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旧司法試験 民事訴訟法 平成19年度 第2問


問 題

甲は、乙に対して貸金債権を有しているとして、乙に代位して、乙が丙に対して有する売買代金債権の支払を求める訴えを丙に対して提起した。
1 甲の乙に対する貸金債権の存否に関する裁判所の審理は、どのようにして行われるか。
2 乙の丙に対する売買代金債権が弁済により消滅したことが明らかになった場合、裁判所は、その段階で、甲の乙に対する貸金債権の存否の判断を省略して、直ちに甲の丙に対する請求を棄却する判決をすることができるか。
3 裁判所は、甲の乙に対する貸金債権は存在し、乙の丙に対する売買代金債権は弁済により消滅したと判断して、甲の丙に対する請求を棄却する判決を言い渡し、その判決が確定した。当該貸金債権が存在するとの判断が誤っていた場合、この判決の既判力は乙に及ぶか。関連条文

民訴法
114条1項(1編 総則 5章 訴訟手続 5節 裁判):既判力の範囲
115条1項(1編 総則 5章 訴訟手続 5節 裁判) :確定判決等の効力が及ぶ者の範囲
民法
423条1項(3編 債権 1章 総則 2節 債権の効力):債権者代位権の要件

一言で何の問題か

1:当事者適格を基礎づける債権者代位訴訟における被保全債権の審理
2:訴訟要件の審理を経ない本案判決
3:当事者適格の欠缺が看過された場合の判決効の拡張

つまづき、見落としポイント

設問の「どのように行われるか」の答え方:誰がどんな根拠で何をする?

答案の筋

1 確かに、専ら被告の保護を目的とした訴訟要件については公益的色彩は無く、当事者の主張をまって調査を開始すればよい。しかし、当事者適格については、民事訴訟においてその者に対し判決をすることが紛争解決に資するかという、公益的観点から設けられた訴訟要件であり職権調査事項である。よって、裁判所は当事者適格の存否の調査を開始しなければならない。
 一方、本案の審理では弁論主義が採られていることから、本案の審理と密接に関連する訴訟要件については弁論主義が妥当するところ、当事者適格は訴訟物の存否についての本案審理と密接に関連するため、弁論主義が妥当する。この点、債権者代位であっても、その性質は変わらず、弁論主義が妥当すべきであるため、証拠の収集提出については、裁判所が自ら行う必要はなく、当事者の収集提出を待てばよい。
2 訴訟要件たる貸金債権の存否の判断を省略して請求棄却判決をすることはできないのが原則である。しかし、被告の利益保護、無益な訴訟排除を目的とする訴訟要件が不明である場合には、例外的に棄却判決を行うことができる。この場合も、第三者に不利益を及ぼしかねない場合には、却下判決をすべきである。本件甲から丙への訴えを棄却判決した場合、乙は丙に対する売買代金債権を確定的に失うことになり、乙にとって酷である。よって、棄却判決はできず、却下判決がさなれるべきである。
3 115条1項2号は適法な訴訟担当により訴訟が追行された場合、被担当者につき代替的な手続保障が図られたと考えて判決効を拡張するものであり、担当者に当事者適格が認められない場合、適切な者により訴訟が追行されたとはいえず、代替的手続保障は図られていないため同号適用の基礎を欠く。よって、当事者適格の欠缺が看過された本件では、同号の適用は無いため、既判力は乙に及ばない。

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