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なぜクラシック音楽は人によって大きく演奏が異なるのか。独創的な演奏と奇を衒った鼻につく演奏の違いとは。

こんにちは。音大ピアノ専攻に在籍する学生のふうげんです。今回は「なぜ人によって演奏が異なるのか。独創的な演奏と奇を衒った鼻につく演奏の違いとは。」ということをお話しします。これは音楽を趣味として嗜む人も、これから本格的に練習、活動していこうという人にも参考になる話だと思うので、ぜひ最後まで読んでほしいです。ちなみにクラシックの話です。


結論


結論から申し上げますと、人によって演奏が異なるのは、その曲の「理想」が人によって異なるからです。世間でいう「音楽観」「世界観」に近いです。そして、奇を衒った鼻につく演奏と独創的な演奏の違いとは、その人がその曲をちゃんと深く理解しているか否か、正確な「理想」を持っているか否かです。

「理想」って?


まずは、この「理想」とは何かをお話しします。
僕のいう「理想」は、すなわち「俺、私は、この曲はこんな弾き方をすればめちゃくちゃ魅力があるとおもいます!!」というエゴのことです。この理想にできるだけ近づくため、演奏家たちは日々練習しています。
そして、その曲を深く理解した上で正確な「理想」を持っている人ほど独創的な演奏をします。逆に、その曲を十分に理解せず持っている「理想」が不正確な人ほど奇を衒った鼻につく演奏をします。

「楽曲の理解度」?「理想の正確さ」?なんだよそれ?


まず最初に、この「楽曲の理解度」「理想の正確さ」はつながっています。「楽曲の理解度」とは「この曲はどんな曲で、こんな魅力があって、その魅力の秘密はこのフレーズとこの和音が…」みたいな。そしてこれは「この曲はどんな曲で、こんな魅力があるので、この部分はこう弾こうかな」という正確な「理想」を生み出すきっかけにつながります。これが独創的な演奏へと昇華していくわけですが、この辺を間違えると一気に奇を衒った鼻につく演奏になり、シラけますので、この後紹介する「これをやると奇を衒ってると思われるよ!リスト」を読んで十分に注意して練習しましょう。

独創的な演奏をしたい!みんなとは違うって言われたい!でも奇を衒った鼻につく演奏とは言われたくない!

そんなわがままな人たちに「これをやると奇を衒ってると思われるよ」というやっちゃいけないリストをご紹介します。

・楽譜の指示の無視、セオリーの無視

「独創的な演奏」をめざした時、1番最初に思いつくことが楽譜の指示を破ること、セオリー通りに弾かないことですが、これが1番「奇を衒った鼻につく演奏」と思われやすいです。なぜ楽譜の指示を破ることを最初に思いつくのかというと、「ピアノの森」などの音楽系アニメ、漫画の影響が強いと思っています。ピアノの森では物語の途中、まるで楽譜通りに弾くことが悪いことのように描かれていますが、そんなことは決してありません。おそらく日本の教育の質の低さをわかりやすく示唆するためにあえてそういう描き方をされているのでしょうが、楽譜の指示をまもらずに自分勝手に脳死で弾けば海外の音大であろうと絶対に「指示を守っていないこと」を指摘されます。

「でもピアニストのブーニンは楽譜の指示守ってないように聴こえるのだけど…」

これには明確な理由があります。最初に、「独創的な演奏をする人ほどその楽曲をよく理解していて、鮮明な「理想」」を持っている」ということをお話ししましたよね。ブーニンは確かに指示を守らずに弾いている部分がありますが、それは、その曲を深くまで理解した上で、自分の持つ「理想」を追いかけていった結果、楽譜の指示を守っていないように見えるだけで、ちゃんとその指示にどんな意味合いがあるのかというのはめちゃくちゃ考えていると思います。ブーニンの場合、アクセントの音を極小で弾く時がありますが、これは逆張りではなく、音を小さくすることによって音を大きく弾いた場合と同じくらい「強調」の効果が得られるので、より自分の「理想」にあった小さい音での演奏をしているのでしょう。

