短編小説「0.01ミリの宇宙」

一、コンドームのトラウマ1


昔好きだったあの男はゴムをつけてくれないヤツだった。

もう昔の話。

ユウタはあたしのひとつ上だった。
ユウタに彼女がいるのは分かってた。 それでも一緒にいたかったし、あわよくば彼女になれたらって思ってんたんだ。


男女の順番を間違えてしまうとこうも上手くいかないものなんだってこと、そのとき知ったよ。

好きって言えないまま、エッチする関係になっちゃって、一番最初に何も言えなかったから、ゴムをつけないスタートだった。


今思えばかなり危険だったよね。
多分、大丈夫だよって自分でよくワカンナイ自信があってゴムをつけないままでいたけど、一度だけアレが来なかった時は本当に焦った。

毎月、規則正しく来ていたのに2週間も遅れたときはヤバいかもって思ってたよ。


でも、そんなことユウタに言えるわけなかった。 
そもそも付き合ってるわけじゃないのにって。

結局、ただ遅れただけだったから本当にほっとしたけど、あれからユウタにゴムつけてほしくてあたしから買うようになった。

だって用意してくれないんだもん。


それでもユウタはゴムをつけると調子がでないとか何とか言っちゃってさ。
エッチの途中でゴムをはずしちゃうから結局意味なかったね。

そんな微妙な関係も、ユウタの彼女に子供出来たことがきっかけで終わっちゃったね。

「えつこちゃん、ごめんね。」たったそんな一言のメールで終了。


一応、そーゆーところはけじめつけるやつだったってところだけは関心したよ。


ユウタが結婚してしまうんだったら、あきらめつく程度の恋だったんだもの。
ちょっとだけ、しばらくは引きずったけどね。




二、コンドームのトラウマ2


あれからゴムは女側が買うものだと思うようになったあたしは、なんかエッチの予感がする夜には自らゴムを薬局とかドンキで買って用意するようになった。


その次にそーゆー関係になったヒデキも予想的中で、自分でゴムを用意しておくような男じゃなかった。

ヒデキには彼女はいなかったけど、恋人みたいな態度でいるくせに、あたしと付き合うってことに積極的じゃなかった。

あたしはユウタのときみたいな後悔がないように「付き合おうよ。」って自分から強く言ってみたけど、いつもヒデキに笑って逃げられた。


ヒデキなんて一緒に帰りのコンビニで買い物とかもしてくれないようなヤツだった。

女と一緒に歩いてるのを、近所の人に見られたくないとかって理由であたしとはコンビニにすら行ってくれなかった。

だから、いつもあたしは一人でヒデキの近所のコンビニでゴムを買ってヒデキの家に向かった。

それに対してヒデキは申し訳なさそうな態度なんて一切なくて、ゴムのお金をちょーだいって言っても、オレの家使ってるんだから宿泊費とシャワー代だと思って払ってよって言うような超ケチな男だった。(5個も年上だったくせに)


でもあたしはそのとき思ったの。

男からしたらゴムなんて、つけないに限るんだもの。

あたしはあたしの身を守るために、ゴムが必要なんだ。

そのお金を男が払うわけがない。

これからはあたしの為にゴムを買えばいいのだと。


ヒデキと終わるときはとっても滑稽だった。

ヒデキの家にあるコートのポケットから違うゴムの箱を見つけたんだ。

「このゴムなに?あたしが買って来たものじゃないよね?」ってヒデキを問いつめたら「俺が別の女とヤッたときに買ったやつ」ってフツーに答えて来た。

そのときヒデキが普通にゴムを買うやつだったんだって知ったよ。


ああ、ちゃんとゴムを買う人だったんだって思ったら
あたしって本当にあんたのなかで最低なランクな女だったんだって思った。

でも、本当にそれ言われたらムカついたからヒデキの前でそのゴムを鋏で切り裂いてやったの。

思ったよりゴムって鋏で切りづらいのね。 ヒデキ、めっちゃひいてたけどあたしいつの間にか泣いてたよ。


やっぱりあたしはヒデキがどんなに最低な男でも、ヒデキの彼女になりたかったんだなーって。 いつも抱きしめてくれてるときに「えつこ」って言ってくれる声がすごい好きだった。


