本当にあった詐欺の話 〜もしもあなたが寸借詐欺に遭ったら〜



はじめに


あなたは、詐欺に引っかからない自信がありますか?

当然、ある人もない人もいるでしょう。
実際、詐欺の件数や被害額は増加傾向にあります。ニュースでは毎日のように詐欺の被害が取り上げられ、注意喚起がなされています。性別や年齢を問わず、誰が詐欺の標的にされてもおかしくはありません。
とはいえ、普段生活していて詐欺の被害に遭うなんてことは、普通はないでしょう。これだけ詐欺被害が取り沙汰されているのです。十分に気をつけていれば、何も怖くありません。私も、詐欺に引っかかるなんてことは無いだろう、もしもそのような状況になったとしても、ニュースやネットで目にしたように冷静に対処すれば大丈夫だろう、そう思っていました。








実際に詐欺の被害に遭うまでは。








これは、私がどのようにして詐欺の被害に巻き込まれたのか、その一部始終を記したものです。


2023年8月15日(火)

休日の予定

この日は仕事が休みでした。火、水と2連休を頂いた私は、日頃の疲れを癒そうと秋葉原に遊びに行く予定を立てました。
最初に立てていたスケジュールは以下の通りです。

10:30頃 秋葉原到着

12:00頃まで ゲームセンターで時間を潰す

12:00 昼食

13:00 予約したバーで遊ぶ

18:00 バーを出る

18:30頃 家電量販店で買い物をする

19:00頃 帰宅

偶然の出会い

秋葉原に着いてゲームセンターで遊んでいると、初対面の男が声をかけてきました。クロムハーツのメガネにマーチンのブーツ、ヴィトンのバッグを身に着けた大柄な男でした。彼とは共通のゲームの話題で意気投合し、そのまま勢いで連絡先(LINE)を交換しました。

その後、私は昼食を取るために、その男と一緒に飲食店に入りました。そこで色々な話を聞きました。

・名前は植森 貴徳(うえもり たかのり)
・年齢は36歳
・フリーランスの不動産屋 家はマンション兼個人事務所
・生まれは大阪の西成区で昔はヤンチャしていた
・羽振りがよく3日で150万使ったこともある(そう言って、札束の写真を見せられる)
・19歳の時に親と縁を切ってから1人で暮らしてきた
・母が闇金で借りた400万を肩代わりした

その他にも、彼から出てくるエピソードは、どれも濃いものばかりでした。

この時、私は食事を注文したのですが、何故か彼はしていませんでした。
というのも、財布を盗まれてしまったというのです。更に、家の鍵もそこに入っており、4日もの間締め出されているというのです。警察には既に届け出たが取り合ってもらえなかった、今持っているバッグも拾ったものだと言っていました。

この時はまだ、「大変だなぁ」ぐらいにしか思っていませんでした。

その後、遊ぶ予定のバーまで送ってもらい、「用事が終わったらLINEする」と約束し、そこで一旦分かれました。

感情はぐちゃぐちゃになる

18時に再び彼と合流した後は、家電量販店で買い物をしました。そこにも彼はついてきました。その後は、「秋葉原を案内する」と言われ、駐車場・公園・駅ビルと、話しながら場所を転々としました。

その中で彼は、生活の困窮を訴えてきます。
既にトイレで吐いてる、足にマメができている、このまま外で10日過ごすか友人がいる大阪まで4日かけて歩かないといけない、なけなしの金はもう使ってしまった、何か悪いことをして警察に捕まった方がいい………そんな言葉を並べていました。そして、私にこう問いかけました。

「こんな状態で、生きていられると思う?」

私の感情は、既にぐちゃぐちゃになっていました。ただ普通に遊んで帰るはずが、こんなことに巻き込まれるだなんて思いもしませんでした。このまま彼を見捨てて帰ったら後悔する。この時点で正常な判断ができなくなった私は、こんな事を思いました。

