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宇宙の世界へようこそ⑭「機関構成と配置」

機関には特性の異なる様々な方式があり、目的とするミッションに応じてどの推進機と発電機を搭載するのか、あるいは組み合わせるのかが決定される。例えば長期間特定の軌道を維持する場合は電気推進を、大質量ペイロードを抱えて惑星間航行する場合は核熱を、または被弾時の抗堪性を考慮して機関をシフト配置に、といった判断が行われる。

人工衛星やスペースコロニーなど、投入された軌道を半永久的に維持する宇宙機には燃費の良さから電気推進が主推進機として採用される。 発電機には太陽光パネルが採用されることが多く、より安価な大出力電源が欲しい場合は太陽炉を、大型展開物が使えない場合は核融合炉(固体含む)を使うことがある。対して宇宙艇などの積極的な軌道変更を行う小型宇宙機は化学ロケットを推進機に採用し、燃料電池やガスタービンや固体核融合炉を電源とするのがほとんどである。

惑星間航行が可能な宇宙船など積極的な軌道変更を行う中型以上の宇宙機の場合、最も単純な機関構成は化学ロケットと太陽光パネルで、次に核熱ロケットと熱機関の組み合わせであり、これら熱ロケットにプラズマロケットを追加したものを複合推進と呼ぶ。商船の複合推進としては、化学ロケットと太陽光パネルに電気推進を追加するのが最も普及しており、発電能力を強化して電気推進を外部点火核融合プラズマロケットにするのが次に多い。

宇宙船に核融合炉を搭載する場合、特に磁場核融合炉は最大出力が増えるほど最低出力も比例して増大し、慣性航行中の燃料消費と放熱板質量が増加する。慣性航行中の磁場核融合炉を消火する場合は再点火用の補助電源が追加で必要になり、小型の核融合炉をクラスタ化すると構造効率が悪化する。そのため最低出力を小さくしやすい慣性核融合炉を主機にして燃料消費と補助電源を節約したり、核融合炉を電源やプラズマ源とするプラズマロケットにより航行時間を短縮する場合が多い。後者は、商船だとDT反応とDHe3反応のデュアルモード燃焼に対応した核融合炉を、戦闘艦だと戦闘システムの電力需要を満たすため発電機と核熱ロケットを統合した核融合主機関と電気推進機を搭載する傾向にある。

商船の場合、推進機や発電機は艦尾などに集中配置することで質量効率やメンテナンス性を向上させている。しかし戦闘艦の場合、被弾時にすべての機関が同時に停止して戦闘能力を完全に喪失することを防ぐため、特に発電機の配置には配慮が必要である。例えば、ロケットノズルはIRシグネチャが大きく、また艦中央は被弾確率が高いため、艦尾と艦中央の中間付近に主機関を置くと良い。また対艦ミサイルは艦の左右象限から飛来する確率が高く、複数の主機関を左右に並列して搭載するパラレル配置は一回の被弾で全機関出力を喪失する可能性があり、多少効率が悪化してでも主機関を前後にずらして搭載するシフト配置を採用することで生存性を高められる。

なお軍民問わず惑星間航行をする大型宇宙船は、分離可能な推進剤タンクやロケットブースタを利用することがあり、ロケットブースタなどは内蔵燃料や電気推進などで母港に自動帰還する能力を持っているものが多い。

特に軍艦における複合推進の表記法
CO(電気推進の電源)(熱ロケットが発電機付き(A)か否(O)か)(熱ロケットの熱源)
基本的に推進用電源と艦内負荷用電源は統合されている
小型艦は放熱板面積と電力需要が小さいため慣性核融合炉を主機にする要求が高い
大型艦は重量出力比を優先して磁場核融合炉を主機にできる

COIOC 慣性核融合発電機の電気推進と化学ロケット
COIOI 慣性核融合発電機の電気推進と慣性核熱ロケット
COIAI 電気推進用の発電機付き慣性核熱ロケット
COIOM 慣性核融合発電機の電気推進と磁場核熱ロケット
COIAM 慣性核融合発電機の電気推進と電気推進用の発電機付き磁場核熱ロケット
COMOM 磁場核融合発電機の電気推進と磁場核熱ロケット
COMAM 電気推進用の発電機付き磁場核熱ロケット
IEP 電熱ロケットの採用により動力を全て電化した機関構成

参考資料
・軍用の電源いろいろ(1)軍艦の電源事情(軍事とIT) https://news.mynavi.jp/techplus/article/military_it-233/
・6.1 レーザー核融合ロケット(プラズマ・核融合学会誌vol83 2007/03)(pdf)
http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2007_03/jspf2007_03-285.pdf
・6.2 磁場核融合ロケット(プラズマ・核融合学会誌vol83 2007/03)(pdf)
http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2007_03/jspf2007_03-288.pdf
・6.3 地上用核融合炉概念設計との比較からの考察(プラズマ・核融合学会誌vol83 2007/03)(pdf)
http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2007_03/jspf2007_03-290.pdf
・最強 世界の戦闘艦艇図鑑(学研) ISBN:978-4-05-405980-1
・艦船メカニズム図鑑(グランプリ出版) ISBN:9784876871131
・世界の艦船No.812(2015/2)
・世界の艦船No.947(2021/5)
・世界の艦船No.905(2019/8)
・世界の艦船No.899(2019/5)
・世界の艦船その他各号
・CODAD(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/CODAD
・CODAG(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/CODAG
・CODOG(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/CODOG
・CODOD(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/CODOD
・COGAG(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/COGAG
・COGOG(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/COGOG
・CODLAG(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/CODLAG
・CODLOG(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/CODLOG
・COGLAG(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/COGLAG
・統合電気推進(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%B1%E5%90%88%E9%9B%BB%E6%B0%97%E6%8E%A8%E9%80%B2


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