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リメイクがオリジナルを超える時〜ウエストサイドストーリー

例えば黒澤作品。故・森田芳光監督の「椿三十郎」、樋口真嗣監督の「隠し砦の三悪人」、いずれも残念なリメイクでした。オリジナルを超えるリメイクというのは、なかなか成功しないものです。何故なら「比較」されるから。特にオリジナルが圧倒的な存在感を持つ場合は特に大変です。
樋口監督のように大筋は押さえつつ新解釈で作り上げるのは至難の業。とは言え、オリジナル脚本をそのまま踏襲した森田監督もクロサワを超える事は出来ませんでした。
踊るファンだし織田っちは好きでしたから贔屓目で観たんですがダメでしたね。繊細な心情描写とか織田っちの芝居も結構頑張りましたけど、やはりミフネの圧倒的な存在感は超えられる物では無かったんです。

そんな事で、あの巨匠:ロバート・ワイズ監督の名作をスピルバーグがリメイクすると数年前に聞いても、そんなに期待はしませんでした。

そして今回、公開2日目、2月12日(土)大阪・TOHOシネマズなんば・スクリーン2のIMAXで  #ウエストサイドストーリー  観賞しました。朝イチ9:15の回でしたから、入りはボチボチでしたが、幅広い客層でした。

御免なさいw  スティーブン・スピルバーグという監督は、やはり只者では有りませんでした。見事にオリジナルを超えてました(笑)。

「何故、今更初めてのミュージカル映画を作るのか」という意見も有りましたが、その心配さえ杞憂でした。そもそもスピルバーグといえば「インディ・ジョーンズ 魔王の迷宮」冒頭、タイトルシーンでミュージカル演出をやってましたしね。幼少期からの映画好き少年はミュージカル映画も好きだったんですよね。躍動感有る映像作りもお手の物。根底にあるリズム感がモノを言う訳です。

ミュージカル好きな方の感想を見ても評価が高く「どちらかというと、ワイズ版よりも舞台版に則した演出で好感持てた」という声をTwitterで幾つも見ました。

では、映画好きとして気付いた点など。。。

①銀落とし的映像
コレは分からんのですが、エンドロールでは「パナビジョン カメラ&レンズ」のロゴを確認しただけですが、もしかするとデジタル撮影カメラでは無くフィルムカメラで撮影したんじゃ無いか?という映像の質感でした。さらに全体的にセピア寄りの色調に調整していましたよね。多分、今現在の機材だとギラギラし過ぎて1950年代の雰囲気が出ないと見たんじゃ無いでしょうか?結果的にも目に優しく、2時間半以上の尺なのに全く長さを感じず観賞出来ましたし、全く違和感無く50年代NYにタイムスリップ出来ました。

②光と影
基本の映像の質感を銀落とし調にしたのは、監督の盟友・撮影監督ヤヌス・カミンスキーの意向も有ったかも知れませんが、何よりも、色調を落としたからこそ、ミュージカルシーン(特に「アメリカ」)の華やかな色合いが際立ちました。
そして!決闘場面などでは光と影が圧倒的な効果を生んでいました。エンドタイトルも素敵でしたよね。メドレー形式で流れる音楽だけでなく美しい映像も是非!最後まで席を立たずに!

③立体的構図
かつてのワイズ版を何度もご覧になった人には一番インパクト有ったのがココでしょう。
ワイズ版は、どうしても40年代〜50年代のMGMミュージカル様式を踏まえた画作りで、平面的な構図中心でした。今回、スピルバーグ版は、それこそ360度を意識した立体的な構図で飽きさせませんでしたね。
溜息が出たのは「マンボ」からの二人の出会い場面。ワイズ版では画面左右両端の二人以外をボヤかせましたが、今回スピルバーグは縦構図で、二人を止めて踊る人たちの隙間に、立ち尽くし見つめ合う二人を対比させました。大画面の中では小さいのに観客の目を釘付けに出来る効果的な演出でした。また、ワイズ版では屋上だけで動かない「アメリカ」も、MVのようにロケ場面を目まぐるしく移して細かいカット&シーンで割って見せてくれました。

④社会的意図
ワイズ版では余り押し出してなかった社会的問題をスピルバーグは全編通して提示しました。脚本のトニー・クシュナーの意図かも知れませんが、プリプロ段階で相当話し合った筈なので、多分スピルバーグ自身の意図も大きいでしょう。
・都市開発と取り残される(貧困層の)人々
・相容れないコミュニティの対立、人種問題
・(そこからさらに拡大解釈しての)国家間の対立
振り返ればアメリカはトランプ大統領時代、国全体を巻き込んでの対立構造が際立つ数年間となりました。民主党支持のスピルバーグにとって耐えられない想いも大きかったでしょう。人々から愛された今作のリメイクを閃いたとしても不思議では無いと思いますし、ワイズ版よりも明確にメッセージを込めたいとクシュナー氏と相談したとしても自然だと思いますね。

といった感じでエンターテイメントとしても進化させ、メッセージ性も高められたという意味で、今回アカデミー賞で有力視されているのも、観賞してみて納得しました。

先日、映画評論家の町山さんがラジオで話していましたが、ワイズ版では移民側のキャスティングは、実際の中南米系の人は起用せず肌にドーランを塗ったそうですが、今回はしっかりプエルトリコ人の役者にしたとか。お陰で人種間の対立が、誰が見てもハッキリ理解出来るようにもなっています。スペイン語や訛りの部分も効果的なので、吹替派の方も是非一度、字幕版でご覧頂きたいと思います。

もろ手をあげて★★★!
そんな作品でした。
是非スクリーンで!

最後に。
今回WSSを見るにつけ、「あの」キャッツ映画版の出来がホンマに残念です(苦笑)。ケネスブラナー版「オリエント急行」リメイクをきっかけに「ナイル」も今年公開されますが、このスピルバーグ版をきっかけに「サウンド・オブ・ミュージック」とか「雨に唄えば」もリメイクしてくれんかなぁ。。。ミュージカル映画好きとしては。

あー!まだあった!
鉄道ファンとしては、1950年代のNY地下鉄が再現されていた事に興奮しました!CGかも?ですが、昔ながらの駅(72丁目)のホームに電車が滑り込み、閉まりかけのドアを押さえて乗り込み、揺れる車内で会話するシーン、良かったなぁ。日本の映画、ドラマもあれくらいしっかりと時代考証してくれたら。。。某朝ドラのプリウス問題が残念でならぬぅ〜ww

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