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現行上演のない浄瑠璃を読む

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人形浄瑠璃文楽での現行上演がなく、テキストでのみ残っている浄瑠璃を読んだ記録。
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#近世演劇

浦島年代記(うらしまねんだいき) [現行上演のない浄瑠璃を読む #9]

初演=元禄13年[1700]or 享保7年[1722] 大坂竹本座 作者=近松門左衛門 この記事初の近松物。 タイトルからわかる通り、浦島太郎伝説の翻案だが、半分くらいは安康天皇とその子を身ごもった女御と跡を継いだ雄略天皇の話。全体的にファンタジックな話運びで、おとぎ話めいている。 ■ 安康天皇・雄略天皇兄弟まわりの話は『日本書紀』などの内容をそのまま踏襲して劇化している……わけではないようだ。何か先行する物語から取っているのか、それともオリジナルなのかは自分に

伊達競阿国戯場(だてくらべおくにかぶき)[現行上演のない浄瑠璃を読む #8]

初演=安永8年[1779]3月 江戸肥前座 作者=達田弁二・吉田鬼丸・鳥亭焉馬 今回は、並木宗輔作品以外から。 伊達騒動+累伝説をマッシュアップした内容で、同名の歌舞伎の浄瑠璃化。 時は室町時代、足利家のお家騒動として設定しなおされている。伊達騒動を軸にしているため『伽羅先代萩』とストーリーが近しいが、現行「御殿の段」にあたるエピソードはない。 隠居したがる将軍義満、傾城高雄にうつつを抜かす弟頼兼によって、幕府の内情は不安定になっている。彼らは仁木弾正ら計算高い佞臣たち

後三年奥州軍記(ごさんねんおうしゅうぐんき) [現行上演のない浄瑠璃を読む #7]

初演=享保14年[1729]正月 大坂豊竹座 作者=並木宗輔、安田蛙文 後三年の役に取材した内容。八幡太郎義家・加茂次郎家綱兄弟と、奥州の清原武衡・家衡兄弟の戦いを描く。 戦国時代物にあるような、華やかな武将の活躍や知略に秀でた軍師が奇抜な策で窮地を切り抜けるとかの話は一切なし。ひたすら人々が悩み続ける、ものすごく地味で後味悪い系の話。『南都十三鐘』より不条理感がさらに増幅している。 ■ 敵方の家臣に姻戚関係があるため「自分は敵方に内通していると疑われているのでは」と後