俺の「伊藤綾子」

「オールナイトニッポン」などを聞き狂っていた俺は、いつの日か、ラジオのパーソナリティなるものに挑戦したいと思っていた。


俺が使っている音楽制作アプリ「ガレージバンド」には「podcast」というテンプレートが用意されていて、簡単にラジオ番組を作ることができる仕様になっている。その機能を使って、ラジオ番組を作ってみたのだが……。

これは「A-wave」でも話したことだが、俺はひとり語りが照れくさくて出来ないことが分かった。ラジオ制作はあきらめるか……と、その時ふいに頭の中に「もうひとり用意すればいいじゃないか」というひらめきが訪れた。といっても文字通り誰かに協力してもらって「もうひとり」にするんではなく、ガレージバンドに「ボイスチェンジャー」機能がついていることを知っていたので、俺自身が「もうひとり」になればいいじゃないかとひらめいたわけだ。

ガレージバンドの機能により、「もうひとり」は用意できた。この女子役の方に名前をつけなくてはなにかと困る。ところがここでも俺の変な自意識が働いて、自分で名前をつけることができない。女子ボイスの方は「メインパーソナリティ」なる役割を与えようと思っていたので、女子アナっぽい名前がいいなと漠然と考えた。が、俺はテレビを見ないので女子アナを知らない。

そこで、女子アナに詳しい知り合いに「今、イケてる女子アナ誰よ?」と聞いてみた。
「まだあんま売れてないけど『伊藤綾子』って女子アナがおすすめ」とのこと。伊藤綾子か……藤江の「藤」がつく名前だし、いいねえ……というわけでそのまま拝借、ボイスチェンジャー側は「伊藤綾子」と命名された。

ひとり番組「A-wave」は最初から手応えがあった。そして気がつくと60回を越えていた。60回を越える「A-wave」を作ったせいなのだろうか、いまや俺の中では、ボイスチェンジャー側は「伊藤さん」という別人格になっているようだ。伊藤さんは人気もある。羨ましいとすら思う。

「シン・ゴジラ」をひとりで見に行った時のこと。なんだか隣に伊藤さんが座っているような感覚に襲われた。そして伊藤さんならこの映画にどんな感想を抱くのだろう……なんて想像している自分がいたりして。

少し精神的に危ない領域に入っているのかも知れないが、俺は、俺の中の伊藤さんが好きだ。しかし、一方で伊藤さんが人気者になることに嫉妬している俺もいる。

ま、伊藤さんとはこれからもつき合っていくつもりなので、みなさん、これからも「A-wave」をよろしく!

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