あれも最低な恋だったね。





三、コンドームのトラウマ3


ダメ男にばっか恋をしてきたあたしは、ダメ男じゃない男との恋のステップアップってものが分からなくなってしまっていたよ。


出逢って、この人好きかもって思ったらすぐエッチしたくなる。
でもエッチしたら上手くいかないのも分かってるからとりあえず我慢してみる。

我慢してみて様子を見ていると、いつの間にかその男子に彼女ができている。

あれ?いつの間にか他の女にとられているぞってパターンを何回か過ごした。


そんな恋にもならない恋を何回か繰り返したあとに出逢ったのが相沢くんだった。


相沢くんは同い年だったせいか、すごい話やすくて、真面目なんだけど愛嬌があって結婚するならこんな人としたいーってタイプだった。
「えっちゃん」って子供の頃みたいな呼びかたであたしを呼んでくれた。


そんな相沢くんと4回めのデートのとき、わざと終電を逃してみた。


このまま前に進まないとキツい。草食系男子っぽかったから、こっちからアクションを起こせば何か始まるかな?って賭けだったんだ。

すると相沢くん、あたしが終電を逃したことに申し訳ないって思ったんだろうね。
うちにおいでよって言ってくれた!! とうとうこの日が来た!!って嬉しい気持ちになったの覚えてる。


一応、いろんなことを考えた上でゴムも用意しておかなきゃって思ったあたしは相沢くんの家の近くのコンビニで相沢くんにバレないように化粧水とか入ってるお泊まりセットを買うついでゴムもコンビニで買った。


初めてのお泊まりだし何もないかもしれないけど、何かあるかもしれないってちょっとだけ期待してね。

相沢くんの家について、また二人で呑み直して、朝方まで色々とおしゃべりしてね。

なんとなくいい感じの雰囲気になって、初めて相沢くんとチューをした。

ああ、このまま始まるのかなって。


相沢くんは真面目な人だしエッチから始まっても、ちゃんと付き合おうって言ってくれる人だと思えたから、とりあえずエッチからでもいっかって思ってた。

チューをして、目をとじて、服をまさぐられてまさぐって、久々に男子とこんなことしたらよけい興奮しちゃって。
あたしもこの一回で相沢くんに認められたかったから、すっごい頑張ってみたりして。


どのタイミングでゴム持っているよって言おうか悩んだ。もし相沢くんが持っていたら、持っているにこしたことないから。

入れる寸前で相沢くんが「ごめん、ゴム用意してなくて。。。」って言ってきんたんだ。


これはしめた!!って思って、はりきって「あたし買って来たよ!!」ってソソクさとバックからまだ開けてないゴムを見せたの。


そしたら相沢くん、嬉しそうな顔をするのかと思ったら、ちょっと残念そうな顔して「え、、わざわざ持って来たの?」ってひいてしまったの。

あれ、、なんか反応いまいちだなってすぐに分かったの。
どう考えても、女子がゴムを用意していることにどん引きしている感じだったから。

それでも、そのゴムを使ってエッチをしようってことになったんだけど、そのせいか相沢くんのが元気がなくなっちゃって、結局ゴムを使うまでのところまでいかなかったんだ。


エッチが途中で失敗したあとも、相沢くんは優しく抱きしめてくれたし、一回めはこんなもんだよねって思ったけど、その数日後に相沢くんにあたしはフラレるという形でこの恋は終わりました。


「えっちゃんは大切な友達だから。」って。


じゃあ、なんでエッチの途中までしたんだろーね??



ちゃんと具体的な理由は言ってくれなかったけど、きっとあたしが初めての二人のエッチで頑張りすぎたのがいけなかったんだろうって反省している。


やっぱり女子が最初からゴムを用意しておくのはあまり良いイメージがないのかなー。


でもさ、それなら男がちゃんと用意すべきじゃない?
用意できないなら、二人で帰りのコンビニで買えばいいじゃない。

そうだ、それが一番良いじゃない!!


家で二人っきりですることなんて、エッチ以外何もないでしょ?




