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宇宙の世界へようこそ⑯「非ロケット推進」

推進剤を消費しない推進システムは複数あり、それらは大規模な地表および軌道上構造物によって、天体や構造物そのものを反動質量として利用している。主に電力のみで軌道投入や離脱を実施可能なため、特に天体表面と軌道との間の加減速といった大推力が必要な場面の推進剤を大幅に節約できる。基本的に赤道上に設置されることが多い。

マスドライバは最も簡単な非ロケット推進であり、主に地上一次式超電導リニアモータを利用して軌道速度を増減させる装置である。主に月や小惑星など強い重力を持つが大気圏の無い天体に設置される。大砲に近い工業製品であるため、加速させて放出することは容易だが受け止めて減速させることは難しい。そのため天体表面には打上専用の、軌道上には着陸専用のマスドライバが建設される。なおマスドライバとは軌道の反対側の高度しか操作できない。また軌道上の着陸用マスドライバには反動を相殺するためのプラズマロケットが搭載されている。基本的な運用としては、地上からマスドライバで打ち上げて遠地点高度を上げた後にアポジキックを行い軌道投入し、離脱時は軌道上から近地点を下げる、あるいは軌道速度を完全に相殺した後に逆噴射して着陸する。

宇宙エレベータは静止軌道から地表に向かって伸びるエレベータである。人工衛星の軌道には、軌道速度が天体の自転速度と一致する対地同期軌道があり、特に赤道上の対地同期軌道は天体地表から静止して見えるため静止軌道と呼ぶ。その静止軌道上の人工衛星から地表に向かって垂らしたグラファイトナノチューブ製のケーブルをつたって地表港と軌道港の間を往復する。構造物の質量中心を静止軌道上に留める必要があるため、軌道港から宇宙側に向かってアンカーウェイトが伸びている。回避動作を実施しない場合、最終的にはケーブル部と同じ軌道高度を周回している全ての衛星と衝突する。重力が小さく自転が速い天体は静止軌道高度が低くケーブルの負荷を軽減できるため、輸送量を増やしたり安価なケーブルを利用できる。マスドライバよりは輸送量が大きく、オービタルリングより建設適地と輸送量が少ない。

オービタルリングは天体を1周するリングから地表にケーブルを垂らしたエレベータである。リング部分は同高度の人工衛星より速い速度で軌道を周回しており、その余剰分の遠心力によってケーブルを吊り下げて支えている。そのためリングが占有する高度を低軌道に限定することも可能であり、その他の軌道上構造物との共存が容易である。リング部分の構造として、ケーブルが繋がったチューブの中を磁力で支えられた磁性流体などが軌道速度以上で周回しているタイプと、リング状のレールの上を車上一次方式のリニアモータが軌道速度以上で走行しているタイプがあり、特に大規模なオービタルリングは内側リングをチューブタイプで、外側リングをレールタイプといった多重構造にして冗長性とメンテナンス性を確保している。また宇宙エレベータに比べて地上港や軌道港の増設が容易なため輸送量を増やしやすく、設置可能な高度が天体の自転速度の影響をほぼ受けないため、動的構造であるリスクを除けば地球や火星へ設置するのに適した非ロケット推進施設である。

参考資料
・非ロケット宇宙発射(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Non-rocket_spacelaunch
・マスドライバー(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Mass_driver
・超電導リニア(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B6%85%E9%9B%BB%E5%B0%8E%E3%83%AA%E3%83%8B%E3%82%A2
・磁気浮上式鉄道(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A3%81%E6%B0%97%E6%B5%AE%E4%B8%8A%E5%BC%8F%E9%89%84%E9%81%93
・静止軌道(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%99%E6%AD%A2%E8%BB%8C%E9%81%93
・宇宙エレベーター(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Space_elevator#Structure
・宇宙エレベーター建設(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Space_elevator_construction
・月の宇宙エレベーター(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Lunar_space_elevator
・高分子合体によるグラファイト繊維の超高強度、弾性率、導電率(Science Advances) https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abn0939
・オービタルリング(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Orbital_ring

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