メイドカフェでバイトしてみたおはなし
大学時代、1年半ほどメイドカフェでアルバイトをしていた。
今までの人生の中でもピーク級に楽しい経験だったと言える。
そんな私の、短いメイド人生のおはなし。
※全然夢のない内容になっているので、メイドカフェが好きな方が読むのはおすすめしません。
メイドカフェで働こうと思ったのは
ずばり、「ちょっと変なことしてみたかったから」。
人生の夏休みといわれる大学時代なら、何をやってもいい経験になるのではないかと思い始めてみた。
それと、私は留学に行くお金も、ボランティアに参加するような善良な心も持ち合わせない、金銭的にも精神的にもに貧乏な大学生だったため、
就活のときに話せる少し変わったエピソードが欲しかったのも一つ。
(ちなみにこの変なエピソードのおかげで結構面接通った。)
テキトウなのか、戦略的なのか分からない理由で始めた、メイドカフェでのアルバイト。
何度も言うが、ほんっっっっっっっっとうに楽しかった!
私が文部科学大臣とやらになったら、義務教育の中に組み込みたいくらい、
ぜひ若者におすすめしたいアルバイトだ。
何がそんなに楽しかったのか?
可愛い格好ができる、とか
可愛い髪形ができる、お化粧ができる、とか
そんなことではない。
「とにかく全力でヘラヘラしていることが許される場所!」
集約するとこの一言に尽きる。
少し話は逸れるが、私はさくらももこさんが大好きだ。
さくらももこさんの世界観で生きていたい、と常に思っている。
メルヘンの国の住人。
つまり、ヘラヘラすることが大好き。
メイドカフェって、"日常を感じさせちゃいけない場所"。
だから、真面目に会話したらダメ。
真面目に会話したらダメなんだけど、
あまりにトンチンカンなことを言っても面白くない。
"的を射ているものの、浮世離れしたおしゃべり"が求められる。
メイドカフェの【よくあるご質問と回答例】を挙げるならこうだろう。
お客さん「大学生?」
私(メイド)「魔法学校に通ってるニャン♡」
お客さん「彼氏いるの?」
私(メイド)「毎日夢の中で王子様とデートしてるニャン♡」
お客さん「給料いいの?」
私(メイド)「はにゃ?コンペイトウさんなら毎日3つもらってるニャン☆」
あとは「どこ住み?」「何線?」「何歳?」などなどもよく聞かれる質問だが、
これらは冷やかしで初めてくるようなお客さんにされることが多かった。
メイドのことを舐めてもらっちゃ困る。
そんなことじゃメイドたちは崩れない。
「毎日伊達にヘラヘラしてるわけじゃないんだ!こちとらヘラヘラの歴が違うんだよ!」
とヘラヘラの格の違いを見せつけんばかりに、冷やかしのヘラヘラには倍以上のヘラヘラで返す。ヘラヘラはヘラヘラでぶちのめす。
強くたくましく真面目にヘラヘラしているのがメイドという生き物なのだ。
(言い過ぎ)
そんなこんなで、頭は使うけれども
毎日ヘラヘラすることが許される日常がとても楽しかった。
メイドの仕事って簡単そう?
