藤井昆

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藤井昆

言葉は日々生まれます/ fujiikon.poet@gmail.com/ Twitter : 藤井昆

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雨の中へ

ボローニャからミラノ 春のロンバルディア平原を 列車がすすむ 通り過ぎてゆく緑の平原 糸杉が空をさして並ぶ はるか行く手に立ちこめる雲 列車がすすむにつれて 厚く、低く そのうちに私たちは 灰色の雲に覆われる 尖塔も 町も 列車も、私も 記憶の中の あなたも すっぽりと雲の中だ 私はあなたにメールを書く 遠い京都のあなた 雨が降りそうです 雲が下りてきています ロンバルディア平原に 雨が降りはじめた 記憶の中の京都にも 雨は降っている 列車は走り続ける

    • ひとりきり

      風がやんだ あれだけ強く吹いていた風がやんだ 木の梢はもう そよとも音を立てず 小さな子どもが お父さんに話しかける声と 鳥のさえずりが ひびいている 自転車のチェーンを軽やかに回して だれかが家の前の道を走りぬけてゆく わたしは窓に向いて座り 目をとじてそんな音をきいている まぶたの裏に 明るい日ざしを感じながら

      • 明るい月のこども

        明るい月の夜に明るい月のこどもを産んだ 明るい月の夜に明るい月が体に入り そして明るい月のこどもとなって月が満ち ある明るい月の夜に 明るい月のこどもが生まれた 私の明るい月のこども 私の明るい月のこども

        • カラス

          朝の五時 灰色の靄の中を 羽を広げたカラスが舞い降りる 夢とひとつづきの朝 カラスを肩に載せて 食事を作り 洗濯をする ニュースを見ながら カラスを載せていることなど 忘れてしまった頃に 着替えて家を出る 黒いものがひろがる光景だけが 目の奥に沈んでいる 仕事が始まれば カラスはもう飛び立つ支度だ 午後、黒い影は飛び去っている 夢とひとつづきの朝 大きな羽を広げて 再び舞い降りて来るまで

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        雨の中へ

          自らの命で生きるものは

          しっかりと抱きしめていたはずの 言葉が わたしを振りほどいて 走っていった 笑いながら するりと身をよじって わたしの腕から 逃げ出していった みどりしたたる五月 かろやかに うたうように 自由になった言葉は きらめき 弾けて 自らの命を生きる およそ全ての 自らの命で生きるものは そのものが そのもので美しい 走り出した言葉の 笑い声が 高く低く こだましている

          自らの命で生きるものは

          this is where I belong to/ reading

          this is where I belong to/ reading

          this is where I belong to/ reading

          this is where I belong to

          I had a dream, without words I had a dream, without words, in your arms I had a dream, where, something round and warm floated in the bright air, without words I had such a dream, without words, with your arms, tightly

          this is where I belong to

          言葉と生きていく

          子鹿のようにブルブルと震え 喉をカラカラにして 大都会に 大海原に 大宇宙に 地球ほどもある 巨大な拡声器で ありったけの声で 自分の言葉を拡散して そこで何が起きたのかと言えば 火山の噴火ではなく 魔女狩りでもなく ビッグバンでもなく ましてや焚書坑儒でもない いつもの食卓での いつものような晩ごはん 今夜のメニューは おいしいパスタと 一杯の赤ワイン そして ちょっと上手に作った春野菜のキッシュ パスタは白ワイン風味で 帆立にイカ、ブロッコリーに 小松菜まで

          言葉と生きていく

          ことばとわたし

          ことばとわたしは 不可分なのだと 思っていたけれど 実際の関係はといえば 強くも弱くもあるわけで ことばがあって わたしがいて わたしがいるから ことばがあって ことばがないのに わたしがいて わたしはいなくて ことばがあって ことばとは  どんなふうにも  軽く重い わたしとは  どんなふうにも  重く軽い

          ことばとわたし

          鍵をかけることにしました

          鍵をかけることにしました ええそうなんです  鍵をかけることにしたんです だってまあそうじゃないですか  さわがしくてうるさくて 外は知らないものばかり  だから今晩はもう  自分のこころに鍵をかけてしまって  だれも入れないようにするんです  こどもも お母さんも 恋人であってもです そういう大切な人でも 入ってこられないように 鍵をかけてしまうんです 最初に入ると赤い小さな部屋がありますね まずはそのビロードの扉に鍵をかけるんです 赤い部屋の奥まで進み  別の小さな扉を

          鍵をかけることにしました

          睦月、凍てつく冬の夜

          睦月、 凍てつく冬の夜 暗がりの 巨大な地蔵の前の水入れに 水仙の こんもりとした花束が 投げ込まれていた 見上げる地蔵に至る階段には 冬菊の大きな花束が 一つ 二つ 三つ 四つ 段々になって飾られていて 凍える風に さわさわと揺られていた そこでまた  どうと どうっと 強い風が吹き 顔の見えぬ地蔵の 巨大な涎掛けや 数多の幟を ざわざわと揺らした どこから来た風なのか これはどこから来た風なのか そして わたしはどこから来たのだろうか やがて わ

          睦月、凍てつく冬の夜

          春 四句

          春が来たのだ ものみな芽生く春が こころ置かむ 街の音包み消し去る春雨の中に やはらかき春雨には 木肌やはらかく濡れてゆく 春闇の奥なる小さきひとつの灯り

          春 四句

          逆光 四句

          皮膚一葉 あふれる水を 湛えおり 逆光に 眼を閉じふれる のどぼとけ なぞれるは 逆巻く海か雷か 曇天に 重く朽ちゆく 秋薔薇

          逆光 四句

          光あふれる場所

          ふたりでさまよう森のなか 急にひらけた斜面には 燦燦と 太陽の光が 燦燦と 降っていた 緑の草が風にそよぎ 木立を通して光が降り注ぐ とおく ちかく 鳥のさえずりが響き 鳩のくっくうという声が 規則正しく 私の背中を 光あふれる場所へと押しやってゆく 時空をとびこえて あらわれた 光が照らす場所 私とあなたはふたり 互いの思い出を抱えながら 立っているのだ この場所でもうすこしだけ待ってみよう 私のなかで蔓がのびてゆく

          光あふれる場所

          あたたかな暗闇

          早朝の町には音が少ない 遠くの鳥の声 ざーという、町から立ち上る気配 東からのすきとおった光が町を照らし 家々に、電柱に、街路樹に 今日の恵みをもたらしてゆく 私は思う、ある山の朝を 十八歳、夏、ある山小屋の早朝 光は同じように私たちを照らしていた 私は思う、ローマの遺跡に差しこむ朝の光を 二十六歳の私は まばゆい光の中で立っていた 私は思う、息子の生まれた朝を 私に抱かれた小さな赤ん坊はまだ 病院の屋根を照らす光のことなど知らずに すやすやと眠っていた

          あたたかな暗闇

          十字路

          夜の道は どうしてこんなにも懐かしいのだろう 駐車場の車の周りに落ちる静寂 木々の密やかな呼吸 鈍色の闇に溶け込む街灯 どこからか聞こえる虫の声 路地の奥の小さな暗闇 遠くの十字路に人がよぎる ああ この世の十字路を 人がゆっくりとよぎって行く この世の時間の 通り過ぎる音が 静かに 響き渡っている