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宇宙の世界へようこそ⑬「機関と発電機と排熱」

宇宙機のミッションシステムはその機能発揮に電力を必要とする。民間船ですら通信・航法・船内環境維持・各種コンピュータ・電気推進などに電力を消費し、戦闘艦であればこれらの高出力化とともに、レーダ・電子戦・武器システムの動作・艦載艇用燃料合成・レーザ・レールガン、はたまた推進用核融合炉の起動などの大電力が必要になる。

宇宙においてソーラーパネルは保守や起動の容易さや軽量さなど便利な電源である。しかしおよそ小惑星帯以遠では太陽光が弱くなるうえ、戦闘システムに充分な電力を供給するにはソーラーパネルの大面積化は避けられない。そのため特に戦闘艦では非常用発電機として巻取式の薄膜ソーラーパネルが搭載されているにとどまる。

戦闘艦は主に熱機関かMHDを電源に採用するが、どちらも核融合反応をエネルギ源としている。熱機関のうち重量出力比(PWR)を求めるならヘリウムガスタービンを、熱効率を求めるならスターリングエンジンを動作させ発電する。核融合炉を熱源にするには、およそDT反応など中性子の形で熱を取り出せる核融合炉が望ましく、その場合は中性子の遮蔽と熱変換を担う厚さ約80cmの炉壁が必要になる。そのため大出力熱機関は熱ロケットと熱源を共有して質量効率向上が求められる。逆にホウ素燃料の核融合MHD発電は中性子遮蔽が不要なため発電機そのものは軽量化できるが、これを大推力熱ロケットの熱源とするには、電気を熱への変換システムの変換ロスや重量増などにより、システム全体での効率は大差ない可能性がある。

なお非戦闘艦やスペースコロニーなどでは、コンパクトだが高コストな核融合炉より、安価なソーラーパネルや太陽炉が電源に採用されることは多い。また宇宙艇や人工衛星など大型発電機を搭載できない場合、化学燃料ガスタービンやソーラーパネルや固体核融合炉が採用される。この固体核融合炉は熱機関や熱電変換素子によって発電するタイプと、内部の電位差によって発電する核融合電池とに分類できる。

一定の出力を長時間続ける推進機ならともかく、レーダやレーザ、レールガンなどの戦闘システムのような短時間だけ大出力を要求するものや、核融合炉の点火といったプロセス始動などには補機や蓄電器からの電力供給が必要になる。フライホイールバッテリは大電力を素早く充放電できるが大型なため設置箇所に制限がある。化学電池は若干性能は劣るものの規模や形状の自由度が高く、場合によっては装甲材にも使える。また地上のスペースコロニーでは長期間の保存が可能な化学燃料や位置エネルギといった形態で蓄電することも多い。

熱機関や電子機器を動作させたり船内環境を維持するには発生した熱を宇宙空間に捨てる必要がある。熱輸送には伝導・対流・放射の3種類があるが、真空の宇宙ではラジエータ(放熱板)による放射でしか排熱できない。ラジエータはその温度が熱機関の温度の約75%の時に発電と排熱のバランスが最も良くなる。また、発電機用ラジエータと環境維持用ラジエータをそのまま直結して共有すると、数百度はある発電機の排熱が船内に逆流してしまうため、ラジエータは熱源の温度ごとに分割するか、あるいはヒートポンプなどで無理やり高温側に排熱する必要がある。

参考資料
・熱い方程式:熱力学とミリタリーSF(ケン・バーンサイド) https://booth.pm/ja/items/1825731
・軍用の電源いろいろ(1)軍艦の電源事情(軍事とIT) https://news.mynavi.jp/techplus/article/military_it-233/
・核融合(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Nuclear_fusion
・核融合炉開発の展望(ターボ機械第18巻第1号2) https://www.jstage.jst.go.jp/article/tsj1973/18/1/18_1_16/_pdf
・企業による核融合研究の最近の動向(プラズマ・核融合学会誌vol93 2017/01)(pdf) http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2017_01/9301SPall.pdf
・TAE Technologies Partners、日本の核融合科学研究所(NIFS)と核融合燃料の研究で提携(ニュースリリース配信の共同通信PRWire) https://kyodonewsprwire.jp/release/202110262309
・テキスト 核融合炉(プラズマ・核融合学会誌  第87巻増刊2011年2月) http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2011-02sup.pdf
・超高温原子炉(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B6%85%E9%AB%98%E6%B8%A9%E5%8E%9F%E5%AD%90%E7%82%89
・外燃機関(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%96%E7%87%83%E6%A9%9F%E9%96%A2
・ヘリウムガスタービンの要素技術開発(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構) https://www.jaea.go.jp/04/o-arai/nhc/jp/research/hydrogen_heat/heat/heat_helium.html
・(4)高温ガス炉の今後の研究開発課題(2019年春の年会 新型炉部会セッション) https://confit.atlas.jp/guide/event-img/aesj2019s/1J_PL04/public/pdf?type=in
・スターリングエンジン(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3
・MHD発電(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/MHD%E7%99%BA%E9%9B%BB
・「MHD発電」って何?(もっと知りたい人向け)(奥野研究室) http://www.okuno.mech.e.titech.ac.jp/mhd-m-j.html
・「MHD発電」って何?(真剣に知りたい人向け)(奥野研究室) http://www.okuno.mech.e.titech.ac.jp/mhd-e-j.html
・6.2 磁場核融合ロケット(プラズマ・核融合学会誌vol83 2007/03)(pdf)
http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2007_03/jspf2007_03-288.pdf
・6.3 地上用核融合炉概念設計との比較からの考察(プラズマ・核融合学会誌vol83 2007/03)(pdf)
http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2007_03/jspf2007_03-290.pdf
・フライホイール・バッテリー(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%9B%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%BC
・「フライホイール」の長所を引き出し20年以上メンテ不要の蓄電システムを実現――サンケン電気の総合力(EE Times Japan) https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/1510/15/news002.html
・燃料電池(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%87%83%E6%96%99%E9%9B%BB%E6%B1%A0
・エネルギー貯蔵(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E8%B2%AF%E8%94%B5
・宇宙機フレキシブル自律熱制御(JAXA) https://www.isas.jaxa.jp/j/forefront/2009/nagano/

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