自分ならこの人を救えるんじゃないか

そして、勢いのままに言いました。

「私が今日の分のお金を出します」

そして私はお金を渡した

彼は一度断りました。「君からお金を借りるような真似は絶対にしない」と言っていました。

私は「自分のことは気にしないで」と続けました。この時の自分は彼を助けることしか頭にありませんでした。

彼と一緒に、どうしたらこの状況を打開できるか相談をしました。そして、彼はこんな事を提案してきました。

・今日はお金を借り、ネットカフェに泊まる
・明日、鍵屋に頼んで自宅兼個人事務所の鍵を壊してもらう。
・自宅にある私物(時計)を質屋に出して、お金を返す。
・家族に聞かれた場合、説明は必ずする。借用書も書く。

この方法なら助かるかもしれない。私は彼の提案に乗りました。そして、今日をしのぐ為のお金を用意するため、財布を出しました。

1000円じゃ足りない、とりあえず3000円、いや、もしも落としたりしたら終わり、1万円札ならある、お金は多いに越したことはない、今渡しても問題ない、明日には帰ってくるのだから………

私は、彼に13,000円を渡しました。

その後、明日の約束を決めました。「鍵屋代を引き出すためのキャッシュカード、質屋で必要になる身分証明書、この2つを持ってきてほしい。」私はそれを引き受けました。

時間はもう20:00を過ぎていました。今日はもう帰って、続きはまた明日にしようということになり、彼の無事を祈りながら、秋葉原を後にしました。

絶望

帰りの電車の中は、ずっと彼のことを考えていました。自分だけが彼を救える、そう思っていました。もし家族にばれてしまえば止められる。このことは秘密にしよう。そう決めました。

家に帰ってから、親に「急用ができたから、明日も外出する」と伝えました。すると「急用って何?」と聞かれたので、その場を濁そうとしました。すると、こう聞かれました。

「家族に言えない用事って何?あんた何かおかしいよ」

私はしくじったと思いました。このままでは家族に止められてしまう。挙動不審の私に対して、親は続けました。

「何があったのか、ちゃんと話しなさい」


私は、事の顛末を全て話しました。

「あんた馬鹿じゃないの!?」

そう言われても、私は必死にお願いしました。私の助けを求めている人がいる。行かせてほしいと。すると、親は言いました。

「どうしてお金が無いのにゲームセンターにいたの?」
「どうしてブランド物のバッグやスニーカーを身に着けているの?」
「彼は何日も外にいるはずなのに、どうしてそんなに身なりがきれいなの?」

私はようやく、彼が論理的に整合性の無い行動をしていることに、気がつきました。


こうして、私はお金を騙し取られました。


気づいた時には、もう遅かったです。私は涙が止まりませんでした。

2023年8月16日(水)

放心状態

詐欺に遭った翌日、私は放心状態でした。幸いにも仕事は休みでしたが、外には一歩も出られませんでした。いつもより寝ている時間も長かったです。彼とやりとりしていたLINEはブロックしました。

警察に連絡する

心を落ち着けてから、#9110(警察相談専用電話)に電話をして話を聞いてもらいました。そして、秋葉原を管轄している警察署につないでもらい、今回の事件を情報網として扱っていただけました。
被害届を出すこともできたのですが、そんな気力は私に残っていませんでした。


詐欺被害を振り返る

寸借詐欺とは

今回の件で、私は「寸借詐欺」の存在を初めて知りました。

寸借詐欺(すんしゃくさぎ)とは、「財布を落とした」「交通費を忘れた」などとうそをつき、相手の善意につけ込んで、金銭をだまし取る行為のことをいいます。

https://keiji-pro.com/columns/218/

被害者の立場に立って、「寸借詐欺」の典型的なケースを紹介します。
ある日、街を歩いていると、見知らぬ人物が声をかけてきます。「寸借詐欺」の行為者は切羽詰った様子を装い、「財布を落としてしまった」、「財布をスリにすられてしまった」などと、手持ちの現金がなくて困っていることを被害者に伝えてきます。
その相手は見も知らぬ人ですが、一見して「詐欺」を行うような人には決して見えないことでしょう。そして行為者は、「帰りの交通費を貸して欲しい」などと、数千円から2~3万円の現金を要求してきます。
後で返すつもりであるという証明として、名刺を渡したり、携帯電話の番号を教えたりしてきますが、その名刺に書かれている内容は虚偽、携帯電話も繋がらないか、あるいは繋がっても相手が出ることがないものです。
お金を騙し取られたと気づくのは、約束した連絡が来ないと電話をしてみた時でしょう。

