんはこちらに目を向けます。


あれれ?

なんだこの反応は?


この、全世帯にチラシをポスティングする対応は過去に何度もやってきた。

特別珍しい対応では無い。

このように驚いた反応を見せたのはMさんが初めてだった。


不思議に感じながらも話を続けた。

「こういう場合に使う【チラシのひな形】がありますから」

既にひな形があるので大した業務ではない、ということを伝える意味で言いました。


するとMさんはさらに大きな声で

「エェェッ!!そんなものがあるんですかぁぁ!」


???

そんなに驚くことだろうか?

もともとリアクションがオーバーな人なのか?

そんな事を考えながら、私はフォルダーにある【お知らせ-騒音-楽器】というファイルを開きました。


私はプリンターから印刷された「楽器の演奏禁止」のチラシをMさんに手渡しながら

「これにマンション名と日付を入れて、全世帯のポストへ入れておきます。しばらく様子を見て下さい」

手渡したチラシに視線を落としたMさん。

4~5秒だったろうか。

読み終わるには早すぎる短い時間が経過した後

Mさんは顔をこちらに向け、これまでにない大きな声でこう言ったのです。



違いますよ!!



そのギターの人を



俺のバンドに誘いたいんですよ!



はい。

みなさん信じてませんね。

これ、本当の話なんです。


ちなみに、この note の原稿をある人に読んでもらったら

「嘘くさいからボツ」

と言われました。


ということで、本年もよろしくお願いいたします。

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