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司法試験 倒産法 平成25年度 第1問


問題

次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
精密機械の製造等を営む取締役会設置会社であるA株式会社(以下「A社」という。)は,経営不振となり,その財産をもって債務を完済することができない状態に陥ったため,再生手続開始の原因があるとして,平成24年4月5日に再生手続開始の申立てを行ったところ,同日中に監督命令を受け,同月10日,再生手続開始の決定を受けるに至った。
〔設 問〕
以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.A社は,平成22年4月1日,B株式会社(以下「B社」という。)との間で,精密機械の製造に使用するための機械設備(以下「本件設備」という。)を目的として,契約期間を8年とし,フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結し,その後,B社から本件設備の引渡しを受けて使用するとともに,本件リース契約の
約定に従い,毎月末日にリース料を支払ってきた。本件リース契約には,A社が1回でもリース料の支払を怠った場合に関し,A社は,期限の利益を喪失し,また,B社は,本件リース契約を解除し,本件設備を引き上げることができるとの約定がある。
A社は,再生手続開始の申立ての準備に伴う混乱から,再生手続開始の決定の前である平成24年3月末日を支払期日とするリース料の支払を怠ってしまったものの,再生手続開始の決定の後,B社との間で,改めて本件設備を継続して使用することができるよう,協議を行ってきた。しかし,B社からは,本件設備の使用による減価が著しいことから,同年3月末日支払分を含めたリース料の残りの全額を支払うことができないのであれば,一日も早く引き上げたいとの意向を示されており,このままでは,B社から本件リース契約を解除されるおそれがある。
本件設備は,A社の事業の継続に不可欠な設備であり(なお,本件設備には,他に何らの担保権等の設定はない。),また,B社以外の者から新たにリース契約等を締結することによって同等の設備を調達することも困難であることから,A社としては,債務不履行を理由にB社から契約を解除され,本件設備を引き上げられてしまう前に,本件設備を継続的に使用すること
ができるよう,B社との合意を成立させたいと考えている。
以上の場合において,A社の依頼を受けた弁護士として,当該合意を成立させるべく,B社との間の協議を行う機会を確保するため,どのような申立てをすべきであるかについて,A社が申立てをした場合の裁判所における審理の方法に関する問題点にも触れつつ,論じなさい。
また,既にB社が解除の意思表示を行い,A社に本件設備の引渡しを求めているとした場合に違いが生ずるかどうかについて,B社の権利行使の方法にも触れつつ,論じなさい。
2.C株式会社(以下「C社」という。)は,A社に精密機械の部品を供給している会社であり,A社に対して再生債権として売掛金債権を有している者であるが,かねてより,A社の技術力を高く評価していたため,A社の経営の再建に当たり,そのスポンサー候補として,名乗りを上げた。
A社の経営は,創業者の息子であり,その全ての株式を保有する代表取締役Dがその実権を把握していたが,今般のA社の経営不振は,Dが採算性を十分に考慮することなく,他の分野に業務を拡大し,多額の赤字を出したことに主たる原因があった。そこで,C社は,A社に資金を供給するに当たり,Dの取締役からの退任を求めるとの方針の下,A社との間の交渉に入った。しかし,A社は,Dの退任を拒否し,C社との間の交渉を打ち切った上で,スポンサーを得ることなく,自ら経営を合理化し,今後の経営によって得られる利益から再生債権の弁済を行うという再生計画案を作成し,裁判所に提出した。
C社は,A社の大口債権者であるE銀行などの複数の再生債権者から,Dが引き続きA社の経営に当たることは望ましくなく,C社がスポンサーとなることが再生債権者全体の利益になるとして,C社がスポンサーとなるのであれば,支援をする旨を伝えられた。そこで,C社は,A社の作成した再生計画案に対抗するため,届出再生債権者案として,A社がその事業を1億円でC社に譲渡し,A社は,当該事業譲渡の代金を弁済原資として,再生計画認可の決定の確定から3か月後に再生債権額の8%を弁済し,弁済時にその余の再生債権額については免除を受けるとの内容の再生計画案を作成し,裁判所に提出した。
その後,債権者集会において,A社が提出した再生計画案は否決され,他方,C社が提出した再生計画案が可決され,裁判所は,再生計画認可の決定をした。
しかし,A社は,当該再生計画認可の決定があった後も,当該事業譲渡の実施を拒み,株主総会を開催しようともしない。
以上の場合において,C社は,A社の再生手続が廃止されることを避けるため,どのような申立てをすべきかについて,論じなさい。

関連条文

民事再生法
31条1,2項(第2章 再生手続の開始 1節 再生手続開始の申立て):
 担保権の実行手続の中止命令
38条(第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の決定):
 再生債務者の地位
43条1項(第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の決定):
 事業等の譲渡に関する株主総会の決議による承認に代わる許可
52条1項(第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の決定):取戻権
53条1項(第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の決定):別除権
64条1項(第3章 再生手続の機関 3節 管財人):管理命令
194条(第9章 再生手続の廃止):再生計画認可後の手続廃止
会社法
309条2項11号(2編 株式会社 4章 機関 1節 株主総会及び種類株主総会等):
 株主総会の決議
467条1項1,2号(2編 株式会社 7章 事業の譲渡等):事業譲渡等の承認等

一言で何の問題か

担保権実行手続中止命令と取戻権、代替許可のための管理命令の申立て

つまづき・見落としポイント

問題文が何を回答して欲しいのか(最終的なアウトプット)を考察する

答案の筋

概説(音声解説)

https://note.com/fugusaka/n/n1650e3fd8c69?sub_rt=share_pw

1 B社は別除権の行使として本件設備に対する担保権を実行することができ
るところ、弁護士としてはB社との協議を成立させるための時間的猶予を得るために、担保権実行中止命令の申立てを検討すべきである。この際、競売申立人等の意見を聴かなければならないのが原則であるが、中止命令が発せられる前にB社によって私的実行がなされるのを回避するため、裁判所は審尋手続を省くべきである。一方、B社側から既に解除の意思表示等がなされている場合、中止命令の申立ては認められず、B社は取戻権により本件設備を引き上げることとなる。
2 A社は事業譲渡に反対して株主総会を開催しようともしておらず、特別決議による多数の賛成は得られそうにない一方、代替許可よる事業譲渡については,再生債務者等による申立てが必要であるため、本件が「再生債務者の事業の再生のために特に必要があると認めるとき」に当たるとして、管理命令の申立てを行って管財人による事業譲渡を実現するべきである。

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