認知症ケアの倫理・パーソンセンタードケア

 参考・引用文献:箕岡真子著2010「認知症ケアの倫理」ワールドプランニング

○倫理4原則
・自律尊重原則:他人の自己決定を尊重すること
・善行原則:患者の利益・幸福のために善い行為をすること
・無危害原則:侵害回避をすること
・公正原則:人々を公平・平等に扱うこと

○家族介護者の役割p48~
 ・「認知症ケアの倫理」の重要な役割は、家族をはじめとする、進行性の認知症に関わるすべての人が安心できるようなケアの倫理的土台をつくること
 ・「認知症の人の尊厳はなにか」「人であることの意義はなにか」など、家族介護者は、そのような困難な経験を通じて、認知症の人が家族のなかで’ひとりの人’として生活する(共にある)ことの意義を学ぶ人
 ・家族介護者の生きた経験は、日常ケアにおける具体的な問題点を明確にし「認知症ケアの倫理」を形づくるうえで欠くことができない。これらの人々の声に耳を傾けることによって、はじめて認知症の人たちが幸福に生きる権利がある存在として扱われるケア体系と倫理体系を作ることができる

○行動コンロトロールの倫理p54
 BPSDに対する薬剤使用や身体拘束に対する倫理
 認知症の人の最善の利益と介護提供者の最善の利益は、実践的にも倫理的にも複雑に関連し、相互に依存する。視点を変えれば、生命倫理原則にある「善行原則」「無危害原則」「自律尊重原則」が複雑に対立しているともいえる。これらの原則を比較衡量しながらバランスを取り、本人のQOLだけでなく、周りの人たちのQOLs(関係者全員のQOL)も考えるという判断プロセスを取ることが望ましい

○認知症の人のQOLp62
  私たちは、「何かができる」ことに重きを置いてしまう傾向がある。そのような能力主義的な考え方においては、「何かができないこと」は困ったことになってしまう。人々がアルツハイマー病を恐れる理由は、病気の進行とともに、これらの能力が減退し、失ってしまう恐怖。
 「認知症ケアの倫理」の中心的関心事は、認知症の人、本人が感じるQOLを高めること
  個性に配慮した独創性のあるアクティビティは、QOLの改善に役立つ
 「認知症ケアの倫理」は認知症の本人が中心ではあるが、ケアに関わる全ての人のQOLが大切になる。認知症ケアにおけるQOLという概念は、互いに助け合いながら生きている人々との関係性のなかに存在している。認知症本人のQOLは、家族を含む他の介護者のQOLに影響を与えるし、その逆もしかりである。
 
○倫理的視点からのパーソン・センタード・ケアp86~
 英国ブラッドフォード大学の故トムキットウッドの提唱した概念。認知症の人個人の価値を認め、パーソンフッド(個性・人間性)を維持・向上させることを重視する。ケア専門職の関わりで認知症の人のパーソンフッドが傷つけられるような出来事を目の当たりにして提唱したものである。
 認知症のある人の潜在的な「心理的ニーズ」を規定し、認知症の進行で意思表明が難しくなった時、それらを満たせないことで、パーソンフッドが一層損なわれるとする
・くつろぎ(やすらぎ)
・アイデンティティ
・愛着・結びつき
・たずさわる
・共にある
  パーソン・センタード・ケアは、リレイション(関係性)・センタード・ケアといってもよい。トム・キットウッドは、「認知機能障害が大変高度な場合でも、私とあなたの関係はしばしば可能である」と述べている。
 DCM(認知症ケアマッピング)はトム・キットウッドによって考案されたが、認知症の人のパーソンフッドが最大限に活かされるアクティビティのタイプやケアの質の改善についてケアスタッフとともに検討できるツールである。DCMはケアの技術的問題点を明確にすることができるとともに、尊厳に反する行為や、無危害原則に反する行為、善行原則に適う行為を明確にする倫理的気づきの一方法にほかならない。しかし評価者の主観が主であり、倫理的にはパターナリズム的な視線にならないようにする注意が必要である。

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