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期待されるインスリン抵抗性の予防・改善効果 ベルベリン・ケルセチン・シリマリンのメカニズム解明

インスリン抵抗性は、心血管疾患を引き起こす糖尿病・高血圧・脂質異常症の原因の一つです。アルカロイドのベルベリン、フラボノールのケルセチン、マリアアザミの有効成分であるフラボノリグナンのシリマリンといった食品由来成分は、インスリン抵抗性の予防・改善に役立つ可能性があることが明らかになってきました。メカニズムの解明のほか、最近は食品由来の天然物質の相加・相乗効果についても研究が進められています。

インスリン抵抗性で心血管疾患のリスクが上がる

学術顧問の望月です。今回の記事では、『Molecules』に2023年に掲載された「A Descriptive Review of the Action Mechanisms of Berberine, Quercetin and Silymarin on Insulin Resistance/Hyperinsulinemia and Cardiovascular Prevention」をご紹介します。このレビューでは、インスリン抵抗性の調節と心血管疾患の予防をテーマとして取り上げており、それらに対するベルベリン、ケルセチン、シリマリンといった食品由来の天然物質の有効性が検証されています。

さまざまな生活習慣病の原因となる肥満は、世界中で増加傾向にあります。肥満で特に問題となっている内臓脂肪の蓄積は、インスリン抵抗性とも密接に関係しています。インスリン抵抗性は、糖尿病や高血圧、脂質異常症や血管内皮機能不全と相関関係にあり、心血管疾患の危険因子と考えられています。また、インスリン抵抗性が心血管疾患の独立した危険因子であることも明らかになりつつあるのです。

インスリン抵抗性の指標とされているのが、高インスリン血症です。高インスリン血症は、心血管系に悪影響を及ぼすことがわかっています。糖尿病の治療でインスリンの感受性を高める薬剤を使用すると、心血管疾患による死亡リスクが下がるという研究結果も報告されています。

心血管疾患を防ぐには、インスリン抵抗性の改善が重要であることがわかります。しかし、単一の薬剤を用いたインスリン抵抗性の改善法は確立されておらず、治療の現場では、栄養補助食品を含む食事療法、運動療法の導入、ライフスタイルの見直しなどが推奨されています。

レビューでは、インスリン抵抗性に関する224の研究を精査。膨大な数であるため個別の研究内容は割愛しますが、ベルベリン、ケルセチン、シリマリンを中心に、インスリン抵抗性に対する食品由来の天然物質の機能性がくわしくレポートされています。インスリン抵抗性に対するケルセチンの効果は以前も取り上げたことがあるので、よろしければ過去の記事もご参照ください。

レビューでは、ベルベリン、ケルセチンあるいはシリマリンが、糖尿病の発症、そして最終的には心血管疾患の発症につながる主要なメカニズムに対して有益な効果を示すことを実証したいくつかの動物実験を紹介しています。換言すると、これはベルベリン、ケルセチン、あるいはシリマリンが、糖尿病や心血管疾患の予防・改善効果を有する可能性があることを意味しています。

興味深いのは、明らかになりつつあるベルベリン、ケルセチン、シリマリンのメカニズムです。動物実験の結果となりますが、ベルベリン、ケルセチン、シリマリンは、インスリンの分泌を促進してインスリン抵抗性を改善させて血中脂質レベルを下げるほか、慢性炎症と酸化ストレスを抑制すること、肝臓の脂質蓄積を軽減すること、腸内微生物叢の障害を調節することなどが確認されています。

効果的な摂取の量・タイミングなどの検証が課題

これらの組み合わせによる相加・相乗効果の可能性も示されています。鍵の一つとなるのが、シリマリンの働きです。シリマリンは、インスリン抵抗性の根底にあるさまざまな病態生理学的メカニズムを改善させるほか、腸内の細胞膜を超えて分子を輸送する「P糖たんぱく質」という輸送たんぱく質の阻害作用を持っています。この働きは、「P糖たんぱく質」により体外に排出されてしまうベルベリンの吸収効率にも好影響を与えているのです。

一方で、レビューでは課題についても言及しています。細胞モデルや動物モデルでは分子レベルの働きが明らかになっているものの、臨床応用での有効性は十分に証明されていません。今後、大規模なヒト試験で糖代謝障害や心血管疾患に使用される医薬品との相互作用を確認しながら、ベルベリン、ケルセチン、シリマリン単体、あるいはこれらを組み合わせたときに効果的となる摂取の量やタイミング、長期的な影響などを確認していくことが必要となります。

いずれにしても、重要なのは糖尿病や心血管疾患につながるインスリン抵抗性の早期診断です。インスリン抵抗性の状態だとわかれば、食事療法、運動療法などと合わせて、ベルベリン、ケルセチン、シリマリンなどを補助的に摂取してみるのもいいかもしれません。

不二バイオファームでは、ケルセチンを有効成分の一つとする発芽そば発酵エキスを製造しています。発芽そば発酵エキスには、数種類の乳酸菌も豊富に含まれています。腸における吸収効率への影響などを含めた含有成分の相加・相乗効果についても明らかにしていきたいと考えています。

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