https://www.keijihiroba.com/crime/welsher.html


一歩間違えれば…

もし私が家族に止められていなかったら、被害に遭った翌日も秋葉原に行っていました。

・鍵屋に頼んで自宅兼個人事務所の鍵を壊してもらう。
・自宅にある私物(時計)を質屋に出す。その際、身分証明書を借りる。

そう彼は言っていました。しかし、実際はこうだったのではないでしょうか。

・自宅兼個人事務所と偽り、見ず知らずの家の鍵を壊す。
・その家にある金品を盗み、質屋に出す。

これは、住居侵入罪・窃盗罪・盗品等関与罪にあたる、れっきとした犯罪行為です。

一歩間違えれば、今頃私は犯罪者でした。

また、質屋では私の身分証明書を使われる所でした。仮に警察が動いたら、私が突き出されていたことでしょう。

詐欺師の騙し方

彼は「お金を貸してほしい」とは一言も発しませんでした。代わりに、生活の困窮を何度も訴えることで、相手からお金を出させるように思考誘導していました。「お金を借りるような真似はしない」という言葉も、その一つです。これが、「向こうからお金を渡してきた」かのように演出する、リアルな詐欺師の手口です。

普通だったら耳にしないエピソードを次々に並べていたのも、相手の感覚を麻痺させようとしていたからです。普通に聞いたらありえないような話でも、思考誘導された状態では全て信じてしまうのです。
そもそも、初対面の人にお金を渡すこと自体がおかしな話ですが、現に当時の自分はそれに気がつかなかったのです。
第三者(ここでは家族)が介入したことで、ようやく詐欺だと分かりました。

どうして大金を渡したのか

詐欺にあったとはいえ、13,000円も渡すことは無かったはずです。どうしてあんなに大金を渡してしまったのでしょうか。

当時は仕事があまり上手くいっておらず、そのことで毎日苦しんでいました。私は本当に役にたっているのか、そう悩む私の元に、助けを求めている人が現れました。

これで私も誰かの役にたてる
困っている人を助けるヒーローになれる

そう思ってしまったのが最後でした。私は心の弱さにつけ込まれて、まんまと弄ばれてしまいました。

傷ついた心

お金を騙し取られたこともそうですが、休日の楽しい思い出を台無しにされたことも辛かったです。

仕事中も、うわの空でミスばかりでした。気持ちが沈んでいる間も仕事はしなければいけない、公私混同してはいけない、当たり前のことだと分かっていても心がぐちゃぐちゃのまま仕事をしなければならなかったのが辛かったです。

「家族より初対面の人を優先されてショックだった」
親に言われた言葉です。ただ詐欺に騙されただけじゃなくて、家族までも裏切ってしまった。その事実が残るだけでした。

一生のトラウマ

私は今回の件が完全にトラウマになりました。今も、ふとした瞬間に思い返しては憎しみ、心を痛めています。「15日」や「火曜日」という日付も、詐欺を思い出す引き金の一つです。この先も、詐欺のトラウマを抱えながら過ごしていくことでしょう。

今回の教訓

今回の件で得た教訓です。
まず、自分が人の話を信じやすく騙されやすい点を自認すること、そして、違和感を感じたら、理由を考える前にとにかく逃げることです。「何かヤバそう」と感じたら、その直感を信じて逃げる。それが、自分の身を守ることにつながるのです。

救いだったこと

詐欺の被害には遭いましたが、まだ取り返しのつく範囲の被害で済みました。
自分が踏みとどまれたのは家族のおかげです。あの時家族が守ってくれていなければ、取り返しがつかなかったです。
「気持ちが落ち着くまで時間はかかると思うけど、忘れなくていい。きっとどこかで役に立つ場面が来る。」
親はそう言ってくれました。その言葉が、せめてもの救いでした。


おわりに

いかがだったでしょうか。荒削りな文章ながら、なるべく分かりやすいように、簡潔にまとめました。
このnoteを書こうと決めたのは、寸借詐欺について書かれた記事が少ないと感じたからです。自分の経験が少しでも誰かの役に立てばと思い、執筆した次第です。
犯罪の被害に遭うことを練習することはできません。だからこそ、常日頃から対策を講じておくことが大切です。
皆さんも、くれぐれも詐欺には気をつけてください。



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