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東京都職員採用試験 平成27年度 行政法


問 題

【問題】

近年、様々な仕事の現場で、勤務者それぞれが主体的に目標を設定し、その達成に積極的に取り組むことが求められている。Y市の学校教育の現場でも、教職員が各学校の組織目標を前提とした個人目標を主体的に設定し、その達成に積極的に取り組むことが求められるようになった。
そこで、Y市教育委員会は、各教職員が、年度ごとに個人目標を設定し、それに対する取組を自ら評価し、改善などを行うことで、職務意欲・資質能力の向上、教育活動等の充実及び組織の活性化を図る教職員の評価・育成システム(以下「本件システム」という。)を導入した。
このシステムの下では、各教職員が、年度ごとに取り組む目標を記載した①自己申告票を作成し、その作成過程では、校長との目標設定面談を経ることになっている。また、目標達成状況等は、年度ごとに順次追記する。このように作成された①自己申告票は校長に提出される。本件システムの趣旨を達成するためには、自己申告票に、教職員が自己の目標や達成状況、目標設定の背景となる周囲の環境等について、作成者自身に関する記載のみならず、他の教職員や生徒、保護者に関する記載も含め、対象者の利益、不利益を問わず具体的に記載される必要があるとされる。
また、各校長は、当該教職員に対する日常の観察や、自己申告票自体の内容等を踏まえて、その評価を記載した②評価・育成シートを作成する。②評価・育成シートは、当該教職員にそれを開示し、面談などを通して指導助言を行う。この過程で作成された①自己申告票及び②評価・育成シートの写しは、校長から勤務成績の評定権者であるY市教育委員会に提出される。本件システムの目的を全うするには、②評価・育成シートは、児童・生徒の事故やいじめへの対応の適否、授業における工夫の不足など、問題があれば具体的に指摘し、各校長の率直な評価を記載する必要がある。
平成N年度も、このような形で、①自己申告票と②評価・育成シートが作成され、Y市教育委員会に提出された。
このうち、①自己申告票は、①A:作成者の所属校、氏名・経歴等、①B:各学校の組織目標を前提とした各教職員の当該年度の個人設定目標、①C:当該年度の目標達成状況及び来年度の設定目標の各欄から構成されている。①B及び①Cの欄には、生徒や他の教職員の個人名、地名、学校名、生徒に関する健康の状況、障害の状況、指導の状況、成績処理の方法等、担当職務に関連する事項が直筆又はパソコンで記載されており、訂正印が押印されているものもある。
他方、②評価・育成シートは、②A:作成者の氏名及び所属校等を記載する欄のほか、②B:校長による業績評価、能力評価、総合評価の3点の個人評価、②C:各教職員の次年度に向けた課題・今後の育成方針の各欄から構成されている。そして、これらの欄は、おおむね評価者の直筆により記載されている。
Y市民Xは、Y市立A小学校に通う2人の子供の親として、また、A小学校PTA会長として、Y市内の教職員がどのように評価され、問題改善・教育能力向上の取組を行っているかを知りたいと考えるに至った。Xは、Yの市報にて本件システムのことを知り、Y市の教職員全体について、①自己申告票と②評価・育成シートの閲覧をしたいと思った。
そこで、Xは、Y市情報公開条例第5条に基づき、個人情報(①A及び②Aの欄)を除くY市教職員全員の平成N年度の①自己申告票(①B及び①Cの欄)と②評価・育成シート(②B及び②Cの欄)の開示を請求した。この事案について、次の問題1及び問題2に答えなさい。

(問題1)
Xが利用した情報公開制度は、憲法上のある権利を具体化する制度として理解されている。その権利とは、どのような権利であり、憲法上どのような位
置付けが与えられているか、説明しなさい。
(問題2)
あなたがY市の担当者だとしたら、Xの情報公開請求について、どのような判断をするか。【参照条文】を適切に引用しつつ、結論とともに理由を述べ
なさい。

【参考条文】

○Y市情報公開条例(抜粋)
(公文書の公開を請求する権利)
第5条 何人も、この条例の定めるところにより、実施機関に対し、当該実施機関の保有する公文書の公開を請求することができる。
(公開請求の手続)
第6条 前条の規定による公文書の公開の請求(以下「公開請求」という。)は、次に掲げる事項を記載した書面(以下「公開請求書」という。)を実施機関に提出しなければならない。
(1) 公開請求をする者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人その他の団体にあっては、代表者の氏名
(2) 公文書の名称その他の公開請求に係る公文書を特定するに足りる事項
2 実施機関は、公開請求書に形式上の不備があると認めるときは、公開請求をした者(以下「公開請求者」という。)に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。この場合において、実施機関は、公開請求者に対し、補正の参考となる情報を提供するよう努めなければならない。
(公文書の公開義務)
第7条 実施機関は、公開請求があったときは、公開請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「非公開情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、公開請求者に対し、当該公文書を公開しなければならない。
(1) 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
ア 法令若しくは条例(以下「法令等」という。)の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報
イ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であ
ると認められる情報
ウ 当該個人が公務員等(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第
1項に規定する国家公務員(独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第 2条第 2項に規定する特定独立行政法人の役員及び職員を除く。)、独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号)第2条第1項に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)の役員及び職員、地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員並びに地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第2条第1項に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)の役員及び職員をいう。)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職、氏名及び当該職務の遂行の内容に係る部分
(2)~(5) (略)
(6) 市の機関又は国、独立行政法人等、他の地方公共団体若しくは地方独立行政法人の機関が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
ア 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
イ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ウ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
エ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
オ 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係
る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ
(7) (略)
(公文書の一部公開)
第8条 実施機関は、公開請求に係る公文書の一部に非公開情報が記録されている場合において、非公開情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、公開請求者に対し、当該部分を除いた部分につき公開しなければならない。ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りでない。
2 公開請求に係る公文書に前条第1号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において、当該情報のうち、氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、公にしても個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する。

関連条文

憲法
21条1項(3章 国民の権利及び義務):集会・結社・表現の自由、通信の秘密

一言で何の問題か

設問1 知る権利の位置付けと情報公開制度
設問2 情報公開請求の許否

答案の筋

設問1
知る権利が保障されないと、憲法21条1項の表現の自由の意義が失われてしまうことから、表現の自由の一環として保障されている。また、今日的には、自由権的側面にとどまらず、行政機関の情報にアクセスすることで、積極的に情報を獲得するという社会権的側面を具体化するものとして、情報公開制度が制定された。
設問2
①B及び①C:原則公開、例外として生徒を特定できる情報は非公開、再例外として公務員である教職員の職務に関する情報は公開。この際、情報公開の目的を十分に達成できるよう、特定の個人を識別できる情報を除外した上で公開すべき。ただし、公開により教職員のパフォーマンスや能力を阻害したり、または生徒の学習環境を悪化させるリスクがあれば公開を拒否できる
②B:個々の教職員に対する評価や審査の結果は人事評価であり、公開された場合、人事業務や当該教職員のパフォーマンスに支障を及ぼす可能性があるため、公開を拒否できる
②C:教職員の次年度に向けた課題や育成方針に関する情報であり、公務員の職務遂行状況や業務改善の方向性についての情報とみなせるため、公開すべき

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