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旧司法試験 民事訴訟法 平成15年度 第2問


問 題

甲は、乙に対し、乙所有の絵画を代金額500万円で買い受けたとして、売買契約に基づき、その引渡しを求める訴えを提起した。
次の各場合について答えよ。
1 甲の乙に対する訴訟の係属中に、乙は、甲に対し、この絵画の売買代金額は1000万円であるとして、その支払を求める訴えを提起した。
(1) 甲は、乙の訴えについて、反訴として提起できるのだから別訴は許されないと主張した。この主張は、正当か。
(2) 裁判所は、この二つの訴訟を併合し、その審理の結果、この絵画の売買代金額は700万円であると認定した。裁判所は、甲の請求について「乙は甲に対し、700万円の支払を受けるのと引換えに、絵画を引き渡せ。」との判決をすることができるか。一方、乙の請求について「甲は乙に対し、絵画の引渡しを受けるのと引換えに、700万円を支払え。」との判決をすることができるか。
2 甲の乙に対する訴訟において、「乙は甲に対し、500万円の支払を受けるのと引換えに、絵画を引き渡せ。」との判決が確定した。その後、乙が、甲に対し、この絵画の売買代金額は1000万円であると主張して、その支払を求める訴えを提起することはできるか。

関連条文

民訴法
114条1項(1編 総則 5章 訴訟手続 5節 裁判):既判力の範囲
142条(2編 第一審の訴訟手続 1章 訴え):重複する訴えの提起の禁止
146条1項(2編 第一審の訴訟手続 1章 訴え):反訴
149条1項(2編 第一審の訴訟手続 3章 口頭弁論及びその準備 1節 口頭弁論):
 釈明権等
246条(2編 第一審の訴訟手続 5章 判決):判決事項(処分権主義)
民法
1条2項(1編 総則 1章 通則):基本原則(信義則)
418条(3編 債権 1章 総則 2節 債権の効力):過失相殺
533条(3編 債権 2章 契約 1節 総則):同時履行の抗弁
民事執行法
31条1項(2章 強制執行 1節 総則):
 反対給付又は他の給付の不履行に係る場合の強制執行

一言で何の問題か

1(1):反訴と二重起訴
1(2):同時履行の抗弁と引換給付判決
2:引換給付文言と既判力

つまづき、見落としポイント

1(1)における結論とその理由両方の正しさを確認する

答案の筋

1(1) 乙の訴えは、反訴として提起できるからではなく、二重起訴に当たるため別訴は許されないのであり、甲の主張を全体として見たときは失当である。
1(2) 裁判所は両請求について引換給付判決を下そうとしているところ、同時履行の抗弁が行使の主張を必要とする権利抗弁であることから、双方の抗弁主張があり、かつ、処分権主義の観点から原告の意思に反せず、被告にとっても不意打ちとならなければ、引換給付判決をすることができる。
2 引換給付文言は訴訟物ではなく既判力が発生しないため、乙の訴え提起は認められるとも思える。しかし、引換給付判決を行うにあたり争う機会もあったと思われ、その反対債権について再度争わせることは、紛争の蒸し返しとなり、また、これを争えないとしても、手続保障上問題はないため、引換給付部分として確定された事項を後訴で争うことは、信義則上認められない。

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