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暴力を伴う外交⑤「戦力の調達」

軍事力を発揮する軍隊という組織には、その組織形態や戦闘領域によっていくつかの種類がある。軍人の調達方法の違いによる兵役が制度なのか職業なのか、また部隊編成の期間やタイミングが随時なのか常備なのか、これらの組み合わせにより概ね4種類の組織形態がある。そして戦闘領域について歴史上は陸上から始まり海上、海中、空中、そして宇宙やサイバー空間へと拡大していった。

軍人という生身の人間が発揮する能力こそが軍事力の源泉であるが、人間は機械と違ってスイッチを切って長期保存することができない。軍人として充分な能力を持つ生きた人間を維持するには適切な食事や訓練などを与え続ける必要があり、また人間は経年劣化するため新品で良質な人間を絶え間なく組織に取り込まなくてはならない。そのため高度な軍事力の維持には多大なコストが要求される。

そして戦争をするには軍事力が必要だが、逆に戦争が発生しないなら軍事力は不要であり、また戦争の可能性があったとしても、その可能性や被害が充分に小さければ平時の軍事力維持コストは「赤字である」として軍隊は解散されてしまう。これらの理由により、社会全体が持つ余力が小さい時代は民兵や傭兵などによる随時編成が主流だったが、産業革命などにより余力が大きくなると徴兵や志願兵による大規模な常備軍を維持できるようになった。

職業的兵役はその取得コストを金銭報酬に頼るのに対して、制度的兵役は取得コストの何割かを社会的報酬(名誉や参政権など)で置き換えることができるため、同額の予算で編成できる規模は職業的兵役より制度的兵役のほうが大きい。加えて徴兵制の常備軍は大量にプールされた退役軍人を再徴兵することで有事に戦力を急増させることも比較的容易である。しかし常備軍による徴兵制は兵役に適した若い労働力を大量動員するため社会の生産力への悪影響も大きく、その社会が発揮可能な最大限の軍事力を要求する国家総力戦などの可能性が小さい場合は志願制などの職業的兵役が望ましい。

無力化するなど敵側の操作を戦争の最終目的とするなら、最終段階では敵側の人間をこちら側の人間で直接コントロールする能力が求められ、それを担う歩兵を主力とした組織は人間が陸生生物であることから主に陸上を戦闘領域とする陸軍として成立した。そして技術の進歩により、戦略攻撃や陸軍の支援を目的として海や空や宇宙などを活動領域とする海軍や空軍や宇宙軍が成立していった。

活動領域ごとに必要な技術や文化は異なるため、領域ごとに人員や機材や組織を集約した軍種として戦力化してきた。しかし実際の戦場は往々にして複数の活動領域にまたがった統合作戦となるため、各軍種は分配された予算に基づき「フォースプロバイダ」として戦力の調達や維持を行い、統合作戦本部や統合軍などが「フォースユーザ」として各軍種から提供された戦力を統合運用することが増えていった。

参考資料
新訂第5版 安全保障学入門(防衛大学校安全保障学研究会) ISBN:978-4-7505-1543-4
軍事理論の教科書 戦争のダイナミクスを学ぶ(ヤン・オングストローム J.J. ワイデン 北川 敬三) ISBN:978-4-326-30296-3
常備軍(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Standing_army
常備軍(世界史の窓) http://www.y-history.net/appendix/wh1001-010.html
予備役(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%88%E5%82%99%E5%BD%B9
民兵(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Militia
傭兵(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Mercenary
傭兵(世界史の窓) http://www.y-history.net/appendix/wh0102-091.html
徴兵制度(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%B4%E5%85%B5%E5%88%B6%E5%BA%A6


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