ラストラブシーン 1


1、進撃のラストラブシーン


この物語りの最初はこちらからhttps://note.mu/fuedasaori/n/nbd4df9de5c13/edit


こんなことして何になるんだろうって分かっている。

片思いをしていた男に、4年前50万貸した。

彼女になりたいって言った4年前の2月29日。
その翌日から音信不通になって関係を切られて、そのせいで心のビョーキになって、まともに働けなくなって・・・


あれからすべては上手くいかなくなった。

友達にその話をすると、みんながみんな同じことを言った。
お金はもう戻ってこないからその男は諦めたほうがいいって言われる。

そんなこと分かってる。


お金を返してほしくて、連絡をとりたいわけじゃない。

ただヒロフミがあたしのことをどう思っているのかを知りたいだけ。


関係を切られた時点でヒロフミから嫌われてしまったのも分かっている。
それでも自分のためにけじめをつけたかった。


FBで繋がっていたヒロフミの友達にメッセージをしてみた。
住所までは分からないと言われたけど、東中野に住んでることだけは教えてもらった。

ヒロフミもFBをやってたけど、あんまり詳しいことは載ってなくてメッセージを何度か送ったけどそれも返信がなかった。


一ヶ月前に友達の友達がヒロフミと一緒の写真を投稿していた。
ヒロフミはあの頃より少しだけ髪型は変わってたけど、あまり変わってなくて何だか安心した。

相変わらずよれよれのくすんだ色のパーカーを着て、ふざけた顔をして写真に映っていた。


写真のタグ付けでそこがヒロフミの家の近くのバーってことが分かって、そのバーにも行ってヒロフミの友達と名乗りバーテンダーと仲良くなった。
そしてようやくバーデンターの松本さんからヒロフミの家をマンションを教えてもらった。

「ヒロフミ、うちの隣りの隣りのレンガのマンションに住んでるよ。」

その言葉を聞いたとき、ぐちゃぐちゃだったパズルがようやく最後のピースまでたどり着いた気がした。


バーを出たのが21時。 

バーの隣りの隣りにあるレンガのマンションの入り口まで行きひとつひとつポストの表札を確認した。


4階まであるマンションを上からひとつひとつ名前を目でなぞっていく。

「増岡・・・増岡・・・増岡・・・増岡・・・  あ・・・。」


増岡の名前を見つけた。 

303号室。


見つけたとき鼓動が急に速くなった。
どうしよう。 

やっと見つけたけど・・・

でもここまできたんだもの。 
いないかもしれないし、一度インターホンを押してみよう。


会えないかもしれない、会えるかもしれない。
会ってもイヤな顔をされるに違いない。

でも、会って私自身の気持ちを確かめたい。

深呼吸を深くしながら、エレベーターに乗り三階のボタンを押す。

303号室・・・

増岡・・・・


ヒロフミの家のドアの前に立ち尽くしたまま、インターホンを押すか押すまいか悩んだ。


でも・・・・

「ピーンポーン・・・・」

震える指でインターホンを押す。




「はーい」


ドアの向こうから聴こえる声は間違なく女の声だった。


そうだ、ヒロフミが誰かと住んでいたっておかしくない。
むしろもともと彼女と住んでたはずだった。 
それすら忘れていた。
ヒロフミに会いたいがために住所を探していたけど、あの時の彼女と住みつづけてる可能性が高い。


女の声で一気に目が覚めた。


「どちらさまですか?」

ドアを開けないまま、ドアの向こうから女が尋ねる。


「あ・・・・あの・・・ そ、それは・・・」


声にならない声であたしは震える体を押さえながら声を出した。

「ヒロ・・・ヒロフミくん、、、いますか?」

思ったより大きな声を出してしまった。

不審そうな声が返ってくる。

「今、主人は出かけておりますが・・・」

え・・・・  主人・・・・


ドアの向こうから返事をする、女がヒロフミのことを主人と呼んだ。


そのまま何も言えないでいた。

すると女は
「あの、どういったご用件でしょうか?」


ドア越しに聞いてくる。


どーいったご用件?