ここまで「ヘラヘラすることが仕事」と強調すると、簡単な仕事だと思われそうだが、そんなこともない。
メイドの仕事内容については、ある程度みなさんのご想像通りだと思う。
しかし奥が深い。
実際にメイドをしていて分かった仕事の流儀を、一つずつ解剖していこうと思う。
①配膳
②美味しくなるおまじない
③おしゃべり
④チェキ
⑤ダンス
①配膳
単純に飲み物や料理を運ぶ。
だけではない。
ご存知の方も多いだろうが、ラテやオムライスに、チョコソースやケチャップでお絵描きをするのもお仕事の一つだ。
お客さんが描いてほしいものは何でも描くというスタンスなのだが
「北斗の拳のケンシロウを。」
とかリクエストされると、
「ピカチュウでもいいですか?」
と返したくなる。
(メイドは大体ピカチュウなら描ける)
だけど頑張ってケンシロウを描いて、かなりの高確率で
”となりの部署の斉藤くん”みたいなケンシロウができ上がる。
そして「許してニャン♡」とか言ってヘラヘラするしかなくなる。
メイドのお絵描きに期待しちゃいけない。
②美味しくなるおまじない
「おいしくな~れ♡ 萌え萌えキュン♡」
という例のアレです。
(実はこれ「あいこめ」という正式名称がある)
多くの人がこのセリフしか知らないと思うが、
お客さん(さっきから私は”お客さん”と連呼しているが、本来は”ご主人様”、”お嬢様”)に楽しんでもらうために毎回配膳ごとに変える。
「おいしくな~れ♡ メロメロキュン♡」とか、「ラブずっきゅん♡」が多いが、
ネタがなくなってくると「ニャンニャンニャン♡」とかどんどんテキトーになる。
(勘のいい方はもうお気付きかもしれないが、メイドカフェは大体ニャンニャン言っておけばどうにかなるだろ、みたいな節がある。)
それを防ぐためにも、メイドは自分のキャラ設定にあったオリジナルおまじないを持っていることが多い。
私もオリジナルを5種類くらいは持っていた。
意外とみんな工夫を凝らして、楽しんでもらおうと頑張っているのだ。
もちろんヘラヘラしながら。
③おしゃべり
冒頭の「よくあるご質問と回答例」でも紹介したような、ヘラヘラしたおしゃべりが日々繰り広げられているのだが、
お客さんはこの異様な空間に、ヘラヘラしたおしゃべりを求めて来ていると言っても過言ではないと思う。
そして、ヘラヘラしたおしゃべりは、ただ無意味にヘラヘラしているわけではない。
緊張をほぐすという大事な役目がある。
初めてメイドカフェに行くときは、やはりドキドキするものだ。
私も最初はそうだった。自分が働くことになるなんて思ってもいなかった。
それに、初めて体験する異様な空間の楽しみ方も分からない。緊張MAXだ。
その高揚した緊張感をほぐして、”楽しい!”に変換し、楽しみ方を教えてあげられるのがおしゃべりという大事な仕事だ。
例えば、
メイド「今日はどこから来てくれたニャン?♡」
お客さん「す、杉並の方から…」
メイド「すぎなみ?初めて聞いた場所だなぁ。私はお空の上からきたニャン♡」
といったような。
初めての異様な場所に緊張して、すべてが不思議だけれども質問すら思い浮かばないお客さんに対し、
こちらから設定を明かしに明かして楽しみ方を提示する。
一朝一夕にできる技ではない。
さらにメイドの仕事のすごいところは、これを外国人観光客向けに英語でも披露することだ。
海外から来てくれたお客さんに対し、「私英語できないから」という理由でスルーを続け、日本人とばかりおしゃべりしていたら「日本人しか楽しめない場所」という印象を与えてしまう。
つたない英語でも、"meou meou♡"(英語でニャンニャン)しか言えなくても、笑顔で話しかけるしかないのだ。
海外からののお客さんとも、日本人の初めてのお客さんとも、常連さんとも、平等かつ内容を変えておしゃべりできて、
みんなが笑顔で帰ってくれたときの達成感といったらない。
おしゃべりこそ最も奥が深いお仕事なのだ。
④チェキ
メイドカフェに来た人の思い出として一緒に写真を撮って、
メイドがお絵描きをするという商品。
だいたい1枚500~800円が相場かなと思う。(つくづくいい商売だな…。)
実は、初めて来た人には、”初めて来た人向け”のポーズや”お絵描きのテンプレート”があるため、さほど大変な仕事ではない。
チェキで難しいのは、常連さん= オタク 向けのものを撮るときだ。
チェキには、オタクとメイドが2人で写るツーショットチェキと、メイドがソロで写るソロチェキがある。(ブロマイド的な)
自分の出勤時ほぼ毎日来るオタクのために、変わったチェキのネタを提供し続けなければならない。
ただ毎回ピースして写真を撮っているだけではダメなのだ。(それはそれで面白そうだが。)
そこで私がやっていたのは”シリーズもの”。
・50音制覇して「推しかるた」を作ろう!