四、0.01ミリの宇宙


あれからもう恋の仕方が分からなくなってしまったあたしは、しばらく恋というものをお休みしてみた。(ってか、ただ恋ができなかっただけ)


ユウタを好きだった頃が19歳、ヒデキにハマった23歳、相沢くんを恋こがれた28歳、で今は30歳 友達は次々と結婚しだし、気づけば独身女子がまわりに少なくなってきた。


もう恋人って一体なんなんだろーって思えてきたよ。


街を歩く恋人たちを見ていると、どうしてあの人たちは付き合ってるんだろうって思ってしまうし、あたしだけ彼氏ができないのはどうしてなんだろうって思うようになった。

ただ、なんとなくこのままじゃ行けないなって思って、心機一転引っ越したんだ。


前は埼玉のほうで一人暮らししてたんだけど、都内で男と出逢っても家にくるなんてこともなかったから、職場も都内だしこの際東京に引っ越しちゃえ!!って勢いで東横線沿いの学芸大学に引っ越してみた。


ただ単にオシャレな街のイメージで、そこに住めば心機一転何か始められるじゃんないかって思えたの。バカでしょ?


予想通り、学芸大学は若い人たちが多くて、古着屋さんも多いし、だけど昔ながらの懐かしいお店をあってすぐに好きになれた。

引っ越しして一週間経ったくらいの頃、学芸大学の商店街を一人歩いていてふと見つけたんだ。


ゴムの自動販売機。


ゴムの自動販売機なんて、すごい久々に見たから懐かしくなっちゃって立ち止まっちゃったよ。


古い薬局の前にあるゴムの自動販売機は、今時の0.01ミリのゴムとか0.02ミリのゴムとかあって、懐かしさ反面ちゃんと流行についていってる感じが良いなって思った。

ゴムか・・・ ゴムなんてしばらく買ってないな。。


ゴムをつけない男とか、ゴムを用意したら引かれる男とか、ゴムとあたしの付き合いかたが分からないくらいだったから。

でも、今度好きになった人とはちゃんと二人でゴムを買いたいな。

それが一番、ベストだと思うんだよね。


ゴムの自動販売機を見ながら、そんなことを考えながら月日は半年くらい経った。


東京での生活にも慣れたころに、友達の友達で出逢った慶太。


慶太は4個年下でとっても人懐っこいヤツで、会ってすぐに仲良くなった。
あたしのことを「えつこさん、えつこさん」って何だかお姉ちゃんみたいな感じで懐いてくるのも悪い気はしなかった。


慶太は自分で女の子大好きなの公言してたし、フリーターで売れないクリエイターみたいなことをしているやつで、今のあたしが好きになるタイプとはとっても遠いところにいたけど、とーっても居心地の良いヤツだった。


