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暴力を伴う外交①「戦争の原因」

安全保障はおおむね「自分自身を何らかの脅威から防衛すること」と表現できる。「自分自身」に代入される主語は「国家」であることが多く、その国家の構成要素たる国民の生命や財産、国家の主権や領土が主な防衛対象となる。また想定する「脅威」に経済や環境問題、災害や人権侵害など非軍事的な存在を多分に含めて考える場合は総合安全保障と呼ばれる分野になるが、単に安全保障と呼ぶ場合は国外の軍事的脅威からの防衛が一般的である。

安全保障環境にはいわゆる「物理的事実」と、人間の思考や相互作用による「社会的事実」のふたつがあり、国家や国境線や同盟関係といった社会的事実の変更により安全保障が叶うという考え方がある。だが実際、社会的事実は様々な物理的事実の影響下にあることや既存の社会的事実は慣性力を持つためその変更は容易ではない。そして物理的事実を最大限活用した社会的事実への強制的な変更力を軍事力と呼ぶことができる。また現在の社会的事実では、国際システムはある程度は国家間の協調も許容できるが、大前提として単独の統制者が不在の無政府状態であるため、軍事力を中心とする様々な「パワー」によって国家は自己防衛せねばならない状態である。

戦争は「政治組織間の組織的暴力」であり、その政治組織の境界線が国内にある場合は内戦と呼ぶが、狭義には政治組織の境界線が国境線と一致している国家間の武力紛争を指す。

国際社会には様々な政治組織が主権国家として割拠しているが、それらは価値や目標を共有できないどころか対立することも多々ある。とある政治組織の目標達成が他の政治組織のそれを犠牲とする場合、社会、歴史、文化的な基盤に共通点があれば交渉などにより妥協点を模索できるが、そうでない場合は最も普遍的な社会的事実である暴力による脅迫を試み、それでも妥協点が見つからない場合は対象の政治組織やその能力を暴力によって除去せざるを得なくなり、こうして関係する組織同士が暴力を振るいあう戦争状態へと移行する。

政治目標の達成に他組織の除去が必要かつ可能であると認識すれば暴力は行使されるため、相互理解の不足により妥協点や戦力不足の事実を見落とせば暴力の行使により戦争へ至る。そして政治組織や力の分布には単極、双極、多極がある。双極的な分布だと相互理解は容易なものの妥協点が存在しない可能性が高まるうえ、対立する両者が世界の大部分を占めるため発生しうる戦争の規模は最大級となる。

しかし、このような終末戦争は両者にとって不利益なため、実際は小規模な戦争を高頻度に実施することが多い。そのため戦争が世界規模になる頻度が高いのは、単極構造の世界で覇権組織が複数の組織と同時に戦争状態に突入する、あるいは多極構造の世界で複数の組織が乱闘状態となる、のどちらかかと思われる。

参考資料
新訂第5版 安全保障学入門(防衛大学校安全保障学研究会) ISBN:978-4-7505-1543-4


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