・47都道府県 ご当地推しチェキ!
・推し山手線一周!
などなど。
シリーズチェキのいいところは、ネタを考えるのに頭を絞らなくていいだけでなく、
1日1枚しかチェキを買わなかったオタクも、コンプ目指して複数枚買ってくれるようになるところだ。
このように、一応お店の売上や自分の売上のことも考えなければいけないお仕事のため、色んなところで工夫が求められる。
社会人になる前の経験としても、すごく成長できた仕事だと思う。
⑤ダンス
メイドカフェというサービスができ初めのころと比べ、メイドカフェはもはやオタクの文化ではなく、エンターテイメントをお届けする場所という要素が強くなっているのではないだろうか。
その証拠に、どこのメイドカフェにもほぼ、ダンスを披露する時間がある。
お客さんを楽しませるために無償でおこなっているお店もあれば、商品として提供しているお店もある。
商品としてのダンスの相場は、だいたい1曲3,000~4,000円かな。(つくづくいい商売だなぁ…。2回目)
私はそれまでダンスなんて、文化祭で嫌々やらされるくらいしかやったことがなかったのだが、メイドカフェで働き始めてからは毎日ガンガン踊っていた。
6時間のシフト中、通常時で3~5曲程度。
忙しいときは10~20曲くらい踊る。
おおよそ1時間に2回くらいはダンスタイムがある計算だ。
今改めて思い返すと、自分の人生の中に「1時間に2回くらいダンスタイムがある期間」があったことが可笑しくてしょうがない。
あの図書委員長だった私に…。
ダンスの振り付けだが、どのように習得するのかというと、”おどってみた動画”などを見て自分で練習する。(ダンスレッスンを開催しているメイドカフェもある。)
ど素人の私が振り起しから始めるのだから、たいそう時間がかかる。
1曲覚えるのに、1日3時間くらい練習して、簡単な曲は1週間程度、
難しい曲は2~3週間程度かかる。
(そして何度も心が折れる。)
つまり、時間外労働も多い。
3時間×7日間で、時給1,000円だとしたら、
1週間に21,000円、1ヶ月に84,000円分の労働をしている計算になる。
1年間で約100万円の貯金は余分にできていたかもしれないのだ。
今考えると、こんなに時間使ってたんだなぁ…と思うが、全く後悔はしていない。
むしろ、こんなに打ち込めることがあって、それをお客さんの前で披露して、披露すれば披露するごとに自分も上手になって、
お客さんもさらに喜んでくれて(オタクは推しの成長が自分のことのように嬉しい生き物なのだ)、
その流れが自然とできていたのは、本当にかけがえのない経験だった。
ダンスのおかげで、社会人になった今もよほどのことでは緊張しないし、
人前に出ても堂々と笑顔でいられる。
そのせいか、この間初めて会った人に「肝が据わっていますね、30代後半くらいかと思いました」と言われたくらいだ。(こちとら20代前半のピチピチ☆ギャルなのに!)
今回は5つのお仕事にまとめてみたが、ほかにも工夫や努力が求められるお仕事がたくさんある。
(ポスターや写真集作ったり、グッズ考えたりね…。)
だから、決して簡単なお仕事ではない。
でも真面目にヘラヘラやっていれば、これほど楽しいバイトはほかにない!
働いてみようかな、と思っている人にはぜひおすすめしたい。
まとめ
すばり、メイドカフェでバイトしてみたことで得たものは、人生5年間分ほどの経験である。
これでもか!というくらい、濃い時間を過ごせた1年半だった。
1年半という時間は、自分の過ごし方で5年分にもなり得ることを知った。
メイドカフェという、いささか異様でヘンテコな日本の文化だが、
私に教えてくれたものは大きい。
まだメイドカフェに行ったことのない方は、ぜひ一度足を運んでほしい。
そして、異様な空間を体験した感想をシェアしてみてほしい。
オムライスに描かれた”となりの部署の斉藤くん”の写真とともに。
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