え・・・

ただ、会いたかっただけ。


「え、いえ。大丈夫です。遅くにすいません。。」

そう言って、ヒロフミの家のドアから逃げるように去った。


わけも分からず階段で駆け下りて、いつの間にか涙をボロボロ流れていた。


そりゃそうだ。 ヒロフミが結婚しててもおかしくない。
だってあれから4年も経つんだもの。


自分でそんなこと分かってたはずなのに・・・


マンションの入り口で顔を手で覆いさめざめと泣いた。

もういいじゃん。 

これでいいじゃん。

もうよそう。 

あきらめよう。


とりあえずもうここからすぐにでもいなくなりたい。

そう思ったとき、目の前にスーツを着たヒロフミが歩いてきた。


「ヒロフミ・・・」小さくつぶやいたはずだったけど、その声は目の前からくるヒロフミを気付かせた。


何だかあたしがここにいることを分かっているような顔をした。


「ひとみ・・・ 久しぶり。」

「ヒロフミ・・・あのね。ごめん、家まで来ちゃって・・・」


「あ、うん。嫁から電話もらった。オレを尋ねた女の人がいたって。」


嫁・・・


嫁って言葉がこんなに破壊力のあるものだと思わなかった。


あたしは何も言えないままでいた。

「ちょっとさ、話さない?そこのファミレスで。」


ヒロフミに言われるがまま、50メートル先にあるファミレスへ着いて行った。

ファミレスに入って禁煙席を選んでたとき、あの頃のヒロフミと違うと思った。
あんなに煙草吸ってたのに・・・

ヒロフミと向かい合って、ヒロフミはコーヒーを頼む。
あたしは紅茶を頼む。


ヒロフミはあたしがきたことになんとなく分かっているような表情をして、言葉を選びながらゆっくり話だした。


「ひとみ、、、あの時、連絡返さなくて本当にごめん。 
オレがマジで悪くて、なんて言えば許してもらえるか分からないけど・・・」

涙がさっきからずっと止まらなくて、言葉を返さずに運ばれてきた紅茶をずっと見つめていた。


「あの頃付き合ってた彼女が今の嫁で、3年前に子どもができて・・・二人で借金も頑張って返して・・・ 
その、、ひとみに借りたお金いつかちゃんと返そうと思ってたんだけど、ずっとタイミング逃して・・・・本当に本当にごめん・・・ 」


「別にお金を返してほしくて家に行ったんじゃない。ただ、ヒロフミに会いたくて・・・」

「ごめん、お金返す。借りた50万返すから、口座教えて。」

「だから違うって・・・お金を返してほしいんじゃないよ。」

「でも・・・・ オレができることってこれくらいしか・・・」

「なんで、あのとき連絡無視したの?」

「・・・・・。その・・・・。」

「答えてよ・・・」

「お金返せないのに、ひとみの気持ちも分かってたのに、何も応えられなかった自分がすげーいやで・・・ ひとみから逃げた。」

「あたし、ずっと忘れられなくて・・・」

「そ、それは本当にごめん。。 今、オレができることは謝ることと金を返すことしかできなくて・・・ 」

久々の再会なのに、こんな二人で会うなんて本当はイヤだった。


会ったら何か変わるかもしれないって思ったけど、会ったら会ったで言いたいことが言えない。

結局、ヒロフミに今あるお金だけでもって、お財布から2万を出して渡された。

口座番号も教えた。来週には払うからって言われた。

ファミレスの紅茶代も払ってくれた。


ああ、ヒロフミもこの4年でちゃんと前を歩いていたんだ。
しっかりしたんだって思った。


あたしだけずっと同じ場所にいたんだって。



この4年、あたしは何をしてたんだろう。



ヒロフミは東中野の駅まで送ってくれた。


ああ、これでやっと終われるかな。

本当にあきらめなきゃ。


「ヒロフミ、今日は突然ごめんね。ありがとう。」

「こっちこそ本当にすいませんでした。本当にごめん。」

頭をさげるヒロフミなんて見たくなかった。

「あの頃、楽しかったよね。安い居酒屋で一緒に呑んでさ。」


「うん。。」

「楽しかったのあたしだけじゃないよね?」

「うん。。」


「これでもう諦めるからさ、最後にお願い聞いてくれる?」


「・・・・ なに?」


「最後にチューして。」


震える声で勇気を出して言ってみた。


そんなことしたって意味がないのは分かってるけど、最後にキスがしたかった。


これでごめんって言ってフッってほしいって思った。


そしたら本当に諦めるから。


ヒロフミは少し考えた顔をして、、、そのまま何も言わない時間が数秒あった。

ふと目があって、すごい悲しそうな顔をする。


「今まで本当にありがとう。」

ヒロフミはそう言うと、優しくあたしの唇にキスをした。



なんで、キスするの?


キスできないって言ってほしかったよ。


「う・・・・ うん。本当にありがとう。」

泣きそうな気持ちをこらえながら、ヒロフミに笑顔を見せようとしたとき
いきなり腕をひっぱられてぎゅって抱きしめられた。

「じゃあね。」

そう言うとヒロフミは、そっと優しく体を離した。

「じゃあね。」 そう言って、あたしはヒロフミの顔もまとに見ずにきびすを返しそのまま改札に急ぎ足で向かった。


これ以上、ヒロフミと一緒にいたら辛くなるだけだ。

もう少しだけ一緒にいたかったけどもう限界だ。



少しして振り返ると、そこにはもうヒロフミの姿はなかった。


いないって分かってたけど、何だか切なかった。


最後の最後までヒロフミは優しかった。


最後にキスなんて強請ってしまった自分が情けない。


でも、これで本当に自分のなかでこの恋を諦める決意ができそう。


この4年、勝手にヒロフミのことだけを考えて、人のせいにして前に進めないままでいた自分へ。


もう過去にすがりつくのはやめよう。

これからは過去を愛おしく想っていこう。


ホームで3回電車を見送った後、ようやく電車に乗る気になれた。



唇に今もヒロフミの唇の温度を感じる。


しばらくはこの温もりを感じていてもいいよね?



そんな4年後の2月29日。

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