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旧司法試験 刑法 平成17年度 第1問


問題

甲は、自己の取引先であるA会社の倉庫には何も保管されていないことを知っていたにもかかわらず、乙の度胸を試そうと思い、何も知らない乙に対し、「夜中に、A会社の倉庫に入って、中を探して金目の物を盗み出してこい。」と唆した。乙は、甲に唆されたとおり、深夜、その倉庫の中に侵入し、倉庫内を探したところ、A会社がたまたま当夜に限って保管していた同社所有の絵画を見付けたので、これを手に持って倉庫を出たところで警備員Bに発見された。Bが「泥棒」と叫びながら乙の身体をつかんできたので、乙は、逃げるため、Bに対し、その腹部を強く蹴り上げる暴行を加えた。ちょうど、そのとき、その場を通りかかった乙の友人丙は、その事情をすべて認識し、乙の逃走を助けようと思って、乙と意思を通じた上で、丙自身が、Bに対し、その腹部を強く殴り付け蹴り上げる暴行を加えた。乙は、その間にその絵画を持って逃走した。Bは間もなく臓器破裂に基づく出血性ショックにより死亡したが、その臓器破裂が乙と丙のいずれの暴行によって生じたかは不明であった。
甲、乙及び丙の罪責を論ぜよ(ただし、特別法違反の点は除く。)。

関連条文

刑法
45条(第1編 総則 第9章 併合罪):併合罪
54条(第1編 総則 第9章 併合罪):
 一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理
60条(第1編 総則 第10章 累犯):共同正犯
61条(第1編 総則 第11章 共犯):教唆
65条(第1編 総則 第11章 共犯):身分犯の共犯
130条(第2編 罪 第12章 住居を侵す罪):住居侵入等(建造物侵入)
207条(第2編 罪 第27章 傷害の罪):同時傷害の特例
235条(第2編 罪 第36章 窃盗及び強盗の罪):窃盗
236条(第2編 罪 第36章 窃盗及び強盗の罪):強盗
238条(第2編 罪 第36章 窃盗及び強盗の罪):事後強盗
240条(第2編 罪 第36章 窃盗及び強盗の罪):強盗致死

一言で何の問題か

真正身分犯、同時傷害の特例、承継的共同正犯(共謀の射程)、共同正犯の加重結果、事後強盗罪の実行着手時期

つまづき、見落としポイント

教唆犯の故意

答案の筋

乙に関して、窃盗罪は強盗致死罪に吸収され、これらと建造物侵入罪は併合罪となる。
非身分者も身分者を通じて身分犯の法益を侵害できるから、65条1項の「共犯」には共同正犯も含む。もっとも、暴行及びそれに基づく死亡結果は、それがなされるたびにその場で既遂に達する以上、その後に共犯として加功することができず承継的共同正犯は観念できない。ここで、本件では少なくとも先行者に死亡結果を帰責できるのであるから、同時傷害の特例を安易に適用すべきでないため、乙は事後強盗罪の共同正犯となるにとどまる。
正犯者に結果発生の認識が必要とされる以上、共犯にもその認識を必要とすべきであるところ、甲はA社の倉庫に何も物品が無い以上、窃盗の犯罪結果が生じることは無いと認識しているため、建造物侵入罪の教唆犯のみ成立する。

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