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司法試験予備試験 憲法 平成28年度


問題

 次の文章を読んで,後記の〔設問〕に答えなさい。
 A市は,10年前に,少子化による人口減少に歯止めをかけるためA市少
子化対策条例(以下「本件条例」という。)を制定し,それ以降,様々な施
策を講じてきた。その一つに,結婚を希望する独身男女に出会いの場を提供
したり,結婚相談に応じたりする事業(以下これらを「結婚支援事業」とい
う。)を行うNPO法人等に対する助成があった。しかし,A市では,近年,他市町村に比べ少子化が急速に進行したため,本件条例の在り方が見直
されることになった。その結果,本件条例は,未婚化・晩婚化の克服と,安
心して家庭や子どもを持つことができる社会の実現を目指す内容に改正され,結婚支援事業を行うNPO法人等に対する助成についても,これまで十
分な効果を上げてこなかったことを踏まえ,成婚数を上げることを重視する
方向で改められた。これに伴い,助成の実施について定めるA市結婚支援事
業推進補助金交付要綱も改正され,助成に際し,「申請者は,法律婚が,経
済的安定をもたらし,子どもを生みやすく,育てやすい環境の形成に資する
ことに鑑み,自らの活動を通じ,法律婚を積極的に推進し,成婚数を上げる
よう力を尽くします。」という書面(以下「本件誓約書」という。)を提出
することが新たに義務付けられた。
 結婚支援事業を行っているNPO法人Xは,本件条例の制定当初から助成を受けており,助成は活動資金の大部分を占めていた。しかし,Xは,結婚
に関する価値観は個人の自由な選択に委ねるべきであるから,結婚の形には
こだわらない活動方針を採用しており,法律婚だけでなく,事実婚を望む者
に対しても,広く男女の出会いの場を提供し,相談に応じる事業を行ってい
た。このため,Xは,改正後の本件条例に基づく助成の申請に際し,本件誓
約書を提出できず,申請を断念したので,A市からの助成は受けられなくなった。そこで,Xは,A市が助成の要件として本件誓約書を提出させることは,自らの方針に沿わない見解を表明させるものであり,また,助成が受けられなくなる結果を招き,Xの活動を著しく困難にさせるため,いずれも憲法上問題があるとして,訴訟を提起しようとしている。

〔設問〕
 Xの立場からの憲法上の主張とこれに対して想定される反論との対立点を
明確にしつつ,あなた自身の見解を述べなさい。なお,条例と要綱の関係及
び訴訟形態の問題については論じなくてよい。

関連条文等

憲法
19条(第3章 国民の権利及び義務):思想及び良心の自由
21条1項(第3章 国民の権利及び義務):集会・結社・表現の自由

一言で何の問題か

助成を受けるための誓約書の提出義務

答案の筋

1 確かに、誓約書の提出はあくまで助成を受けるための条件であり任意のものにすぎないから、消極的表現の自由は侵害されていないとも思える。しかし、助成が打ち切りとなるのを恐れて意に反する誓約書の提出に応じざるを得ないとすれば、その提出は事実上強制されているといえ、間接的ではあるが消極的表現の自由の制約となる。よって、制約の許否は、制約の目的および内容ならびにそれによる制約の態様などを総合的に考量して、かかる制約を許容しうる程度の必要性および合理性があるかという観点から判断すべきである。この点、法律婚を推進し、成婚数をあげることを目的とすることに必要性および合理性は認められるが、誓約書の提出を事実上強制することに法律婚推進との目的との関係で必要性と合理性があるとは言い難く、消極的表現の自由を不当に制限し違憲である。
2 結社の自由は消極的権利であり、当然に助成を求める権利まで保障されるものではないが、ひとたび制度化された場合に合理的な理由なくして拒否、停止することは実質的に結社の自由の制限となる。この点、誓約書提出を助成の条件とすることは法律婚推進という目的との関係で必要性および合理性が認められず、違憲である。

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