・自分が教わっている先生の言っていることの無視

よく天才ピアニストのエピソードとして、「先生と音楽的な考え方が合わなかった」というものがあります。反田恭平氏は典型的なそれですね。自分の「こう弾きたい」が許されず、とても嫌な思いをしてらしたみたいです。これは本当に良くないと思っていて、なぜなら教育者とは生徒の個性を伸ばす援助しかしてはならないからです。生徒の「こう弾きたい」は個性なので積極的に聞き入れてあげるべきなのです。ただ、これを勘違いして「じゃあ先生の言うことなんか信じなくていいや」と脳死でピアノを弾き始めると、どんどん「奇を衒った鼻につく演奏」に近づいていきます。それとこれとは話が別です。先生は一応生徒よりも長くその道で学んできたプロですので、間違いなく生徒よりも知識と経験があります。彼らの言うことはそれなりに理論に基づいていて、経験則からもやめておいた方がいいことというのはより多く知っています。なので脳死で「こいつは間違っている!」と考えるのではなく、「先生はどうしてこう言ったんだろう」と一度聞き入れてみて、徹底的に考えて、調べて、その上で気に入らなければ切り捨てれば良いのです。きっと気に入らなかった理由がしっかりしていれば先生も納得してくれるでしょう。しかし、脳死で先生の言うことだけを守るのも良くありません。バランスよくやってください。自分の足でちゃんと立って歩かないと、独創的な演奏どころか上手に演奏することもできません。

・「感性」の一人歩き

これもやっちゃいけないことランキングの上位に入ります。よく演奏会などの後で「自分の世界観をみんなに見せつけることができたと思います!」とか「自分にしか出せない音で聴衆を魅了できたと思います!」とか聞くんですが、直接言いはしないですが「演奏は見せつけるものではないよ??」と思っています。演奏は見せつけるものだと思い込んでいる人は、演奏中、感性が一人歩きをしている人が多いです。自己顕示欲が強いからですね。感性が一人歩きしている人は、根本的に「音」が聴けてないです。演奏の際、体をぐわんぐわんさせながら弾いているのに肝心の演奏はめちゃくちゃ単調だったり。顔の表情はすごい悲しそうなのに音色は元気もりもりだったりもそうですね。
人前で演奏するという行為は「自分の世界観を見せつける」ためにするものではなく、「この曲、こんなにいい曲なんだよ!みんなぜひ聴いて!!」というその場にいる聴衆たちと音楽をするよろこびの共有をすることです。感性や想像力は音楽をする上でめちゃくちゃ大事な要素ではありますが、感性や想像力を働かせる場面やバランスは考えた方がいいです。
自己顕示欲などの邪念は自分の弾く曲の魅力を引き出すのに邪魔になります。演奏中に必要なのは「自分が作り上げてきた音楽を十分に発揮しよう」という集中です。プロのピアニストに直立不動の人が多い理由はこれです。

おわりに

どうでしたか?役に立つ情報はありましたか?
僕も音大に入りたてのころははちゃめちゃな演奏をして先生を困らせていました。
しかしそれでは意味がありません。
今この瞬間から、音楽には不思議な力があると思い込むのを辞めましょう。「あの人は楽譜の指示を守っているのになぜか独創的」と思った時、「ワースゴイナー」で終わってはなりません。「なぜ独創的、魅力的に聴こえるのか」を徹底的に追求してください。絶対に思考を止めてはなりません。もう、その日の夜布団に入ったらすぐ眠れそうだなと感じるくらい頭をフル回転させて、どうすればよいのか、考え続けます。おすすめは、その人の演奏を楽譜を見ながら聴いてみると良いです。そうすればめちゃくちゃ考えられた上での演奏だと言うことがすぐにわかります。先ほどのブーニンもそうです。一見楽譜の指示を守っていないように聴こえますが、楽譜と見比べてじっくり聴いてみると、守っていないのではなく、その指示の解釈が通常と違っただけというのがわかるはずです。


こんな記事を書いておいて今言うのもなんですが、別に誰の意にも介さないのであれば、自分の好きなように弾けばいいと思います。僕が書いたのは「表現者」の立場に立った時の話であって、趣味の楽器演奏についてあれこれ言うつもりはありません。結局音楽は、音楽を愛したものの勝ちです。

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