二人で呑むのが当たり前になって、だけど何度会っても特にそーいったエッチなこともなかったからあたしも安心して慶太と二人で会うようになった。

こいつにとって、あたしはきっと相談相手になる年上のおねーさんとしか思ってないんだろうなって。


たまたま学芸大学で二人で呑んだとき、終電を過ぎたけど慶太の家もさほど遠くないしタクシーで帰るだろうって思ってた。

だけど、珍しく「えつこさんの家行きたい!!」って言われた。


もう何度も二人で会ってるけど、全くそんなことなかったし、きっと慶太なら家に来ても何もないだろうって思えたから「別にいいよ〜」って軽く返事をした。

二人で駅前の居酒屋を出て、いつもの商店街を酔っぱらいの二人がのろのろと歩く。

慶太と二人でこうやってこの商店街を歩くなんて不思議な気持ちだった。


歩いてる少し先にあのゴムの自動販売機がある薬局が目に入ったから、あの話をした。


「あたしさ、前に話したと思うんだけどゴムってさ。男がつけるものなのに、用意してくれないことあるじゃん? でもあたしが買っておくと、男が引いたりしてさ。。」

「えつこさん、それって違うよ。 男が用意するもんでしょ。まぁ用意してくれたら嬉しいけどねー!!」

「そうなの?あれからゴムの買い方が分からなくなっちゃってさ。今度、誰かとエッチするときは仲良く二人でゴム買いたいなーってのがあたしの願望なの。」


そんな話をしていたら、いつの間にか薬局前のゴムの自動販売機の前についていた。

すると、慶太がそこで立ち止まって自動販売機をじーっと見つめだした。


「普通に新商品とか入ってるんだねー。」

「でしょ?自動販売機の形は古いけど、ちゃんと売ってる商品は最新なんだよ〜」


午前2時に商店街でもまだ人は多いので、正直この自動販売機の前で男女二人が立ち止まってるのは恥ずかしい。

「慶太、行くよ。」 

急に恥ずかしい気持ちになったあたしは慶太を置いて先を歩こうとする。

すると慶太は何を思ったのかこんなことを言い出した。

「えつこさん、一緒に買ってみる?」


「はい?!!! あんた何言ってんの?」


「だから、男子と二人でゴム買うの夢だったんでしょ?オレが叶えてあげるよ!!」

「ばーか、誰とでもいいわけじゃないの。 ってか、あんたあたしとセックスするつもりで家に行こうとしてたわけ?」

「あのさー なんかひどくない? 別にセックスしたくてえつこさんの家に行くつもりじゃなかったけど、オレはいつでもえつこさんを女として見ていることは忘れないでほしいな。オレだってただの男なんだから襲うときは襲うからね!!」

本気とも嘘ともとれる言い方で慶太がそんなことを言い出した。

「あっそーですか。セックスしたいならゴム買ってよ。」

あたしがそう冷たく言うと少し寂しそうな顔をした後に、自分のお財布から小銭を取り出して「一緒に買おうよ!!」って言い出した。

悪気ないその慶太の笑顔に何だか心がホッとしてしまい自動販売機のところまで戻った。


慶太が自動販売機に小銭を入れるのを何も言わず見ていた。
小銭をすべて入れたところで「どれにする?」って聞いてきた。
「慶太がつけたいのにすれば?」って言ったら、「じゃ、やっぱり0.01ミリかな〜」って言ってボタンを押した。

初めて買った自動販売機でのゴム、初めて男と二人で買ったゴム、あたしはこんな単純なことにけっこう感動してしまったらしい。


それともずっと何か心の奥底で溜めていたものがあったのかもしれない。

慶太がゴムをポケットに入れて、あたしの手をすごい自然に繋いで歩きだしたとき、あたしはいつ間にか泣いていた。


「えつこさん、どうしたの?おなかでも痛いの?おなか痛かったらエッチできないよー」そんなふざけた言い方をしてくる。

それでもあたしはずっと嗚咽をもらしながら、まだ続く商店街を無言で歩いていた。

「えつこさーん。」

「なによ。。」

「オレ、えつこさんのこと好きだよ。」

「急になによ。。」

「急じゃなくて前から好きだよ。」

「・・・・。」

「また一緒にゴム買いに行こうよ。」

「・・・・。」

「ずーっとずーっと一緒にゴム買いにいこうよ。」

「ずーっと?ってどーゆー意味よ。」

「そのままだよ。 ずーっと一緒にいようよって意味。」

「バカにしてんの?」

「バカにしてないよ。えつこさん、今日実は誕生日でしょ?」

「なんで知ってんのよ。」

「前に言ってたよ。お誕生日に会いたかったから今日誘ったの。それにえつこさんものってくれた。そしてえつこさんの家に行く!で、えつこさんに告白!!オレの計画通りー!!」

「何それ!!あたしはまんまとそれにハマったってこと?!」

「だって、えつこさんも誕生日にオレと会ってもいいやって思えたから会ったんでしょ?オレたち両想いだってことじゃん。今日からオレたち恋人ってことでいいでしょ?」

年下のくせして生意気なことを言う慶太がすごい憎らしい反面、何だかやっと帰る場所を見つけたような気持ちになれて、あたしの涙がまた溢れだして来た。

「えつこさん、これ以上泣かないでよ〜 しわ増えるよ〜。」
そんな冗談を言いながらも、優しく優しく手を握ってくれている慶太に愛おしさを感じた。


あたしがずーっと欲しかったものって、こんな優しさだったんだって思えた。


とってもとっても頼りないヤツだし、この恋がこれからちゃんと始まるかも分からない、だけど久々に感じる優しい愛にあたしは少しの間だけでも甘えてみようかと思った。 


0.01ミリのゴムの関係から、いつかそれがなくなる関係になれたら本当にいいなって思えたそんな夜だった。



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