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【書評】『政界再編』(山本健太郎、2021)を読んで。

▮1993年の細川連立内閣の成立前夜からの30年間を振り返る

「日本政治を動かす力学とは」というキャッチコピー。「離合集散の30年から何を学ぶか」という副題。

序章は政界再編前史として1955年から1988年までについて。保革合同と55年体制や田中角栄政権の金権政治批判や新自由クラブ、社民連などのミニ政党に触れて昭和の政界再編の傾向について触れています。

第1章は政界再編のはじまりとして、1988年から1994年の選挙制度改革をめぐる自民党分裂。小選挙区比例代表並立制成立後に生まれた細川政権について。
第2章は新進党の挑戦と挫折について。1994年から1997年。自社さ連立政権、新進党の盛衰、第1次民主党について。
第3章は3つの民主党と題して、1998年から2005年にかけての民主党の変遷について。ちょうどこのころ森内閣や加藤の乱、マニフェスト選挙の登場、小泉政権の成立と郵政解散について触れられています。
第4章は政権交代として2005年から2009年のことを。第5章は2009年から2011年の鳩山・菅の民主党政権について。第6章は崩壊する民主党政権と題し、東日本大震災、野田内閣と税と社会保障の一体改革論争、そして民主党の政権陥落。
第7章は、一強自民と多弱野党として2012年から2017年の第2次安倍晋三内閣について。野党の離合が続き選挙準備が整う前に選挙をうち長期政権を実現した背景を書いています。
最後の終章で政界再編とは何かとしてまとめています。

▮ 読後感

平成の30年間の政界史が簡潔にまとめられている印象。私の場合は1日2,3時間で3、4日かけてサクッと読めました。あらためて平成時代の政界史を振り返りたい方には、気軽でいいと思います。

宮澤喜一総理への不信任決議案への反対・棄権を実行した羽田孜、小沢一郎の誤算(決議案へ賛成した上で離党した武村正義らによる新党さきがけ結成)や、自自公連立、民主党小沢幹事長による大連立構想など、いま思い出すとなんだか懐かしい。私は滋賀出身ですので、新党さきがけの躍進は少年期の記憶に残っています。

小選挙区比例代表並立制による二大政党制をめざした選挙制度改革は、大政党有利です。小政党は大同団結を目指すが、大同団結をしたひとつ屋根の下の小政党群は分裂の要素を内在しています。大同団結政党は選挙で勝っているうちは求心力を得ますが、一旦退潮となるや遠心力が働き、大同団結により成立した政党は分裂の危機に瀕します。新進党や政権陥落後の民主党はそうした力学が働いてきました。野党(にしろ与党も)は勝ち続けなければ一体感を保てないのだと思います。

いまでさえ、結構左に寄ってしまった感がありますが、政権奪取前の民主党は、小泉政権相手にもヒケを取らない互角以上の戦いをしていたのを思い出しました。今更ながら当時の民主党の期待感は大きかったです。

「国民の声」や「フロムファイブ」、「新党改革」など波間に出ては消えた数多の新政党についても、ほぼ漏れなく本には触れられています。もちろん、「みんなの党」のこともそれなりの紙面を割いて触れられています。大局からみると、キャスチングボードを握れないほど当時の自民党が強く、またすぐあとに「日本維新の会」が結党して失速してしまったことが分かります。よく考えたら2009年にできて2014年に解党したのであっという間の出来事でした。

また、「日本未来の党」や「希望の党」についても書かれています。特に「希望の党」は、久しぶりの大規模な中道政党になり得たところ、排除の論理で「立憲民主党」を生んだことで、速攻で命脈が尽きてしまいました。かくして自民党一強政治が民主党政権後、続きます。

緊張感を持った政治を目指して、小選挙区比例代表並立制が敷かれて早くも30年。著者は「政界再編は、なお道半ばである」と述べています。
私も”よりよい統治”のためには、二大政党制が本来は好ましいと考えます。しかし、自分自身も政治に一時期身を投じていたからこそ、その道のりは果てしなく遠いと感じます。草の根では自民党は岩盤です。自民党が割れない限り二大政党制は実現し得ないのかもしれません。そして現在の政治構図を規定した1993年の選挙制度改革は、自民党の派閥争いと日本新党や新進党、社会党などによる妥協の上で成立したことを振り返ると、大変複雑な気持ちになります。日本の風土に合った選挙制度はどのようなものか、30年間を総括し見直される動きが出てもいいのかもしれません。

また著者は、野党や第三極の離合集散を顧みて、自民党のような強力な政調会、総務会のシステムを野党は整備すべきと提言しています。たしかにそれは一理あると思います。

「改革」の30年は果たして市民にとって、国民にとって改革だったのか。人口減少と高齢社会の進展、自治体財政のひっ迫など多くの問題がこの30年間しずかに確実に進んでいます。1990年代から2000年代にかけて雇用環境も悪化し、就職氷河期世代も形成されました。
ひとつひとつの政治行動は、ひとりひとりの政治家にとっての正義の行動の積み重ねによるものだったと思うのですが、それが総体になったとき、決して良いことばかりでなかったと思います。

しかし、そうした政治家や、現在の政治状況、日本社会を選択してきたのも市民であり国民だということも、表裏一体の問題です。未来の世代から評価される選挙、政治をしていかねばと思います。本著を読む動機は、「官民共創」を改めて考える前に、どういった文脈で「官民共創」が求められるようになってきたのかを、自分なりに整理するため、その背景となる政治史を改めて学ぶということがありました。

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◇藤井 哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム事務局長
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の43歳。2003年に急増していたフリーター・ニートなどの雇用労政問題に取り組むべく創業。人材紹介、求人サイト運営、職業訓練校運営、人事組織コンサルティングや国・自治体の就労支援事業の受託運営等に取り組む。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地方の産業・労働政策の企画立案などに取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。国際Aマッチ通算0試合出場0得点。1メートル68、66キロ。利き足は右。

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